第9話「コンビニ店員と常連客」(終)
「土日お泊りデート!?」
金曜日。学校の帰り道、奈々と一緒に歩いていています。
「うん。2人になりたいなあって」
「それ絶対アレじゃん。大人の階段登るよね?」
「さあー?」
私は知らんぷりをする。
「まあ、好きなのはわかるけど早くない?」
「舌入れるキスはしたよ」
奈々は歩く足を止めた。
「……仁美、あんたってそういう子だったっけ?」
「そうかもしれない」
続けて言う。
「私さ、よくゆうくんそーゆーことする夢みてたからさ」
「変態じゃん!」
「するかわかんないよ」
あははと笑いながら言った。
確かにそーゆーことは早いのかもしれないけど、いずれ恋人はすることだし。
思いながら私は胸を触る。
「んー。やっぱり小さいよなあ」
「する気満々じゃん」
私は笑って誤魔化す。
「まあ。早くゆうくんを私のにしたいんだ」
「ヤリ逃げとかされたらどうするの? 後悔するよ? 初めてならなおさら」
「それは平気だよ」
そう。私は知っている。
ゆうくんの過去を。
それを知って、私は思ったのだ。
ずっとゆうくんのそばにいて、受け止めてあげたいと。
「私は結婚する気満々だしね!」
「あーはいはい惚気ね」
私の家の前に着いた。
「じゃあね」
「うん。またね」
家のドアを開けるとお母さんが飛び込んできた。
「仁美〜! おかえり! これあげるね!」
四角い物を貰った。
これって。
「お母さん! なんでこんなの持ってるの!」
「決まってるでしょ。お父さんとの余り物よ。弟か妹できるから期待しててね!」
言いながらスキップでリビングに戻って行った。
「はぁ」
明日かぁ。
ドキドキするなぁ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「七城、明日ラーメン行かね?」
学校の帰り道、三木と帰っている。
「悪い。土日は用事があるんだ」
「どーせ榎本さんだろ? ホテルか? セックスか?」
俺は黙る。
「……否定しろよ」
「いや。まだわからん」
「……そうか」
俺の肩に手を置き四角い物を渡された。
「それやる。ちゃんとつけろよ。相棒」
「恩に着るぜ相棒。この借りは必ず」
駅に着き三木と別れる。
「じゃあな相棒。大事にしろよ」
「おうよ。お前も三山と仲良くな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ゆうくん、親出かけたのでいつでもオッケーです!』
ついにこの日が来てしまった。
『わかった。向かうね』
そう送って家を出る。
親には友達の家に泊まると言ってある。
電車に乗り、仁美のいる駅に向かう。
スマホであることを調べる。
あることって言うのは、まあそういうことだな。
調べていると通知が来た。
『今日のご飯はどうしましょうか』
『仁美の手作りで』
『わかりました。じゃあ買い物手伝ってください』
『おっけ』
返信をしているうちに駅に着いた。
「ゆうくん!」
改札を出てまず聞こえてきたのは天使の声。
「仁美。来てくれてたんだ」
「はい。驚くかなあって思って!」
えへへと笑う。天使か。
「買い物行きましょ!」
「そうだね。いこっか」
トンキホーテの地下にあるデパートで買い物をする。
「いちごだ!」
「いいよ。好きなの選びな」
俺が言うと仁美は一番高い物を持ってきた。
「これで!」
目が輝いている。こりゃ断れねえ。
カゴに入れて買い物を続ける。
「何作るの?」
「私カレーしか作れません」
カレーか。仁美のカレー。
「色々体力になるもの入れられますしいいかなと」
う、うん。
買い物が終わり、外に出る。
「結構太陽出てるな」
「そうですね。もうちょっと薄着で来ればよかったです」
駅の前を通ると嫌な人物に会った。
「あ」
「あ」
仁美とその嫌な人物、鈴華はじっと見つめ合う。
「そっか。付き合ってるんだ」
「はい。過去はどうであれ、今は私の彼氏なので」
「取る気ないよ。じゃあね」
手を振りどっかに行った。
「すみません。威嚇してしまいました」
「いいよ。気にするな」
歩いて仁美の家に着く。
仁美が鍵を開けて、家の中にお邪魔する。
「あっ」
仁美の匂いがする。
「なんですか?」
「仁美の匂いするなあって」
「そ、そうですか。早く入ってください。暑いです」
押されて中に入る。
玄関には小さい頃の仁美の写真が飾ってあった。
「小さい頃も可愛かったんだな」
「小さい頃は、です。今は可愛くないです。普通です」
そう言って階段を登った仁美について行く。
一番端の部屋のドアを開けて、俺を招き入れる。
「ここが私の部屋です」
シンプルな部屋だった。
綺麗に片付けられていて、ピンクのシングルベットに勉強用の机、本棚があった。
机には嬉しいものが飾ってあった。
「写真、飾ってくれてるんだ」
「はい。宝物なので。あ、お茶持ってきます」
仁美は部屋を出た。階段を下る音が聞こえる。
それにしてもこの部屋は仁美の匂いが濃い。
変態みたいな言い方になるが、本当に濃いのだ。
俺は枕に顔をつけた。
「仁美の匂いだ」
もしかしたら俺は匂いフェチなのかもしれない。
布団もフカフカだ。
もっとこのまま仁美の匂いを嗅いでいたい。
「七城くん。お茶持ってきまし……たよ」
ある意味で死後硬直だ。
「なにしてるんですか」
「いい匂いだなあって。へへ」
「今じゃなくてもいいじゃないですか。どうせ今日一緒に寝るんだし」
…………………………。
「そ、そうなの?」
「そうですよ。狭いけど我慢してくださいね?」
「は、はい」
夕方になり飯の時間になった。
仁美はエプロンをつけてカレーを作る作業に出た。
「七城くんはそこで座っててください。私の料理スキルを見てもらいます」
「そっか。でも野菜切るぐらいは手伝うよ」
「いえ。それは結婚してからに取っときますよ」
いちいちドキッとする事を言う子だ。
エプロン姿の仁美は、今の俺から見るとすごくエロく見える。
30分ほどしてカレーができた。
「体力つくものたくさん入れてるんで頑張って食べてください」
「わかった。いただきます」
「いただきます」
味は簡単に言うと普通のカレーだが、仁美が作ったと考えると何よりも美味く感じた。
「世界一のカレーだな。店出せる」
「そんな大袈裟な。レトルトですよこれ」
「そうなの?」
「嘘です。照れ隠しです」
そう言って黙々と食べている。
過去最高のカレーだな。本当に。
「お風呂どっちから入ります?」
「どっちでもいいよ」
ぶっちゃけ言えば後に入りたい。
湯船があるなら、ね?
