△2七竪行《しゅぎょう》(あるいは、超絶!We gotta合体たい!)
「……『巨大化』?」
思わず我に返ったナヤが呟いた通り、次の瞬間、見上げるほどの大きさに「合体」した駒の群れが、私らを見下ろしていたわけで。全長……目測15mはありそう。これは……やばいのでわ。大小さまざまな駒たちが、出来の悪い立体パズルのように無秩序に組み合わさった姿は、ちょっとこっちの根源的な恐怖心をあおってくる。そして動きは意外と機敏だった。中空でちょっと溜めただけの右拳を、いきなり私目掛けて撃ち下ろしてきやがったわけで。
「……くっ!!」
軌道は正確。思わず声が出てしまったが、「翼」を使って何とかその凶悪な一撃はいなし交わすことが出来た。でもぎりぎり……直撃したら、一撃で潰されそうなほどの威力と質量感があった。絶対に喰らっちゃあ、だめだ。私はその「巨大化駒」がもう一発放ってきた鋭い一撃を紙一重で交わすと、再び「翼のミサイル」をその右腕目掛けて撃ち放つのだけれど。
〈……効かん効かん。そのような小さきモノなど、爪の間にトゲが刺し込まれた程度にしか感じんわぁッ!!〉
阿久津……鐵将がそのようなことをのたまってくる。効いてないまるで。その例えは結構痛そうなのだけど。いや、結構な威力と自負していたやつなのに、ここまで効いてないなんて……くやしい。
「……」
いや、ここで引いてどうする? たかがガタイがでかくなっただけ。速度も見きれないほどじゃあないだろ。簡単に諦めてしまうところは私の度し難いところだ。……変わらなくちゃあ、いけないところだ。変わる。そんな決意に火をつけようとした、まさにその時だった。
「ミロカどうしたん? あんまこういうデカブツ化すんの知らんねや」
横からそんな力の無い声がぽんとかかる。フウカ……普通あんま知らんと思うけど……それよりあんた何でそんな余裕なの? そして何で水を差したの?
「オマージュ、オマージュやでミロカくん」
くっくと歌うように笑いも含みながら、緑と黒の、これまた均整とれて見た目何かスタイリッシュなコスチューム姿になっていたその余裕かまし女は、にくたらしいほどにそんなセリフじみた言葉を吐くけど。何だとぉ、わけのわからないことをゆーな!!
「『巨大化』には『巨大化』……呼ぶのだよ、私らも、『しもべ』たちを」
意味不明な言葉はつらつら続いていくけど。「呼ぶ」? 「しもべ」?
「稲賀さん……わかった、呼ぶのね!!」
と、それに応える可憐な声が今度は背後から聞こえる。ええー、それでナヤ納得できたの? と思うや、
「フウカでええて。それよか行くで委員長、ミロカも続いてやー」
何となく蚊帳の外の私を置いて、フウカとナヤの二人は軽く頷きあうと、息の合った感じで右腕を空高く突き上げるのであった……
「「来い、ホエール/パンサー」」
続いてハモりつつ放たれた言葉は、何故か無感情の棒読みであったものの。次の瞬間、二人が呼ばわった通りの「モノ」達が、黒い立方体を形成するこの空間を、突き破らんばかりにして現れたのであって。
「……!!」
暗闇を引き裂くかのようにして疾駆するのは、金属っぽい質感見た目の、しかし、しなやかな曲線。「緑色の
……私たちの方へと向かってくる。これあれ? 二人が呼んだの? 仲間なの?
「『メカ』あるいは『ロボ』……決してメカニックでもロボットでも無い……」
フウカが呟いた言葉の12%も理解できなかった私だけれど、そんな素で立つ私を置いて、緑と黄色の残像を残しながら、二人は同色のその機械の獣のようなものの中に吸い込まれていく。
〈呼ぶんやで、ミロカも。魂の、命ずるままに……〉
フウカの、そんな悟り切ったような声が響く中、私もいつの間にか右腕を黒に塗りつぶされた天に向けて突き上げていた。何だろう、どういう思いかは分からなかったけれど、自分を絡めとろうとする、世界の、何もかもに対して、それらを、突き破れとばかりに。いやそこまでの考えは無かったけど、流れで、ノリで。
「うおおおおおおおッ!! 来たれ我にィッ!! 『鳳凰』ぅぅぅッ!!」
私のその呼びかけを待ってくれていたかのように。メタリックな「緋色」のボディを輝かせながら。雄々しき「鳳凰」の「メカ(あるいはロボ)」が、遥か空中の彼方から、私の元へと急降下で舞い降りてきてくれていた。
「!!」
有無を言わされずに、その「中」へと誘われる私。瞬間移動するかのように取り込まれた私は、メカメカしい計器類が居並ぶ、窮屈な「操縦席」にすっぽり嵌まっていたのだけれど。そして両手にはもう操縦桿らしきものが双方握られておる……そうか……私はあまり知らないけれど、これもまた「様式」じみた何かなのだろう……動かすことに理屈は要らない。ただ魂が命ずるままに、レバガチャすればいいはずっ(たぶん)!!
「おおおおおっ!!」
三人三体合わせて、目の前に立ちはだかる巨大化「鐵将」に突っ込んでいく。雄叫びを、自然に上げながら。しかし、
〈フハハハッ!! やはり些末!! それでも些末!! 体積など質量などッ!! 『オマジュネイション』全開の私にとっては皆目意味を為さぬのだよぉッ!!〉
阿久津の叫ぶ言葉はもう何だか常軌を逸しちゃってるけど、その五角形の鱗を纏ったような気味の悪い半魚人のようなフォルムは、呼吸をするたびに膨らんでいくようにも見えて。いや実際さらに大きくなってる……!!
聖徳記念絵画館の中央の丸いドーム状の部分に片足を乗っけた格好で高笑うその巨体は、いまや目測30mはあるんじゃないの? 対する私たちは「メカ」に乗り込んだとは言え、せいぜいが4~5m。大きさが全てじゃない、と言い放ちたいけど、相手のそのプレッシャー感は、何とも。先ほどの渾身の私らの体当たりも、さして効いてなさそうだし。どうする? このままじゃ……
〈ま、今のも挨拶代わり言うか、お約束やで。……ミロカ、委員長、『合体』や〉
私の操縦席の左側、曲面のディスプレイにぱしゅりとウインドウが開くと、そこにはフウカのにやり顔。「合体」。なんかその言葉ぴんとくるものある。そう言えば小さい頃、デン・ハーグでもテレビでやってた。えらく古い感じのファッションのヒトたちが出てた「特撮モノ」。でも結構好きだったかも。「魔法少女」より、何か滾るものがあったっけ。うんうん、魂で了解出来た。右側にもナヤの決意のこもった顔が映る。よーしよしよし。意思も疎通済み。いくぞ……
「「「摩訶★大合体!!」」」
三人の声が重なるやいなや、緋色の鳳凰、緑色の鯨、そして黄色の豹が、空中の一点に引き寄せられ集まっていく……正面のスクリーンには、その「合体」の様子を俯瞰で捉えた映像がなぜかご丁寧に映し出されているけど。
鳳凰のボディが真っ二つに裂け、鯨は三枚におろされたかのように水平に分離し、豹は四肢ばらばらになったり、そしてそれら分断されたパーツが再び組み合わさっていく……うーん、独特ぅー。
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