ラブ米書いてみた~スリーアウト~

 「あ、にゃんこ」

 登校中に、突然隣で姫月雪華(ひめづき ゆきか)が言った。

 雪華の視線を追うと、確かに道の端に猫がいる。

 「ホントだ。猫だ」

 俺、下田狗郎(しもだ くろう)はそう返した。

 「ちょっと触ってきていいですか」

 雪華は相変わらずの無表情で俺に問う。

 「ああ、いいよ。まだ時間あるし」

 俺はケータイを取り出し、時間を確認して言った。

 っていうか、『にゃんこ』って言ったよ雪華。可愛いなオイ。

 雪華は、そっと猫に近寄って、目の前に手を差し出す。人懐っこい猫らしく、くんくんと雪華の手の匂いを嗅ぐと、ペロッとなめ始めた。

 俺も雪華の手なめたいハアハア。

 雪華は俺の邪心に気づいたのか、眉間にしわを寄せて俺を睨んだ。時々、雪華は俺の心が読めるらしい。そこまで俺を想っているのか、と思いきや、本人いわく、『先輩の考えていることは単純でわかりやすいです。っていうか、知りたくもないのにダダ漏れです。やめて下さい迷惑なんで』らしい。

 みんな、わかってあげて! この子恥ずかしがり屋なの! 一種のツンデレなの! 可愛いな全く!

 と考えている間に、雪華と猫は打ち解けたらしい。猫は雪華に身を任せ、雪華はかすかに笑みを浮かべながら猫の頭や体をなでている。

 その光景があまりに可愛く和やかだったので、手に持っていたケータイで撮影した。

 ピロリロリン♪

 予想以上にシャッター音が大きかった。

 猫はその音に驚いて、一瞬毛を逆立てて逃げてしまった。

 「あ……」

 雪華は残念そうな声を上げて、逃げ去る猫を見送った。

 「……あ、そろそろ時間だぞ。行こう行こう」

 俺は雪華に声をかけた。

 「下田先輩てめえ何さらしとんじゃゴルアアア!」

 雪華は俺のみぞおちを回転を加えて思いっきり殴った。

 「グッハウ!」

 俺は思わず変な声を出してうずくまる。

 「謝れ……お前まず謝れ……」

 雪華はうずくまる俺の胸ぐらをつかんで、俺を見下してボソボソ呟いた。とても先輩にする仕打ちとは思えない。

 「……すいませんでした……あの……ほんとにすいません……」

 散々な朝だったが、雪華の微笑写真が撮れたので、まあ良しとしよう。


***


 「あ、おはようございます、下田先輩、姫月先輩」

 「やあ、おはよう、猫君」

 動物の猫が挨拶したわけではない。

 校舎に入ると、後輩の一年生、中島猫春(なかじま ねこはる)が俺たちに挨拶したのだ。二年生の雪華は女顔の猫春を気に入って、『猫君』と呼んでいる。ちなみに俺は高校の最高位、三年生なわけだが、何故か、後輩からあまり尊敬されてる気がしない。