「じゃんけんで決めますか」
「いいね。そうしよっか」
頼む、俺の運よ。負けてくれ。
「最初はグー!」
「じゃんけん!」
俺がグーで仁美もグー。あいこだ。
「あいこってことは2人で入れってことですかね?」
この子はえっちな子なのだろ。絶対。
「あいこでしょ」
俺は無視して続けた。
「負けました。じゃあ七城くん先で」
「一緒に入らない?」
「無視して続けた罰です。入ってきてください」
言われた通り、着替えを持って風呂に向かう。
服を脱いで風呂場に入る。
いつもここで仁美が。
考えるのをやめた。
シャワーで髪を濡らしシャンプーで洗う。
水で流したら次は体だ。
前を洗って、後ろを洗う途中だ。
「お背中お流しましょうか?」
笑い混じりに声が聞こえた。
こいつからかってやがるな。
「じゃあ頼むわ。よろしく」
「本気で言ってます!?」
「本気本気。洗ってくれるまで出ないから」
ガタン、と音がなった。
……まじ?
俺はとっさに前を隠した。鏡は曇っているが一応鏡にも映らないようにだ。
「それ貸してください。流します」
「はい」
渡すとゴシゴシと洗われる。
「力加減大丈夫そうですか?」
「平気。もっと続けて」
「は、はい」
後ろを見て顔を見る。
「前向いてください。ちゃんと隠してくださいよ。本当に」
「隠してる隠してる」
「……毛もです」
上の方も隠した。
この子よく見てるなあ。
「洗い終わりました。じゃあまた後で」
すぐさま出て行った。
俺は洗わず残った足を洗い、歯を磨く。
そしてもう一度、一応男の部分を綺麗に洗った。
俺が風呂から上がるとすぐさま仁美が風呂に入った。
女の子の風呂は長い。1時間もかかっていた。
「お待たせしました」
「おう」
仁美について行き階段を上がって部屋に入る。
「もう寝る時間ですね」
「え。まだ9時だけど」
ベットに引っ張られた。
俺と仁美は横並びに小さいベットに横たわる。
黙って見つめられた。
気づくと俺はキスをしていた。
舌を絡めるキスだ。
仁美の匂いがする。
仁美の味がする。
それだけで俺を元気にする興奮材料は十分だった。
「……カレーが効いたんですかね?」
「いや。カレーもそうだけど仁美が効いたかな」
「私も同じ状態ですよ」
…………。
「仁美、愛してるよ」
「私も愛してます。ゆうくん」
お互いキスを交わし、暗闇の小さなベットで愛を育んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あれから1年が過ぎた。
バイトに新人が来た。
榎本仁美、俺の彼女だ。
「ありがとうございました!」
彼女は満面の笑みで客に言う。
「いい挨拶じゃん。素晴らしい」
「ゆうくんの見てたからね。当然だよ!」
小さな胸を張って言う。
「そんなに張ってもないもんはないよ」
「そうかな? ゆうくんに揉まれるようになってからBにはなったよ?」
こいつ、客いないからいいけど場所考えろし。
「今日はお泊りだしね。ゆうくんの家で」
「だね。楽しみだ」
「お風呂は一緒に入ろうね」
こいつ。ひぃひぃ言わせてやる。
「ふふ。悪い顔してるよ?」
「普通の顔だよ」
俺たちは笑う。
そして2人で言うのだ。
「いらっしゃいませ」と。
思い返せば元々俺と彼女はただのコンビニ店員と常連客だった。
それが今となってはかけがえのない恋人だ。
人生何があるかわからないってのはよく言ったものだ。
こうして彼女が隣で笑っていてくれるのは俺がここでバイトをしていたからだ。
こんな運命的な出会いってラノベみたいじゃないか。
「ゆうくん。なんで笑ってるの?」
「いや。小説書こうかなって思ってさ」
「へー! タイトルは?」
「そうだな。【コンビニ店員と常連客】かな」
コンビニ店員と常連客 自然 シュウ @shizen-syuu
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