先輩!お昼を食べましょう!!

 昼は、俺が一日でもっとも楽しみにしている時間だ。

この学園の食堂は、安い・早い・美味いの三拍子揃っている上に、

量もそれなりに多く、この学園に通う生徒ならだいたいの生徒が利用している。


かく言う俺もこの食堂にはお世話になっており、毎日通いつめるほどである。

今日の日替わりはなんだろう、昨日は麻婆豆腐だったな、でもうどんもいいな……。

と、そんな事を考えていると……。


「あ、先輩、見つけました! お昼一緒に食べましょう!!」


――――天音に見つかってしまった。


というか、こいつは何をやっているんだ、昼休憩だぞ?

友達はどうした新入生、ぼっちになるつもりか?


「すまん、俺は食堂だから」

「やっぱりそうですか! そう思って……先輩の分もお弁当作ってきたんです!」


じゃんっ、と目の前に弁当の包みを掲げる天音。

えっ、こいつ何言ってんの? 怖いんだけど。


「えっ、お前何言ってんの? 怖いんだけど」


おっと、思っている事がそのまま口に出てしまった。

でも仕方ないよね、出会って1日程度の女の子がお弁当作ってくれるなんて、どう考えても罠だよね?


「まぁまぁ、ほら、屋上いきましょー!」

「おいこらっ、やめ、手を! 手を引っ張るな!」


周囲の視線がほんと怖いから! やめて!!

俺を巻き込まないで!!


* * *



 というわけで。

何がというわけでかわからんが、屋上へ連れてこられたわけで。

アイルビーバック屋上。出来れば帰って来たくなかったよ……。


「さぁ先輩、どうぞめしあがれ!!」


俺の前にはにっこにこな笑顔の天音が、こちらに卵焼きをさし出している。

なんだお前の手で弁当を食べろというのか、なんの罠だ騙されないぞ。

女の子、しかも天音のようなとびきりの美少女にあーんされるなんて、

普通なら何そのご褒美になるだろうが、俺には通用しない!

俺は天音の箸から直接手で掴み取り、口に放り込んでやる。

ふふふ、これならあーんにはならんだろう!


「あ、ちょっと先輩汚いですよぉ!」

「ふん、俺がお前に食べさせてもらうと思ったか! って美味いなこの卵焼き……」

「えへへ……お口にあって嬉しいです……あ、こちらもどうぞ!」


と、今度は小さく作られたハンバーグを差し出してくる。

もちろん、お箸から手で直接掴み取り、口の中へ。


「もうっ、先輩ったら……でも、そんなところも好き……!」


こいつは何を言ってるんだ。

それにしても、このハンバーグも美味い。

これならどれだけでも食べられそうだ。


「お前、料理上手いんだな……」

「えへへ、ありがとうございます! いつでも先輩のお嫁さんになれるように、練習してるんです!」


え、会ったのって昨日が初めてですよね?

やだ……この子ちょっと危ない子だわ……。


「お、おう、そうか……それよりその弁当、食べていいならもらってもいいか?」

「はいっ! そのために作ったお弁当ですから!」

「箸も……もらえないでしょうか……」

「もちろん、お箸も用意してますよー!!」

「悪いな、いただきます」


天音が何を考えているのかは全くわからないが、この弁当は食べたい。

この弁当になら、1000円は出してもいいし、この後熱心な宗教の勧誘があっても我慢できるだろう。

聞くだけで済むなら。


「先輩、美味しいですか?」

「ああ、美味しいよ」

「明日も作って来ていいですか?」

「明日土曜日だけどな」

「わかりました、先輩の家に作りに伺いますね!」

「怖いからそういう事いうのやめてくれる?」


本当に怖いから。


それにしても、この弁当は本当にうまい。

冷めても美味しく食べられるように、という天音の気遣いが見えるようだ。

こんな彼女がいたら、毎日幸せだろうなぁ……。


「あ、今私のこと、彼女にしたいと思っちゃいましたか!?」


訂正。やっぱりこんな彼女は欲しくない。

何ナチュラルに人の心読んでんだよ怖いよ……。


「ふぅ、ごちそうさん。弁当箱は洗って返すな」

「いえいえ! そのまま返してくだされば、こちらで洗いますので!」

「そうか?  悪いな、食わせてもらったのに」

「いえいえ気にしないでください……(はぁはぁ……先輩の使ったお箸……!)」

「え?」

「美味しそうに食べてもらえて、私今、すごく幸せです!」


なぜだろう。

愛らしくにっこりと笑った天音の笑顔で、不思議と背筋がゾッとした、お昼休みの一コマだった……。


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