▲2六白駒《はっく》(あるいは、飛翔/アイデアリスティック/自分)
「……右辺狙いで。とにかく、一般人を危険にさらすことは避ける」
私の重く言い放った言葉に、両脇の二人が軽く頷いた気配を肌で感じた。と同時に私は右斜め二コ先のマスに跳躍を開始してる。重力感は「普段の地球」と変わらないけど、この身に纏ったスーツがサポートしてくれているのか、身体の動きは軽い。
そのまま二回三回と三段跳びに空中でのひねりや回転を加えたジャンプで敵陣までの間合いを詰めると、まずは迂闊に飛び出てきていた「歩兵」を軽く払った右ローで蹴り飛ばす。そのすぐ後ろにいた駒のボディには「横飛」と、また見慣れない文字が書かれていたのだけれど、「横」っていうくらいだから「横」にしか進めないんじゃね? という、いささか安直な考えで、その眼前で余裕を持って構えの姿勢を整えていたのだけれど、それは当たってたみたいで、「横飛」は実際、前方ひとマス前にいる私に攻撃は仕掛けて来ることはないみたいだ。よし。そんならぁぁぁぁ……
「『横飛』武装化鋼ッ!! 『サイドワインド・ホーミング・ブレイザー』ぁぁあっ!!」
今日も私のネーミングセンスは煌き輝いている……ッ。何も出来ずに固まったままの「横飛」のボディを苦も無く抱え上げると、私はそれを頭上で高速回転する「く」の字巨大ブーメラン状に「加工」させていった。そしてその勢いのまま、左辺に向けて薙ぎ払うかのようにぶん投げる。「横」方向へはどこまでも行ける性質みたいで、一列にほぼ並んでいた「歩兵」の列を、一瞬にしてぶっ倒していった。よっしゃ。
「……」
「歩」の全滅は、実はかなりのアドバンテージを得たのでは……と、そんな風に私は推測している。「一歩千金」と、誰かが言っていた。「歩の無い将棋は負け将棋」との格言もある。相手側の先陣をひとなぎで蹴散らすことのできた私は、自分が少し落ち着きを取り戻していることに気付く。そして徐々に研ぎ澄まされていく自分の感覚を頼りに、初見の駒たち相手にも、臆さずに攻撃を仕掛ける私。その後ろから、
「オルグゥアアアアアアアアァァァッ!!」
常軌を逸した吠え声。いつも思うんだけれど、どうやって自分をそこまで持っていけばいいんだろう……と思わされるほどのイキれかたのナヤが、顎と、鎖骨の間辺りに付いた黒い金属質の「牙」たちをがっちんがっちんいわせながら、四つん這いにほど近い疾走姿勢で盤面を駆けていく。勢いそのまま、何体もの駒たちを巻き込みながら、その五角形の頂点辺りをすれ違いざま的確に噛み砕いていっているよ怖いよ……そんな味方に恐怖を感じてしまっている私のまた背後から、
「……うちもがんばらんとなあ。ええと『グリーン
嘘つけーい。もはや余裕を通り越して、こちらを小馬鹿にしてんじゃないのかくらいのテンションのフウカはでも、その前の名(名前かそれ)の通り、恐るべき加速力で敵陣に向かっていく……スーツの緑色を残像に変えて置き去りながら。
「……!!」
ごごん、みたいな金属で金属を叩くかのような音を響かせながら、敵陣の只中まで突進したフウカだったけど、その瞬間、その身体の周囲が黒く見える光に包まれたわけで。ええ? 何これ。
「……『グリーン
その「黒い光」は、いくつかの破片に分かれたかのように見えた。と思うや、自ら意思を持った動きで、フウカの緑色のスーツに次々と張り付いていく。
両腕、両脚にくっついたのは、ま、何と言うか身も蓋もない言い方をすると、「パワーアップパーツ」らしきものっぽかったわけで。続けざまに両肩、腰にもその「鎧」のような「パーツ」は装着され、最後に胸の下辺りに嵌まったパーツは、何故かその上の、中一にしては質量過多なふたつの球体を、右→左と時間差で弾ませるのだけれど。何だその演出……ていうか、「成った」。成れるの? 私今までも敵陣突っ込んだこと多々あったけど、そんなん起こらなかったよ?
〈……イメージとオマージュ。そのふたつが組み合わさった時、我らの最大の武器が牙を剥く……〉
インカム越しに聴こえてきた博士のしゃがれ声は、ちょっと何言っているか分からなかったけど。でもそうか。「成れる」と思えば……「成れる」のね。
〈ミロカくん、イメージするのじゃよ。成りたい自分に『成る』。常に前を見て先を目指し、理想の自分を描きながら、それに向かって駆け抜けるのじゃ、青春をぉぉぉうッ!!〉
「青春」て。そして駆け抜けるのはまだ早過ぎんでしょーよ、とか、頭の中で突っ込み入れられるほどに、もはやの肚座りモードに移行した私は、背後からの「敵駒」のあくびが出るほどの大振りなパンチをも身体をひねるだけで華麗に交わすと、敵陣の只中にいることを確認し、雄叫び的なものを丹田くらいから放ってみたりする。
「ああああああああああっ!!」
頭の中に浮かんだのは、何でかチェス駒、最強の「
あれ? 妙齢の美女……宙に浮いて何かでかい存在感を放っているけど誰かに似てる……ああ私だ。淑女に成長した私だ。やだ、凄い輝いてる……鈍く。そんな風に瞬間、脊髄で感知できた私は、その穏やかな笑みを浮かべる「女性」と近づいていき……
「……!!」
ひとつに融合した。いや、そう想像しただけなのかも知れないけど。でも。
「……『スカーレット
口をついて出た言葉は、確かな「熱」みたいなのを持って、私のお腹から全・産毛に至るまで拡散していく……成りたい自分に成りたいのならば。成るが必定ぉゥッ!!
「……喰らうぜぇぁッ!! 盤上些末のッ、全・方・位ッ!!」
キメ台詞は究極キマったわけだけど。それよりも背中に面したスーツの一部位が勝手にうごめいていることの方に意識が引っ張られる。でも何が起こるのか、それはもう分かっていた。
「……」
瞬間、背中から張り出したのは、チタンのような金属質感の二枚の巨大な「翼」……鳳凰の、両翼。それは自在に奔放に、盤上を羽ばたくためのもの。「鳳凰」が成りし「奔王」は……盤上縦横斜めどこまでも、自在に舞う最強機動力の駒……改めてチェスで言うと「女王」。しかし、それよりも今回の盤面は二倍以上に広いから…っ、超絶さも約二倍以上だぁぁぁぁッ!!
「ッらああああああああああッ!!」
私にも、ナヤばりの咆哮が出来た……っ!! そんな謎な感動も置き去りにしつつ、チタン色の畳二畳くらいの「翼」をはためかせた私は、敵陣向かって右辺の駒たちを、すれ違いざまに切り払っていく。さらに、「羽毛」の一枚一枚まで、意識を集中させると、それらをミサイルが如きに連続射出して、敵駒たちに浴びせかけていった。瓦解する、敵陣。でも、その時だった。
〈なかなかにやるが……私もいまや『オマジュネイション』の相当な使い手となったわけだよ……そんな些末な「攻撃」、意に介さぬくらいに『変化』してやるまでさあ〉
阿久津、いや「
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