バカは風邪引かないといいますが

 昨日、天音に傘を貸してずぶ濡れになったお陰で風邪を引いてしまった!

大変だこのままでは天音の世話になってしまう! 大きな借りが出来てしまう……っ!

このままだとイルカの絵販売所に連れ込まれてしまうよどうしよう!


なんてことはもちろんなく。


昨日は帰って即風呂に入り、アフターケアも完璧。

夜も少し温かめになるよう部屋の温度も調整、風邪などひきようがない状況を整えたため、体調にもまったく問題なし!


ふっ……今頃天音の奴は


『くふふ、きっと今日先輩は体調が悪いはず! 優しく看病するフリで好感度アップですね!』


なーんて考えているに違いない。

浅はかなり天音二菜! 俺にそんな手は通用しない!!

さぁいつでも来い天音!!!



「けほっけほっ! おばようございまずぜんばいー」

「なぜ俺でなくお前が体調を崩すんだ」


雨に濡れて帰った俺じゃなく、傘を貸したこいつがなぜ風邪をひくのか。

わけがわからないよ……。

俺が傘を貸したやった意味がないじゃないか……!!


あれ、おかしくない?

これがラブコメ漫画なら、後輩の変わりに風邪を引くのが俺で、その看病を甲斐甲斐しくしてもらうってシーンだよね?

なんでお前が風邪ひいてんの??


「ぜんばいは、なんでぞんな元気なんですがぁー……!」

「鍛え方が違うんじゃないの?」

「どう見ても見た目ひょろひょろなのに……」

「私、着痩せするタイプなの……ってそれよりお前、今日は休めよ」


今日の天音は顔も赤く、息もかなり荒い。

相当体調が悪そうだ。


「ちゃんと熱測ったのか? 今何度くらいあるんだ?」

「熱測ったら、余計しんどくなりそうで……へへへ…」

「そんなフラフラだったらどっちにしろ無理だろ……ほら部屋まで送ってやるから」


そう言って帰宅を促そうとするも、どうやらここまで来るので精一杯だったようで、天音はその場にぺたんと座り込んでしまう。

このまま玄関にいたら、余計体調悪くなるだろお前……。


「うええ……頭痛い……気持ち悪いです……」

「ったく……しゃーねーなぁ! 後で文句言うなよ!」

「ひゃっ! せ、先輩!?」


そう宣言すると、膝裏に手を入れ、天音を持ち上げてやる。

所謂、お姫様抱っこという奴だ。

あ、こいつめっちゃ軽くていい匂いがする……いかんいかん、落ち着け藤代一雪!

平常心だ! 常にクールであれ!!


「くふふ……先輩にお姫様抱っこしてもらっちゃ……けほっけほっ!」

「ああもう、ほら落ち着け、うちのベッドに寝かせるけど、いいか?」


一応、確認しないとな。

男の部屋のベッドに寝るとか、普通の女の子なら嫌がるだろうし。

天音が嫌がる可能性は、十分ある。


「なんですかそのご褒美……もっと熱上がるかも……」

「ならやめるか」

「すいませんお願いしますもう変なこと言いませんから」

「ったく……お前ほんとに体調悪いんだろうな?」

「死にそうです……」


ふん、そんなにしんどいなら静かにしてればいいんだ。

昨日暖かくしようと、少し厚めの布団を出したままにしておいたのはよかったかもな。


「せ、先輩……どうしようヤバイです……」

「どうした、気分悪いのか?」

「先輩の匂いに包まれてるみたいで、幸せすぎて死にそうです」

「そのまま死んでしまえばいいのに」


なんだこいつ、怪しげな詐欺を企む危険な奴かと思ったら、ただの変態だったのか?

いくら天音が美少女とはいえ、今の発言はドン引きだわ。

こいつもう自分の家に無理矢理放り込んだほうがいいんじゃないかな……。


「くふふ……ドキドキしすぎて辛い……けほっけほ!」

「ああはいはい、落ち着け。薬は飲んだのか?」

「飲んでないです……」

「わかった、飯は食ったか? なんか食べれるか?」

「先輩が口移しで食べさせてくれれば食べます」

「この変態!」


もうやだこの後輩……。


「ちょっと待ってろ、この前リンゴ買ってたよな? あれ使うぞ」

「すいません、ご迷惑おかけします……」

「気にすんな、いつも世話になってる礼だ」


こんなことで礼になるかはわからんけどな。

なんやかんやと、毎日世話になってるし。


「あ、学校には俺から休むって連絡するからな! 今日は休めよ!」

「わかりましたぁ……」


そう言って台所に引っ込むと、冷蔵庫からりんごを出し、先日購入したピーラーで皮を剥いていく。

これで剥くって言うと、天音怒るんだよなぁ……あとでうるさそうだ。

そして次は、先日購入したすりおろし機で、りんごをすり下ろして、食べやすくする。

最後に先日購入した、小さめの器にりんごを入れたら完成だ。


「……こんなもんいるのか? って思ってたけど、あると便利なもんだな……」


今使ったもの、全て天音に購入を促されたものである。

これがなければ、天音に食べさせることはできなかったかもな……。


って、全部あいつのためになってるじゃねーか!

くそっ、なんか釈然としない気分になってきたぞ……!!

こうなったら、天音にちょっとお小言でも言ってやろう。

そう思い部屋に帰った俺が見たのは……。


「すー……はー……くふふ……先輩のいつも使ってる枕ぁ……けほっけほっ!!」

「な、何やってんのお前!?」

「せ、先輩!? いつからそこに!!」



俺の枕に顔をうずめて、深呼吸を繰り返す後輩の姿だった。

ほんともうやだこの後輩……。


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