 「人望ないんですね、先輩」

 雪華が言った。また思考を読みやがった。

 「うるさいな」

 「?」

 俺と雪華の突然の会話に、猫春は首をかしげた。

 「……やっぱり、下田先輩と姫月先輩は、付き合ってるだけあって仲が良いですね」

 突然の会話を理解できないまま、猫春はそう言った。

 「だろ?」

 「いや、付き合ってないよ」

 前者が俺、後者が雪華。

 「え? お二人は付き合ってるって、学校中で有名じゃないですか」

 猫春は眼鏡の中のぱっちりした目を丸くして言った。

 「猫君、それ、誰から聞いたんだい?」

 雪華は無表情で猫春に問う。多分答えはわかりきっている。

 「えーっと、ぼくはクラスの女子から聞いて、その女子は下田先輩が言ってた、って言ってましたけど」

 「やっぱお前か!」

 雪華は振り向きざまに、まだダメージが残っているみぞおちにチョップした。

 「俺ですスイマセンッ」

 あれ、やべっ、なんか目から塩水が……。

 「変なうわさ流さないでください。身の程を知れ」

 「ううう……もういいじゃん彼女で……」

 「あくまでも私たちは友達です。そこを変える気はないのでよろしく」

 再びうずくまる俺とそれを見下ろす雪華。

 玄関近くの廊下で繰り広げられているので目立つ目立つ。

 「じゃあ、先輩方は付き合ってはいないんですね」

 「そうだよ。下田先輩よりは猫君と付き合った方がマシだよ。あ、なんなら猫君、私と付き合ってみるかい?」

 雪華は妖しく笑って猫春に言った。

 「え……」

 猫春は顔を真っ赤にした。

 「ちょ! 待て雪華! お前、男嫌いの設定はどうした!?」

 「設定言うな。女顔はギリギリセーフです」

 「アウトだよ! 余裕でアウトだよ!」

 と、言っていると、チャイムが鳴ってしまった。

 ここから、教室が別で、書くことが何もないので、大幅に省かせていただく。


***


放課後。

 俺はいつものように二年の雪華の教室に来ている。

 「雪華、バレンタインのチョコくれよ」

 「先輩の体内時計はどこまで狂ってるんですか。今、春から夏になるところなんですけど」

 「だってさー、二月になったら俺受験じゃん。チョコもらうどころじゃないから、今もらっとこうかな~って思ってさ」

 「そういうことですか。でも、急に言われてもチョコなんて……ありました」

 「あったの!?」

 雪華は鞄の中を見て言った。俺は顔を上げる。

 「チ●ルチョコと板チョコ、どっちがいいですか」

 「あ、やっぱその程度ですよね……って、チ●ルチョコで済ます気か! 先輩に向かって恐ろしい子! ……あ、そうだ。板チョコを加工してハート型にして、俺にくれればいいじゃん」

 今日は料理部の活動日じゃないから、生徒は誰でも家庭科室を使えるはずだ。女の子らしく目の前で料理してる雪華が見たい。

 「加工……ですか。わかりました」

 と言いながら、何故か筆箱を取り出す雪華。

 「ハート型は難しそうですが、善処してみましょう」

 と言いながら、筆箱からカッターを取り出す雪華。

 「ストップ!!」

 思わず俺は叫んだ。

 「何ですか」

 遅かった。

 雪華は既に板チョコにカッターを差し込んで、ザクザク切っていた。

 「できました。さあ、どうぞお召し上がりください」

 ハート型の板チョコを俺に差し出す雪華。

 「…………食えるかあああああ! そんな筆箱の中に入れっぱなしのカッターで切ったチョコなんて食えるかああああああ!」

 「人に加工しろと言っておいて、何ですかそれ」

 言いながら、雪華は余ったチョコをモリモリ食べている。……よく食えるな、この子。

 「もういいよ! どうせ俺のこと嫌いなんだろ!? まともなチョコも食わせたくないほど俺が嫌いなんだろおおおお!? だったら友達になるとか言うんじゃねえよアホおおおおお!」

 俺は泣きながら机に突っ伏した。

 「……誰が嫌いなんて言いましたか……」

 雪華は静かにボソッと言った。

 「……ふえ?」

 俺は涙と鼻水ダダ漏れの顔を上げて雪華を見た。

 「汚い顔ですね」

 雪華はティッシュでそっと俺の顔を拭く。

 「チロ●チョコで良ければ食べますか」

 「え、……あ、うん。そんで、今何か言ってた?」

 「……別に何も」

 チョコはミルクが入って甘かった。

 

 〈了〉


おまけ


 狗郎「ホワイトデーは五十倍返しするからなっ♪」

 雪華「●ロルチョコ五十個もいりません」

 狗郎「……そういう発想か。そうじゃなくて、ブランドバッグとかさ」

 雪華「五百円じゃバッグは買えないでしょう。それに私、ブランド物には興味ないので、普通にクッキーでお願いします」

 狗郎「よっし! じゃあ、手作りクッキー御馳走してやるぜ!」

 雪華「すいません、やっぱ今のなしで」

 狗郎「なんでだよ!」

 雪華「先輩、クッキーに変な薬物混入させそうな気がします」

 狗郎「………………いや、そ、そんなことないよ?(滝汗)」

 雪華「……図星ですか」

 

 おわれ。

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ラブ米書いてみた 永久保セツナ @0922

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