第3話 生け簀の鯉⑴


 オカルト研究部では、主にホラー小説やホラー映画、ホラーゲームを研究していたらしく、部室の机の上いっぱいに中古のホラーゲームのパッケージが山と積まれている。ゲーム機は机の下の段ボール箱に隠され、映画や小説は壁の棚に並べられている。「これ教師に見つかってないのか?」と思ったが、なぜか顧問の先生は、毎日この部室に足を運んでは俺の様子を逐一見にくる。何も文句は言ってこないし、叱ってくることもない。先生は死んだような目で、ただ俺の背後のパイプ椅子に座り、だらだら飲み物と菓子をつまみながら俺のプレイングを見ているだけだった。明らかに部長を押し付けられたであろう俺の様子も、他に誰もこない寂れた部屋の空気も、何処吹く風、という感じだ。

 俺が部室を訪れた最初の日だけ、先生はこう聞いてきた。


「山倉君は、なんでこの部に入ったの?」


 なんと答えたか忘れたが、たぶん「担任の先生にやってみろって言われて」と答えた気がする。実際そう言われたからだ。担任の先生は体育会系のゴリゴリマッチョな人寄りのゴリラで、たぶん俺が諸々を説明したセリフも、半分はそのクソでかい右の耳穴から左の耳穴へ抜けていったに違いない。もう半分は、知らないが、筋肉を震わせる微弱な周波数にでもなって消えたのかもしれない。とにかく「やってみろ!」としきりに言われた。ゴリラとは会話はできない。それは人間の作り上げた文明社会における永遠の真理である。


 兎にも角にも、俺の答えも、オカルト研究部顧問の先生にとってはどうでもいいことらしかった。「あっそ」と言ったきり、先生は初日から、吸血鬼みたいな真っ黒の長いカーディガンをふわりと翻して勝手を簡単に説明し、ゾンビみたいに白い指でアイマスクを取り出して、部室の中にある簡易なソファですこやかに寝始めた。幼女や美少女や美人のお姉さんが猫のように丸くなって眠る姿ならいくらでも見ていたいものだが、いい歳したおっさんがすると、そこにはやばい雰囲気しかなかった。

 部の活動は、基本的に平日毎日のようだった。土日は一応休んでいいらしく、それはよかったな、と思っていたのだが、顧問の先生に「僕は土日もいるよ」と言われて、なんか来ないといちゃもんつけられるかな、などと迷い始める俺である。


 とにかく、先生に言われた部の活動内容は、主に「鑑賞した作品の考察と分析、そして感想を日誌に書き残すこと」であった。


 なので今日も、購買でペットボトルのお茶とカロリーメイトを買い、部室で活動を始めることにした。

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