夜道の一人歩きは危ないだろ!

「ご馳走様でした」

「はい、お粗末様でした!」


並べられた料理を全て食べ終わり、満足げに礼をすると、ニコニコと天音が返事を返してくる。

奇麗に全てを食べ終えたのを見て、とても喜んでいるように見えた。


「私の手料理、どうでしたか?」

「やっぱ出来たては違ったわ……弁当でも思ったけど、ほんと料理上手いんだな」

「ありがとうございます! よ、よければ毎日作りに来ても……」

「ごめんなさい毎日は勘弁してください」


なんで毎日!?

そのうち合鍵とかくれって言われそうで怖いんですけど!


……いや正直、思っていた以上に美味しかったし、毎日と言われると心が揺れ動く。

はっきり言って、長年食べなれた母親の味よりも、旨いと思ってしまったからだ。

この料理が食べられるなら……毎日来て、料理してもらえるなら…………。


いやいや待て待て、落ち着け落ち着くんだ俺!

そうやって俺のパーソナルスペースをあっさり浸食されてどうする!

何1日2日であっさり攻略されそうになってんだよ、チョロすぎるだろお前!

もしくは、ここまでやれる天音が凄いのか……!?


くっ、これが美少女に標準搭載された機能だというのか!

怖い、都会が怖いよ母さん!!


「……先輩が何を考えているのかは大体わかりますが……まぁ、いいです。さて、手早く洗い物しちゃいますね」

「あ、待って待って、作ってもらってそこまでやってもらったら悪いから、俺がするよ」

「え、でも……」

「いいから、それくらいやらないと、申し訳なさすぎる」


俺は食器を運び、スポンジを手に取り、洗い物を始める。


「終わったらコーヒーでも飲むか? あ、紅茶とかの方がいいか?」

「いえ、お構いなく! お気持ちだけで……」

「食後のお茶は付き合ってもらえないのか……残念だ……」

「!! こ、コーヒーでお願いします!」

「了解、ちょっと待っててくれな」

「え、えへへへへへへへへへ先輩の入れてくれたコーヒー……くふふ……」


なんか怖い笑いが聞こえてる気がするけど気のせいだろう。

天音のような美少女が、あのような笑い方をするわけがない。

うん、俺は何も聞こえなかった、聞こえなかったさ……。


「あ、じゃあその間に私は洗濯物取り込んで、畳んでおきますね」

「おーすまん、めっちゃ助かる」

「一人分ですし、すぐ終わりますから気にしないでください!」


 * * *



そうして食後のお茶を飲み終わり、時間もいい頃合。

時計の針は、もう20時をさしていた。

さすがに、そろそろ天音を帰さねばならない時間だ。


「天音、そろそろ帰らないと親が心配するだろ、送って行くぞ」

「……帰らないといけませんか……?」


うん、何言ってるのこの子。


「帰らないといけないに決まってるでしょ!」

「実はこのカバンの中には、お泊りセットが」

「ダメです、帰りますよ!」

「ちぇー、ダメかー」


ダメかーじゃないよ、何ナチュラルに男の家に泊まろうとしてるの。

これが俺だったからよかったけど、普通の一般男子高校生だったらお泊まりおっけーから、そのまま襲われて大変なことになってますよ?


……いや待て、それも作戦のうちか……?

手を出そうとしたら、怖いお兄さんがドアをどんどん叩いてくるんだな!?

くそっ、羽毛布団に布団乾燥機なんて買わされてたまるものかよ……!!


「まぁ、これからも来る機会はありますし、そのうち泊めてもらえますよね!」

「いや、泊めないから」

「このお部屋だとベッドしかありませんし、添い寝になりますよね……きゃっ!」

「天音はちょっと妄想が激しすぎるの、直した方がいいよ?」


ほんと見た目はめっちゃ可愛いし、料理も出来て完璧に見えるのに、中身が酷すぎる……学園の他の男子生徒にも教えてやりたくなるな。


まぁ、これが全て演技、って可能性があるわけだが。

ほんとこの子、一体何を考えてるんだろうかなぁ……。


「ほらほら、そろそろ行くぞ、送ってやらないぞー」

「はぁい……ってもういいですよ、行きましょう」

「そういえば、天音ってどこから来てるんだ?」


帰るにしても、まず駅まで出る必要があるのか、歩いていけるのか。

通学圏内なら、おそらくそこまで遠くないとは思うんだけど……。

あまりに遠いんだったら、タクシーでも拾ってやる必要があるのかもしれない。


「うーん、そんなに遠くではないですね、割と近いですよ」

「まぁそりゃそうか、そんなに遠かったら、こんな時間までいるわけないしな」

「はい、なのでもうちょっと先輩といちゃいちゃしてても……」

「それは俺が困るから勘弁してくれ」


そういいながら、天音が帰ってきたのは……。


「おいおい、お前本気で言ってるのかそれ」

「ええ、本気ですよ。なんなら上がっていきますか?」


天音がポケットから鍵を取り出し、扉を開けると、そこは……。


「俺の部屋の真上じゃねぇか……」

「だから言いましたよね、割と近いですよ、って」

「割とどころか、徒歩1分以内は流石に想定外だわ」


そういえば少し前、上がバタバタしてるなぁとは思っていたが、

まさかこいつが引っ越してきた時の音だったとは思いもしなかった……!

え、こんなに近いってわかってるともしかして……頻繁に来る!?


「これから、私の家の洗濯物が、ベランダに落ちてくるかもしれませんね♪」

「もし落ちてても、俺は見ないフリするからな……」

「こっそり回収しても……」

「しません!」


脅迫のネタにしかならないじゃないですか、やだー!!


「まぁ、正直私も香月先輩に聞いて、まさかって思いましたけどね」

「物凄い偶然としか言い様がないよなぁ……」

「もしくは、運命、とか……私と先輩って、赤い糸で結ばれてるんですよ!」

「そんなロマンチックなものが、俺とお前の間にあると思うか?」

「先輩も、ちょっとは運命感じてくれてもいいと思うんですけどね……」


俺とお前の間にそんなものはないし、これからも出来ることはない。

もしなくても結びに行きますが、とか言ってるが俺には聞こえない!

天音には申し訳ないが、出来るだけ早く夢から覚めてほしいものである。

もしくは、対象を別にして欲しい……怖いから。


「このこと、誰かに言ったか?」

「言うわけないじゃないですかー! 私と先輩、二人だけのひ・み・つ、ですよ♪」


心底嬉しそうな笑顔で、天音がそういうのを、俺はなんとも言えない表情で見つめるのだった。

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