豚の生姜焼きが旨すぎて辛い

「さて!今晩は何が食べたいですか先輩!」


天音が俺の部屋のキッチンでエプロンをつけながら、そう聞いてくる。

我が物顔で準備してますが、ここ俺の家ですからね?


「そうなぁ……とりあえず肉があればなんでもいいかな……あと白米」

「お肉ですね……それなら……うん! 豚の生姜焼きにしましょうか!」


白米と豚の生姜焼きってなんだよ最高の組み合わせかよ。

すでに今から美味しいのが想像できて辛い。


「本当は豚肉をお酒に漬けてからがいいんですけどねー……流石に先輩、お酒は……」

「持ってるわけないだろ?」

「ですよねー……まぁ、逆に持ってたらびっくりなんですけど」


こちとら高校生だ、そんなものを持っているわけがない。


「料理酒に関しては、今度うちから持ってきますね。あとリクエストありますか?」

「生姜焼きに玉ねぎ入れてほしい、たまねぎ好きなんだよ、俺」

「了解しましたー!」

「なんか手伝おうか?」

「いえいえ、先輩はテレビでも見ててください」

「なんか悪いな……いいのか?」

「はいっ。それに……どうせ先輩、包丁もまともに使ったことないでしょうし……」


全くもってその通りなので、なんともいえない。

おそらく手伝う、といっても、逆に迷惑をかけることになる可能性が非常に高い。

ここは作ってくれる天音に甘えてしまう方が、みんなが幸せだろう。


「あっ! だからって料理中にえっちな事しちゃだめですよ?」


しないよ!?

いや、料理中の彼女に抱きついてイチャイチャ、ってシチュエーションには憧れるけど

少なくとも天音にしようとは思わないよ! 後が怖すぎる……!!


「もー!先輩のへたれ!」


どうして罵倒されたのですか?

まぁ、いいか。変な事して、怖いお兄さんが出てきても困るし。

特にやることもないので、料理を始めた天音をじーっと観察することにした。


こうやって見ていると、なかなか手際がいいようで、食材がどんどん料理されていく。

昨日まで誰も立つことがなかったキッチンに天音のような美少女が立っているのは、なんとなく現実味がない、不思議な光景に見えてしまうな……。


(嫁さんができるって、こういう感じなのかなぁ……)


ついつい、天音とそうなったときの事を想像してしまう。

あれでも一応、天音は俺に告白してきている美少女だ、「そういう状況」を想像して、色々と考えてしまう俺を誰が批判できるだろうか!


……いやいや落ち着け、あいつはそういうんじゃない、何か後ろ暗い目的があるはずなんだ……!


「あ! 今私のこと、お嫁さんみたいだなって思ってましたね!?」

「思ってないので気にしないでください」

「くふふ……わかってます! わかってますからねー先輩!!」


なんだよこいつ、妙に鋭くてマジで怖いんだけど。

タイプ:エスパーかよ。


これ以上天音を見ていると何を言われるか分かったもんじゃない。

俺は天音から、視線を外すのだった。


 * * *



 しばらくすると、生姜焼きのいい匂いがこちらにも漂ってきた。

そろそろ出来上がるのだろうか? だめだ、この匂いは空腹を誘う!


我慢できずキッチンへと移動して、自分にも何か出来る事がないかを聞いてみる。


「でしたら、お皿とか出しておいてもらえますか?」

「了解、茶碗が一つ足りないな……出してくるわ」

「一つしかないなぁと思ってたんですけど、予備持ってたんですね」

「ああ……一人暮らし始めるときに、友達用よって母親が持たせてくれてな……」

「そのまま使うことなく死蔵されていたんですねわかります」


すまない母さん、俺はこの1年、自宅で友達にこの茶碗を使わせることはなかったよ……

五百里が来てピザ頼んだりコンビニ飯を一緒に食ったりしてたから……!

知ってるか?サ○ウのごはんって茶碗がなくても食えるんだぜ……。


 そうこう言っているうちに、食卓に料理が並んだ。

聞いていた通り、今日は白米に豚の生姜焼き、キャベツの千切りに味噌汁、漬物と

この部屋には似つかわしくない、家庭的な夕飯だ。


「おお……すげぇ旨そう……」

「えへへ、ありがとうございます……お口に合えばいいんですけど……」

「正直この匂いだけで米が食えるわ……いただきます」

「はい、どうぞ召し上がれ!」


――――出来立ての料理を自宅で食べるというのは、こんなに幸せなことだったのだろうか!


生姜焼きを口に放り込み! その後に白米も食べる!

……旨い、旨すぎる……っ!!

やはり、白米との相性はばっちりだ、いくらでも食べられる気がする。


「先輩、美味しいですか?」

「ああ、旨い」


ふと前を見ると、ニコニコと嬉しそうに俺の顔を見ている、天音と目が合った。

見られていることに気がつき、顔に血液が集まっていくのがわかる。


「な、なんだよ、人の顔をじろじろと……」

「いえ、好きな男の子が、私の作った料理を食べて美味しいって言ってくれると凄い幸せだなぁって……」

「……そうかよ」

「はいっ」


なんとなく天音に見られているのが居心地が悪く、目線を逸らしてしまう。

そのまま食べ続ける俺を、自分の分も食べずにいつまでも見つめる天音の視線がくすぐったくて、たまらなかった。


「はぁ……美味しそうに食べてる先輩、超可愛いよぉ……大好きだよぉ……」


……聞かなかったことにしよう、うん。

台無しだよ……ほんと、色々と台無しだよ天音さんよ……!!

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