VOL.7

(しまった)

 

 そう思ったときはもう遅かった。奴はストックをグリップに装着し、銃口をこちらに向け、9×18mmマカロフ弾をまるで節分の豆の如く浴びせてきた。


 広い体育館に銃声が響き渡る。


 俺は懐からS&WM1917を抜き、横に転がり、辛うじて敵弾を避けた。


 同じ軍用銃とはいえ、こっちはリヴォルバー。いくら.45ACP弾を発射出来るとはいえ、ガチならたちまちハチの巣にされちまう。


 奴のいるところと、こっちとではちょうど体育館の端から端だ。


目測だが、距離にして60メートル。しかも頼りは月明かりだけときている。スチェッキンは有効射程距離は50~200メートルだが、この条件なら時間くらいは稼げる。


 俺は構わず、目の前にセッティングしてあったテーブルを片っ端から倒す。


 その間もマカロフ弾は間をおかずに襲い掛かって来たが、不思議なことにバチバチと音を立てて跳ね返されていた。


 体育館の端に、マット運動用のマットが幾つか積み上げられてある。


 俺はそこまでたどり着くと、前に倒して防護壁の代わりにしながら、暗闇の中を相手に向かって撃ち返した。


 一発が俺の頬をかすめた。


(ちっ!)


 俺は暗闇の向こう、わずかな明かりを頼りに連射する。


 向こうの銃声が止んだ。


 その瞬間、ドアが乱暴に開いて、警官隊がなだれ込んできた。


(遅ぇぞ!騎兵隊!)


 俺は心の中でありったけの声で叫びまくっていた。



 突然、体育館全体がまばゆいばかりに明るくなる。


 配電盤のスイッチを、一斉にONにしたのだろう。


 制服警官が俺を取り囲む。


 いつものことだ。


 俺は言われた通り手を挙げ、連中が認可証ライセンスとバッジを改めるのを待った。

 体育館の中はちょっとした『セント・バレンタインデーの虐殺』の後になっている


 机は倒れ、壁のあちこち、倒れたテーブルの裏側には弾痕がそこらじゅうに出来ている。


 俺が倒したテーブルはどうやら合板の安物ではなく、金属製のかなりお高いものだったらしい。


 道理で重かった筈だ。


 しかしそのお陰で俺は頬をかすめただけで済んだわけだ。


 奴は、とみると、俺の弾は足と腰に当たり、他は全部外れている。



 俺は制服の警官おまわりを押しのけ、奴のところまで歩み寄った。


『何で・・・・何で邪魔をしたんだ・・・・俺は、この復讐に命をかけていたのに・・・・』


 奴、水野昭夫は、救急隊員の手当てを受けながら、恨みがましい目で俺をにらみつける。


『これが俺の仕事だからだよ。』


 俺はそれだけ言うと、奴に背中を向け、体育館の外に出た。


 いつもは五月蠅うるさまとわりついてくる警官おまわりも、切れ者マリーの神通力か何か知らないが、今日に限って苦虫を噛みつぶしたような表情で俺を見ているだけで、取り立てて何も言わなかった。



 奴が仕掛けた銀色のボンベは全て爆弾処理班の手で取り外された。何でも小型のタイマーが取り付けられてあり、明日のパーティーが始まる直前になると、中からガス(致死性ではないが、かなり悪臭を放ち、失明位はさせられる成分)が噴き出す仕掛けになっていたそうだ。


 俺はそんな騒ぎを後ろに、体育館の外に出た。


 そこには依頼人の吉岡すみれが立っていた。


『体育館を穴だらけにしちまったな』


『何とかなります』


 彼女はそう言って深々と頭を下げた。


 礼を言われると、なんだかくすぐったい。


『ギャラは契約通り、何なら損害額だけは差し引いてくれても構わん』


 彼女の後ろを、担架に乗せられた水野が警官に付き添われて運ばれていく。その外側をどこで嗅ぎ付けたか、マスコミの連中のカメラやライトの砲列が押し寄せていた。





 翌日、俺の事務所には警察が一度電話をかけてきたきりで、後は静かなもんだった。


 学校の方は吉岡すみれが上手く処理してくれたんだろう。幸い修理代の弁償を請求されることもなかった。


 彼女の話によれば、同窓会は別の日にまったく別の場所で開催されたそうだが、出席者はごく僅かにとどまったという。


 学校側にすりゃ、外聞も良くなかっただろうし、実際にいじめをやっていた元生徒からすりゃ、水野の企みを知れば、二の足を踏むだろうな。俺は思った。


 そんなことはどうだっていい。


 俺は金を貰い、やるだけのことをやっただけだからな。


 今日もバーボンが旨い。

 

                               終わり


*)この物語はフィクションです。

  登場人物その他は、全て作者の想像の産物であります。






 





 


 

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Lonely little Army 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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