どうしてこうなった

春。

桜の花びらが舞い散る季節。

新しい出会いに胸躍らせる季節。


そんな爽やかな季節に、今年で高校2年生となった俺、藤代 一雪は項垂れていた。


「思うんですけど、先輩は私の何が不満なんですか?」


目の前にいる美少女、天音 二菜のせいで。



 * * *



 今でも鮮明に思い出せる、こいつとの出会い。


新1年生の入学式を終え、俺たち上級生の始業式も終わりはや半月。

新しいクラスにも徐々に慣れた頃、それは下駄箱に入っていた。


『屋上で待っています』と、一言だけ書かれた呼び出しの手紙。


誰が行くか。

どうせ、悪戯だろう。

もしくは、壺かイルカの絵を買わせるつもりに違いない。

俺が引っかかると思ったか?  残念でした!  あなた見破られてるの!!


 ……そう思ったのだが、もし本当にこれがそういった目的の呼び出しであれば。

この手紙の主は、俺が行かなければ、何時までも待ち続けるのだろうか?

だとすると、ちらっと様子見くらいはするべきなのだろうか……?

誰もいなければいないで、安心して帰れるしな、うん。


……その時の俺は、なぜかそう考えてしまった。


そう、考えてしまったのが間違いだったと気付くのは、この10分後……。


 * * *



 向かった屋上には、一人の少女がいた。


遠目に見ても、美しい少女だと、思った。

亜麻色の長い髪に、ぱっちりとした目、すらっとした体躯に似合わない、大きな胸。

身長は少し小さめだろうか、それもギャップに見えて、とても愛らしい。


――そこにいたのは、まさに美少女、と言っても言いすぎではない少女。


胸のリボンの色を見るに、新入生だろうか?

新入生が、いったい俺に何の用だ……やはり、壷かイルカを買わせるつもりなのか?


そう、いぶかしげな視線を向けながら歩いていくと、向こうも気付いたのか、

こちらを見て、頬を染めながらはにかんだ。


「えっと、俺を呼び出したの、君か?」

「は、はい……」


 そう、一言だけ言うと、少女は何かを言いたそうに、もじもじとし始めた。

これはもしかしてあれか……俺を呼び出して、俺に告白!!

……と思わせておいて、俺の友人にラブレターを渡してくれという、お約束のあれ!


そうと分かれば話は早い、早々に切り上げて、俺は家に帰りたい。

俺は早く帰って惰眠をむさぼり、だらだらと過ごしたいのだ。


「すまん、多分俺の友人に手紙を渡して欲しいとか、そういうあれだろ? 渡しておくから、早くしてくれないかな」


そういうと、少女がばっ! と顔を上げ……


「藤代 一雪先輩! 突然ですけど貴方に一目惚れしました! 私とお付き合いしてください!!」


大声で、告白していた。


「はぁ……え、はぁ!? な、何言ってんの君……て言うか俺、君のこと知らないんだけど」

「ああ! これは失礼しました! 私は天音 二菜あまね になといいます!」


少女は、そう言うとペコっと頭を下げた。

ふむ、こいつは天音さんというのか。

で……


「何を企んでいる」

「はい?」

「言っておくが、俺には壷を買うほどの金はないぞ、イルカの絵も同様だ」

「えっと、何言ってるんですか?」

「もしくは入学早々、何かの罰ゲームでも言い渡されたか? ダメだぞ、嫌なことは嫌って言わないと」

「いえ、そういうんじゃなくて!」

「じゃあな、ええと……天音さん?」


それだけ言い残すと、俺は颯爽と屋上を去ったのだった。

うむ、いい事をした。

これでもう、天音さんと関わることもあるまい。


そう思っていた時期が、俺にもありました。



これ以降、毎日のように天音に付きまとわれるようになり


「なんでですか! 一雪先輩は私の何が不満なんですか!?」


と、毎日のように言われる事になるとは、この時思いもしなかった……。

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