第10話 一発逆転

第10話 一発逆転


 ここでちょっと状況整理。

 梟たち(めんどくさいからこれでいいよね)の主張は。


 ① さきに手を出した方が悪い。

 ② 証拠がある。

 ③ 証拠は信頼できる。

 ④ 証拠により姉ちゃんがいきなり攻撃した。

 ⑤ だから犯罪者を引き渡せ。

 ⑥ 爺はこのギルドの人間だから証人として機能しない。


 というもの。

 これに対してゴートンさんたちは。


 ① 痴漢行為は犯罪である。

 ② 女の子が身を守るために攻撃するのは当然の権利である。

 ③ 彼らの証拠は信用できる。という主張を言質を取った。


 これは主張というより確認だ。


 そしてじいちゃんがおもむろに眼帯を外した。

 眼帯の中には目玉はなく。代わりに石がはまっていた。


「なによ気持ち悪いわね」

「全くだ」


 ケバ女のドミニカつまりケバニカが文句を言う。魔法使いもそれに追従するが筋肉男だけが青ざめた。


 そして爺さんはその石を取り外し、テーブルの上に置く。テーブルの上であの時の一幕が立体的な記録映像として展開された。

 もちろんあのギンと呼ばれた冒険者がいきなり姉ちゃんの胸を揉んだのも映っていた。

 まあ、実際にあいつが揉んだのは俺が作った水まんじゅうなんだが、見た目は完全に変態行為である。


 その後ギンの腕が焼かれ、のされ、三人が這う這うの体で逃げ出すまで。


「うっ、嘘よ、でっち上げだわ!」

「そうだ、こんなもの…見たことも聞いたこともない!」


「いやいや全く不勉強ですね、そっちの彼は知っているようですが?」


 筋肉男はぐっと詰まった。


「これは…教会が管理している真実の宝珠というものだ…教会の管理だから偽造も改竄もあり得ない…

 この宝珠の記録は…直ちに証拠として採用される」


 筋肉男の説明に反発したのは当然梟の二人だ。

 相変わらずそんなものが何の証拠になるのか。というものだ。


「それならそちらの魔道具でも同じでは?」


「つ、つまり証拠はお互いにかみ合わないということよね、だったら…」


 ケバニカがなおも食い下がるがそれを止めたのは筋肉男だった。


「証拠として採用されるのはこの宝珠の方だ。

 これは教会の権威そのものだ…どんな裁判でもこれが採用される。

 これを無視するというのは教会に対する宣戦布告だ…

 国王でも破門される。

 破門されれば国が亡びる。

 これはそういうものだ…

 争えば…我々は一人残らず極刑だ…」


 うーん、思ったよりすごいものらしい。


「こんなもの!」


 なければと考えたんだろうが、いくら何でも考えがなさすぎるケバニカだ。

 だがケバニカを止めたのは杖の男だった。

 伸ばされた腕を梟の杖でぶったたき、なんかすごく痛そうな音がした。


「も…申し訳ない…どうやら私たちが騙されたらしい…

 その…

 あいつらは若手のルーキーで…期待していたんです…

 こんなことをするなんて…」


 苦渋に満ちた表情。素晴らしい手のひら返しだった。


「状況が分かったところでその犯罪者三人は引き渡してくださいな。正式に事実関係を調べて官憲に裁いてもらわないといけませんしね」


「いや、それは待ってください、ギルド内の不始末です。処分はうちで…」


「いやいや、だってあなたさっき犯罪者はごまかしがないように、内々の処理などあってはならないといっていたじゃないですか」


 ゴートンさんは人の悪い笑顔でにやにやしている。

 彼らの主張を入れるならあの三人はすぐに引き渡されてこちらで取り調べを受けるべきなのだ。

 だがそれはまずいのだろう。


『絶対にグルです?』

『いい機会だと思ったですね?』


 まあそういうことだね。

 少なくとも証拠の捏造は絶対に噛んでいる。

 それがばれれば大事ということだろう。もう必死だ。


 そうなるとこらえ性のないやつは切れたりする。


「うがあああぁぁぁぁっ、やってられるか戦争だ!」


 跳ね上がったのはケバニカ女史だ。

 腰の剣を抜いて、でも次の瞬間ギュルギュルと回転して床にたたきつけられた。


「ぐふっ」


 ケバニカが立っていたその場所には爺さんがいつの間にか移動していて、なんかちょっとかっこいいポーズで立っていた。

 ケバニカは口から泡を吹いてぴくぴくしている。


「ふーむ、やっと勘が戻ってきたかな。これでも聖導騎士の次席まで行ったんだぜ」


 おー、かっこいい。なんかわからんけど。


 そこから梟は平謝りだった。

 やっている本人たちはかなりの屈辱を感じているのかもしれないがほかにどうしようもない。

 これが公になれば冒険者ギルドの資格停止もありうるらしいからね。


 まあここで全て決められるような話でもないので協議継続。

 でも逃げられないように『誓紙』というのを入れさせることになった。


 証拠改竄を含めた事実の究明。あの三人の冒険者の正しい処罰をちゃんとするというものだ。

 なんでも神様の名のもとにいれるもので破ることはできないのだそうだ。理屈は分かんない。

 爺さんはそういうこともできる資格を持っているんだと。


 そしてケバニカが剣を抜いて暴れたことに関しては証拠隠滅を図った…ような向きも無きにしも非ずなので、これも継続して調査。

 ただこれは明らかに梟側の犯罪で、無罪放免とはいかないのでとりあえずの賠償としてかなりのものが引き渡された。


 まず彼らが普段使っている魔動車。魔道具の一種だね。ものすごい高級品なんだって。

 これと併せて金貨で一〇〇〇枚。

 これでケバニカのことは手打ちになる。

 ただ件の事件との関連に関してはこれから調べるということらしい。


■ ■ ■


「まあ、これで当分はおとなしいでしょう」


「全くだ」


「これで家にちょっかいをかけてくるようではね…自分の首を絞めるようなものよ」


 ゴートンさんたちはそう言ってゆったりとお茶を飲んだ。

 俺たちはというとホットミルクだったりする。

 贅沢だ~。


「でもよかったんですか? なんか中途半端な感じが…」

「姉ちゃんの言う通りだと思いま~す」


 俺としてはあの三人を引き取って事実の究明をするものだと思っていたのだが…


「まあ、仕方がねえさ、この町は魔物の領域が近いからな。あれほどでっかいギルドがなくなると手が足りなくなる」


 爺さんはそう言って煙草をふかした。

 ちなみにキセルです。


「そうね、あそこはギャングみたいなもんだから一度入ると抜けたくても抜けられないのよね。

 これで力を削ってやれば、まともな冒険者を増やせるわよ」


 おお、なんと、そんな計画が。

 というかこの辺りってそんなに魔物おおいのか。


「何と言っても近くに迷宮がありますからねえ」


「「迷宮?」」


「あっ、姉ちゃんとハモった」


「え? はまった? やだ♡」


 姉ちゃんは頭の中が発情期。


「思春期って言ってあげな」


 あー、それそれ。

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異世界転生。俺に与えられたスキルが『水芸』だった件 ぼん@ぼおやっじ @74175963987456321

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