お買い物に行きましょー!

「わかりました先輩、せめてフライパンくらい買いましょう!」

「えぇー……使うことなんてそうそうないのにいるかぁ?」


 この一年、一度も欲しいと思わなかったことからもお察しである。

コンビニ飯と冷凍食品さえあれば、俺は一生戦える。

24時間戦えますか?


「よく、そんな生活で体壊しませんでしたね……」

「これが若さだ、天音よ」

「年取ってから後悔するやつですねわかります」

「天音は知らないんだな……最近の冷凍食品の凄さを!」


チンするだけで簡単に専門店のチャーハンが食べれるんだぜ?

これに冷凍からあげをつけるだけでマジで生きていける。

なんならついでに納豆もつけちゃう!


「何も自慢になりませんよそんなの! さぁ、お買い物に行きましょう!」

「いや、amaz○n先生で頼めば明日には持ってきてくれるじゃん?」


わざわざ買いに出る必要なんてないじゃないですか?


「つまりそれは……あ、明日も来てもいいよ、っていうお誘いですか!?」

「よし、すぐ買いに行こう用意してくるから」


油断も隙もあったもんじゃねぇなこいつ!?

そのうち、気がついたらうちに入り浸ってるようになるんじゃないかと今から心配だよ……。

あ! も、もしや、そうやって人の家をたまり場にして人を連れ込むつもりか!?

くそっ、何をするつもりだ、某ネットワーク商材でも買わせるつもりか!?


お前の思い通りにはさせないぞ……天音……!!


「はぁ、また変な勘違いしてるんだろうなぁ……」


 * * *



 というわけで、俺たちはフライパンを求めて、駅前の大型ショッピングモールまで来た。

中にはゲームセンターから映画館まであるようで、朝だというのに人でごった返している。

はやくも帰りたくなって来た……。


「先輩、ついでだから包丁とかも買いませんか? あの部屋なんにもなかったですよ……」

「テレビがあってベッドがあって何もないは酷くないか?」

「少なくとも、まともな生活してないな、ってのは一目でわかりました」


どうやら、俺の生活はおかしく見えるようだ。

やれやれ、これだから一人暮らしもしたことのない奴は……。


「せめて包丁、まな板、お鍋くらいは欲しいですね、あと調味料」

「包丁とか買っても、多分俺使わないぞ?」

「私が使いますよ! これからたくさん、先輩にはごはんを食べてもらうんですから!」

「え、なんなのもしかして頻繁に通うつもりなの?」


何さらっと恐ろしい計画を漏らしてるのこの子。

あれっ? おかしいな俺と天音が知り合って、まだ数日もたってないはずだぞ?

なんでもう通い妻みたいなポジションに収まろうとしてるの!?


「あ! 今通い妻みたいだなって思いましたね?」

「ちょっと待ってなんで俺の考えてることわかったの」

「えへへ……これも私と先輩の愛のなせる業ですね……!」

「俺とお前の間には、そういうものはない」

「もうもう! 照れなくてもいいんですよぉ!」

「俺は天音のそのポジティブさが不可解だよ」


少なくとも、俺からお前に対してあるのは以前から恐怖だけだよ?



「まぁそれはともかく、せっかくキッチン広くて綺麗なのに、使わないともったいないですよ」

「これでも使ってるつもりだったんだけどな……」

「あれで使ってるつもりだとしたら、料理ナメてるとしか言いようがないですね」

「えっ、そこまで言われるほど!?」

「レンジでチンとインスタント食品を作るのは料理って言わないです」

「そうだったのかー……」


割とショックだ。

コンビニ飯はともかく、自分では割と料理するほうだと思っていたのだが……!

そう思っていると、天音がほいほいと俺の持つカゴにフライパンなどなどを入れていく。

えっ、何その長い箸、なんに使うの?


「とりあえずこれだけあればまぁなんとかできますかね?」

「しかし色々と、躊躇なく放り込んだね……」

「へへへ、大丈夫ですこれから大活躍しますから!」


いやまぁ、思っていたより、ずっと安かったからいいんだけどね。

フライパンとかもっとすると思っていたが、メーカーによるらしい。

それはそうと……。


「なぁ、この丸いフライパンって卵焼き作れるのか?」

「作れますけど……食べたいんですか? 卵焼き」

「ああ、食べたい、甘いのが食べたい」

「先輩は甘い卵焼きがお好きなんですね?」

「と言うか、卵が好きだ。あれは素晴らしい食材だと思わないか?」


出汁巻もいいけど、卵焼きは絶対に甘いのがいいと思う。

弁当の中に入っているだけで、幸せを感じるよね。

ちょっと甘さを強めにしてあるとさらに嬉しい。

それに、昨日食べた天音の卵焼きは凄く美味しかったからな……。


「丸いフライパンでも作れますけど、こっちの四角いのがあったほうがいいですね」

「よし、なら四角いのは買っておこう」

「ふふっ、また先輩の好みを一つ、知ってしまいました」

「さよか」

「ええ、これからもたくさん、先輩の好きな味を教えてくださいね!」


胃袋をつかまれないよう、気をつけなくては……っ!



その後、気がつくと、フライパンや包丁だけでなく、お玉やらなんやらも買うことになり、結構な量になってしまった……うう、袋が重いぞ……!

というか、料理ってこんなに色々と使うものだったんだな、知らなかった。


「さて、これで大丈夫かな……あ、重くありませんか先輩?」

「まぁ、自分の家で使う分だしこれくらいはな……」


フライパンだけのつもりが、気がついたらあれもこれもで両手がいっぱいである。

うまく操縦されすぎじゃないか、俺……あれっ、もしかして俺って、絶好のカモなのでは!?


「それじゃあ、帰って夕飯の支度をしましょう!た、食べたいものはありますか……あなた♡ きゃっ♡」


ダメだ……心を……心を強く持たなければ……!


こんなに可愛い子が俺を好きになるわけがない、何か裏があるに違いないんだ!

破滅の未来を予感した俺は、そう気を引き締めるのであった。

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