今年は雨が多くて困る

「しっかし今年はなんか雨多いなぁ」

「そうですねぇ、洗濯物が乾かなくて困りますよね」

「うちの洗濯機には乾燥機がついているから問題はないな」

「くっ……そうでした……今日借りに行ってもいいですか?」

「いいけど、男の家でーとかそういうのって、普通嫌がらない?」

「くふふ、私が先輩相手に見られて困るようなものはないのです!」

「さよか……」


そういいつつ、空を見上げる。

相変わらず、空は雨模様で、地面を叩きつける音は変わらない。


今俺たちがいるのは、学園の昇降口。

普通ならば、とっくに帰っている時間である。

なぜ、俺たちが未だに帰っていないのかというと、時間は少し前にさかのぼる。


 * * *



「先輩、私ちょっと放課後、職員室に呼ばれているので、教室で待っててもらえますか?」


 お昼休み、天音から言われた事である。

彼氏彼女の関係なのであれば、彼女が来るのを待って、二人で帰るのだろう。

しかし俺と天音の関係は? と聞かれるとなんだろう。

決して彼氏彼女の関係ではない。

ならば、このまま天音が来るのを待つのは、正解なのだろうか?


空を見上げると分厚い雲が広がり、いつ雨が降り出してもおかしくない状況である。

一応、置き傘があるとはいえ、雨に降られて帰りたいわけでもない。

天音を待っていると、このままだと降り出しそうな気配もする、そうなると答えは一つ。


「よし、帰るか」

「あれ、珍しいね……今日は彼女、迎えに来ないんだね」

「宮藤さん……いつも言うように、あいつは彼女とかそんなんじゃないんだ」


ただ、付きまとわれてるだけなんです信じてください何でもしますから。


「あそこまでされてまだ付き合ってないの!?」

「付き合ってないです。だって俺は宮藤さんが好きだから……!」

「ま、またそんな事言って……彼女さんに悪いよ!」


顔を真っ赤にして視線を彷徨わせる宮藤さんはとても可愛い。

うむ、いいものを見て気分もいいぞ!


「おっと、そろそろ帰らないと……宮藤さん、また明日」

「う、うん……また明日……」


しまった、俺とした事が帰宅までにずいぶん時間をロスしてしまった。

そもそもなぜちょっとでも教室で待とうとしてしまったのか? これがわからない。

そのまま颯爽と下駄箱まで行き、さっさと帰ってしまおうとしたところで……


「あれ、先輩じゃないですか、何やってるんですか?」


…………天音に捕まった。


「おお、天音じゃないか。もう用事は終わったのか?」

「はい、これから先輩の教室に行こうかと思ったんですけど……なんでカバン持ってるんですか?」

「このカバン、お気に入りなんだ」

「……一人で帰ろうとしてましたね?」


すっと天音から目線を逸らす。

ヤバイ、バレた。


「一緒に帰るって約束したじゃないですかー! ……でもそんなところも好きです♡」

「ほんとお前のそういうところ、俺よくわかんない」

「それで、なんで帰ろうとしてたんですか」

「いやー、まぁ、ほら、雨降りそうだったんで」

「雨? 降ってるんですか?」

「降りそうってところだな……あ」


ちらっと外を見ると、ぽつぽつ、と来だしているようだった。

あー、やっぱり間に合わなかったか……。


「今日の予報、雨って言ってましたっけ」

「どうだろうな、朝に天気予報とか見てる余裕ないからわからん」

「私、今日傘持ってないんですよね……」

「そうか……それは可哀想に。じゃあ、お先」

「待ってくださいよ先輩! 先輩は傘持ってるんですよね!?」

「……置き傘が一つだけあるが……貸さないぞ?」

「相合傘って知ってますか?」

「やらん」

「可愛い彼女とくっついて帰れるチャンスですよ先輩!」

「ほんとぐいぐい来るね、お前……」


そうして、話は冒頭に帰る……。


 * * *


「先輩、そろそろ私と相合傘する決心はつきましたか?」

「いやいや、俺の傘をお前に貸すから、それで先に帰る決心をつけてくれ」

「えー、それだと先輩が濡れちゃいますよね?」

「どっちにしろ二人で入ったら、絶対半分は濡れるけどな」


俺の持っている傘はあくまで一人用なので、そこまで大きくないのだ。

近くにコンビニでもあればそこまで行ってもう一本買ってもいいのだが……。


「先輩となら濡れてもいいですよ?」

「俺が嫌なの」

「濡れすけ美少女な私……見たくないですか?」

「見たくないな……見たくないからな!?」

「素直になればいいのに」


恐ろしいことを言うな。

お前のような美少女の濡れすけ姿とかいくら取るつもりだよ怖いわ。


「……いつまでもここにいても仕方ない、か」

「ようやく決心つけてくれましたか?」

「ああ、決心がついた」


そういうと、天音に傘をすっと差し出す。


「俺はいいから使えよ、天音」

「えっ……でもそれだと先輩が……」

「ま、走って帰れば大丈夫だろ、途中でコンビニあれば寄るし」

「だから、私と二人で傘使えば……」

「それだと濡れて、天音が風邪引くかもしれないだろ? ……じゃあな、気をつけて帰れよ!」

「あっ、先輩!」


こうして、土砂降りの雨の中に飛び出していく。

天音と相合傘も惹かれないでもないが、それはそれ。

あとからお前が傘を貸さなかったせいで天音が倒れた、と怖いお兄さんが出てくるフラグは回避だ!

ふふふ、お前の好きにはさせないぜ……!



雨の中飛び出していく先輩を止められず、見送ってしまった……。


「……もうっ、先輩はすぐそういうことするんだから……」


でも、あれも私のことを気遣ってくれてるのが分かって嬉しい。

どんどん先輩を好きになっちゃって、辛い。

はぁ、早く私の事を好きになってくれればいいのに……。


「よし! 早く帰って、先輩に暖かいものでも作って上げなきゃ!」

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