後輩は俺以外が塩対応
「せんぱーい、お昼一緒に食べましょうよぉー」
昼休み。
そそくさとどこかに逃げようと準備を始めた教室に、あの声が響き渡った。
姿を見ずとももうすでにお分かりかと思う。
そう、天音二菜である。
上級生のクラスに来て、大声で人を呼ぶなんて目立ちすぎだろあいつ……。
案の定、あいつはクラスの注目を一身に集めていた。
そして最近、あいつとセットで注目を浴びているのを、俺も理解しているわけで。
やだ……私、絶対に関わりたくないわ……。
そう思い、気配を消し天音が引き下がるのを待とう、なぁにすぐに諦めるさと思っていると、そんな天音に興味を持ったのか、一人の男子生徒が近づいていった。
「やぁ、君、1年の有名な子でしょ? 先輩……って事は、もしかして俺に会いに来てくれたのかな?」
おお、あれは五百里がいなければ2年で1番のイケメンだといわれていた……ええとなんだっけ?
……わからん、イケメンくん! サッカー部のイケメンくんじゃないか!
もしかして、初対面の天音を早速連れて行こうとしているのか!?
これが五百里がいなければ1番のイケメンの行動力か……!
などと感心していると……。
「……はぁ? どちら様ですか……?」
「あれ? もしかして俺のこと知らない? ははっ、じゃあまずは自己紹介から……」
「申し訳ありませんが、貴方に全く興味がありませんので、結構です」
「…………」
うわぁ、恐ろしいほどにばっさりである。
つーかブリザード吹いてんぞ、お前そんな顔できたのかよ!
いっつもニコニコ笑ってるから、そんな顔するなんて思ってもいなかったぞ天音……。
「は、はは、まぁ初対面だし、警戒しちゃったかな? でも大丈夫――」
「はぁ……話しかけないでもらえますか? 鬱陶しいので」
「鬱陶しい……」
「そもそも、話したこともない女性に馴れ馴れしくする人なんて、全く信用できません」
「……………………」
おいおいおい、死んだわあいつ。
イケメンくんがすごすごと退散していく。
というか今の一言、自分に帰ってきてないか天音よ?
まぁいい、今のうちに教室を脱出して、姿をくらましてしまおう。
なんなら職員室側の男子トイレに逃げ込んでしまえば……。
「藤代一雪先輩ー、お昼一緒に食べましょうよぉ~!」
なかなか出てこない俺にシビレを切らしたのか、ついにフルネーム呼びである。
やめて、クラスメイトからの視線がめちゃくちゃ痛いから、本当に勘弁してくれ……!!
「あの……藤代くん……呼ばれてるよ……? 行かなくていいの……?」
「宮藤さん……俺の事は見なかったことにして、見逃してくれないだろうか」
「え、う、うん……それは別にいいんだけど……」
おお……宮藤さんはさすが話がわかる。
俺の隣の席に座って早数日の仲は伊達じゃないぜ。
宮藤さんはお名前も可愛いんだぜ。
もう明らかに可愛い。好きです。
「でも、もう遅いと思うなあ……」
「えっ」
「――――先輩、みぃつけたぁ……」
「ひっ……!」
ちょっと待って、何その笑顔! さっきのブリザード吹き荒れる無表情とはまた違った意味で怖いんだけど!?
益々、俺の立場が悪くなっていくのを感じる。
もう春だっていうのに背筋が凍るように寒いよ……!
「もう! 呼んでるのに出てこないなんて、酷くないですか!?」
「お前に関わると、俺の平穏な生活がどんどん崩れていくんだ……わかってくれ……」
「もー、なんででですかー! そんな事言って……この週末、『先輩のおうちデート♡』であんなに優しくしてくれたのに……♡」
――――その瞬間、クラスの空気が止まったのが分かった。
おいおいおい、ガチでアイツ死ねばいいのにって目線が飛んできてるわ。
「お、おい藤代……お前とその子は一体どういう関係なんだ……」
「はぁ? 貴方には関係ないでしょう、あっち行って下さい」
イケメンくん、またもや撃沈である。
宮藤さんにいたっては、顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせている。
何だこの人、本当に可愛いな!?
って、ダメだ、これ以上ここにいたら、さらにあることないこと言い触らされる!
もしや、そのためにわざわざ俺のクラスまでやってきたのか?
くそっ、もしかしてこいつ、俺をからかって楽しんでいるんだな?
ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって……っ!
「これ以上騒がれちゃかなわん、さっさと行くぞ天音」
「あっ、待ってくださいよぉ先輩~!」
そう言いながら、天音の腕を無理矢理取って、強引に教室から出て行く。
くそ、これもまた後で色々言われるやつなんだろうな……!
ああもう、昼が終わった後の事を考えるだけで頭が痛くなる。
「え、えへへ……先輩が強引に私を連れ出して……くふふ……」
ダメだこいつ、早く何とかしないと。
「おい天音、メシ食いに行くんだろ? とりあえず学食行くか?」
「はっ! そ、そうでした! お昼持って来たんで今日も一緒に食べましょう!」
「今日も作ってきたのか……」
「はい、もちろんです!!」
そういって、先週と同じ弁当箱を掲げて見せてくる。
ほんと、なんていうかこいつは……。
「こう毎日続くようじゃ、さすがに申し訳ないな」
「一人分も二人分も、作る手間は変わりませんから、気にしなくてもいいですよ?」
「お前は気にしなくても、俺が気にするんだっつーの」
「うーん、そう思うなら……そうですね、材料費折半くらいしてくれますか?」
「そんなんでいいのか?」
「はい、これで先輩はお弁当が食べれる、私は愛しの先輩に料理ができる、win-winです!」
「ばかっ、こんなところで愛しのとか言うなっ」
昼休憩で他の生徒が歩いてる廊下で、しかも大声でなんつーことを……!
そのせいでまた、注目を集めてしまう。
「くふふっ、先輩好きです、お付き合いしてらひゃい~~~~っ!」
「だからしないっつーの」
天音のほっぺたを左右から挟みこみ、それ以上話せないようにしてやる。
「にゃ、にゃんれれふか~~!(な、なんでですか~~!)」
「もう変な事を口走らないなら、離してやる」
「ひいまひぇん、ひいまひぇんから~~!(言いません、言いませんから~~!)」
ぺちぺち、と涙目になりながら、俺の腕を叩いてやめてくれと訴えてくる。
ちょっと可愛いなこいつ……もうちょっと悪戯してやりたいな……。
と思っているところに、周りからの視線が突き刺さっていることに気がついた。
「………………」
「……先輩、私たち、ラブラブなカップルみたいですね……♡」
「……メシ、行くか天音……」
「はいっ!」
帰ってきてくれ俺の平穏な日々……!!
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