お前は一体なんなんだ!?

「藤代 一雪先輩、おはようございます! 好きです! お付き合いしてください!!」


朝、登校する生徒で賑わう校門前で、大声で俺に告白しているのは、天音 二菜。

昨日、俺相手に告白という罰ゲームを遂行した女だ。

まさか、二日続けてまた罰ゲームとは……しかもこんな往来の場で。

これはもうイジメではないだろうか?


しかし、騒然となる周囲を物ともせず、告白できるこいつは一体なんなんだ。

メンタルが強いなんてもんじゃないぞ……!?


「あ、ああ、おはよう、天音さん。朝から大変デスネ……」

「えへへ、先輩好きです! 大好きです!! 二菜、って呼んでください!!」

「う、うん、分かった、分かったから離れてくださいお願いします……」


目立ってる、今俺、超目立ってる!!

これまで生きてきた中でこれほど目立った事があるだろうかいやない。

へへ……あまりの惨状に、変な汗が出てきやがったぜ……!!


「あの……先輩、昇降口まで、手を繋いでもいいですか……?」


もじもじと上目遣いにこちらを見る仕草はそりゃ可愛い。

可愛い……が……周囲の視線が痛いんだよ! 物理的な攻撃力が篭ってるんだよ!

あ、なんか胃が痛くなってきた……。


「ごめん、今日日直だったんだ! じゃあな天音さん!!」

「ちょ、ちょっと先輩! 待ってくださいよぉ!!」


俺は、痛む胃を抑えながら、早足で校内へ逃げることしか出来なかった……。



 * * *



「おはよう一雪、今君のこと、物凄い噂になってるね」

「勘弁してくれ……」

「あの面倒くさがりの一雪に彼女ができたなんて、親友の僕も嬉しいよ」

「できてねぇよ……」


くすくす、と目の前で笑うのは、香月 五百こうつき いおり

俺の小学生の頃からの付き合いの、この学園で話す数少ない友人だ。

頭もいい、運動も出来る、そして何より顔がいいと三拍子揃ったこの男は

この世界がゲームであれば、間違いなく主人公になれる人間だったろう。

そして俺はモブ。

哀しいけど、これが現実なのよね。


しかも何よりこの男、モテるのだ。

何度、五百里くんに渡してください! とラブレターの仲介を依頼されたことか!

そのため、昨日の呼び出しもその類のものだと思ったのだが……。


「知ってるかい一雪、君に今告白してきている、天音さんのこと」

「知らん、興味もなかったからな」

「はぁ……君、本当そういうところだよね」


やれやれ、と肩をすくめる。

こいつは本当、何をしても似合うな、むかつくほどに!


「あの天音さんって子だけどね、今年の新入生代表だそうだよ」

「ほーん、頭いいのな」

「それでいてあの見た目でしょ? 初日からそれはすごい人気らしいよ」

「ま、確かに男受けしそうな見た目ではあるよな」


中身はアレだけど。


「入学初日から何人にも告白されてるとか」

「会って数時間で告白とか、馬鹿じゃないのか?」

「今朝も下駄箱はラブレターが何通も入っていたとか」

「焦りすぎて童貞臭がすごいな、そいつら」


どうしてそこまで必死になるのかわからん。


「ほんと、一雪は枯れてるよね……あんな子が告白してきて、嬉しくないのかい?」

「むしろ逆に、なんで俺? って疑問が先にくるわ」


何度も言うが、俺に金はないのだ。

日々の生活を送るのにギリギリなので、壷やらなんやらを買う金はない。

そんな金があるなら、俺は一品でも夕食のメニューを増やしたい。

コンビニ飯は高いのだ。


「ていうか怖い。なんか企んでんじゃねーのって思っちゃうな」

「ほんと、そういうところだよ一雪……」


と、ここまで話したところで始業のベルがなり、五百里が席へと帰っていく。

人気のある美少女だというのは、今の会話でも十分わかった。

そんな彼女が、五百里のようなイケメンではなく、俺のような男に近寄ってくる理由がわからん。


これは……間違いなく何か裏があるな……。

そう、考えるのは当然のことであった。

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