第52話 炎上
炎上した首都アルマナで、ダーツは狂ったように、サングリル公国国民を殺すデルシャ王国の魔法兵と戦い続ける。
「はぁ……はぁ……カスどもが!」
<<果てなき業火よ 幾千と 敵を滅せ>>ーー
息をきらしながら炎の極大魔法を放ち、兵たちを消し炭にする。
「ぜぇ……ぜぇ……なんでだ!?」
まったくの奇襲だったことは間違いないが、それでも誰も感知できないほど近づかれることなんて果たしてできるのだろうか。
「ぎゃははははは!」
デルシャ王国の魔法兵が狂ったように叫びながら、逃げる民衆に魔法を浴びせている。こいつらは軍人の中でも、殺戮を快楽としている類の狂人部隊だ。それが、少なくとも千人はいる。間違いなく最悪の災厄がこの首都を襲っている。
「た、助けて」
軍服に気づいたのか、一人の男がすがるようなまなざしでこちらに助けを求める。
「ちっ……こっちに来い」
そう言って。
襲いかかってくる魔法兵を殲滅しながら、ダーツはすがりついてくる男を助ける。本来だったら、構わずに本隊の大将を狙って逆転を狙うべきだが、目の前で殺されている光景をどうしても見過ごすことができない。
「早く逃げろ。あっちは、まだ包囲が薄い。なんとか……生き延びてくれ」
そう言って、西を指差す。それは、もう願望に似ていた。気休め程度の情報だ。でも、なんとか一人でも多く生き残って欲しい。
「は、はい……ありがとうございます」
「……早く行け」
なにが『ありがとう』だ。アイツなら、そこに横たわっている少女も助けられた。アイツなら、すでに敵国の魔法使いを数百は殺していた。
アイツなら……
「くだらない」
思わず、そうつぶやいて自制する。なにを都合のいいことを。アイツはもういない。アイツは国を見捨てたんだ。それなのに、今更アイツをアテにするなんて。
それより、どこだ……どこにいる!?
「きゃあああああああああっ!」
その時、大きな叫び声が響き渡った。すぐに、その方に走ると一人のシスターが子どもの盾になろうとしているところだった。
「フハハハハッ! 死ねーーーー」
「ふざけんなゴミがーーーーーーーーーー!」
<<炎の徴よその偉大なる姿を愚かなる者に示せ>>ーー
シスターを殺そうとしている敵国の魔法使いを、一瞬にして消し炭にする。
「おい……大丈……あんた」
そこにいたのは、知っている顔だった。アイシャが後ろに10人以上の子どもを引き連れている。
「あっ……ダーツさん。ご無事だったんですね」
「……ああ、アンタもな」
「ええ。アムさんが、助けてくれたんです」
「アム!? アムがいるのか!」
「はい……私たちが教会から外へ逃げようとしていると、魔法兵たちが襲ってきたんですが、彼女が追い払ってくれて。それで、今は後ろで私とこの子を先にって」
その言葉にダーツは思わず安堵の表情を浮かべる。
「ったく……あの女だけは」
よく行く場所を片っ端から探したが、見つからなかった。しかし、まさか『大陸で一番ムカつく女』を助けてるなんて神様だって思わない。
「それより、子どもたちを安全な場所へ逃がしたいんです。どこに行けばいいでしょうか?」
「……西だ。おい、坊主ども。いいか? あの森までまっすぐに走って行け。倒れている奴らは見るな。『助けて』って言われても無視しろ。他の子たちがもし倒れてもだ。いいか、これは命令だからな」
子どもたちは恐怖の表情を浮かべたまま聞いていたが、その説明を聞きながら深く頷いた。
「よし、いい子たちだ」
そうダーツは笑う。
せめて、心を軽くしてやりたい。
自分の身を守ることが一番なんだ。
「……ありがとうございます」
アイシャは深々とお辞儀をする。
「早く行け」
「はい……あなたに神のご加護がありますように」
そう十字を切って、彼女は子どもたちと走りだす。
「神のご加護……さすがはアイツが惚れた女だ。いい感じでイカれてる」
思わず表情がほころぶ。こんな状況にご加護もなにもないだろう。まあ、しかしまともな奴はアイツとは付き合わないからなと、勝手に納得し始めた時、
「いい加減にしてよクズ男ども!」
<<果てなき業火よ 幾千と 敵を滅せ>>ーー
聞き慣れた声とともに、炎熱極大魔法が放たれる。そこには、いつもの見慣れた褐色肌の美女が立っていた。
「アム……おい、アム!」
「ダーツ!」
合流しした二人は、ガッチリと手を握った。
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