1-13

 ドアを開けると、すぐそこの階段の陰にメリッサが立っていた。

「ここは禁煙だ」

 彼女はわたしの右手に持ったタバコを一瞥してから、つぶやいた。

「いまさらそんなこと気にするわけ?」

 わたしがそう言うと、メリッサは何も言い返そうともしなくなった。だって、屋上にいること自体がイリーガルだし、彼女がここで待ち伏せていたことも好ましいことじゃなかったから。そしてなにより、わたしとエリスンの一戦自体が認められるようなものじゃなかった。

「……エリスンを逃がす口実がほしかった」

 メリッサは、横を通り過ぎようとするわたしに向けていった。そう言われたら、わたしも歩を止めざる得なかった。

「ヤツは中絶を拒否して、任務への復帰も拒否した。もちろん上層部がそんなこと認めるハズがない。無理矢理にでも子供を堕ろさせて、仕事に戻すつもりだった。ヤツは才能の塊だからな。どうにかして前線に戻させる予定だった……。だから、私にはエリスンが『もはや才能の枯れたロクデナシで、無垢な一児の母シングルマザーとして野には放ったほうがマシだ』と上層部思わせる必要があった」

「そのために、クラスBの最下位であるわたしと競わせて、八百長で負けさせたわけ?」

「そうだ。そうすればエリスンは第一線を離れて、クレセント内の事務員として働くこともできる。子育てをしながらな。しかも、おまえの受けている実験を継続させることもできる。一石二鳥だろう?」

「確かにそうだけど。でも、どうしてエリスンの肩を持つわけ? どうしてアイツ自分の子供を産みたいなんてバカなことを言い出したの?」

 するとメリッサはひときわ大きなため息をついて、

「お前にもいつかわかるよ。そのむかし私にも息子がいた。すぐに死んだけどな」

 ドアが開く。

 潮風が再び飛び込んできて、わたしは目にしみる思いになった。右手からゆらりと立ちこめた紫煙がどこかに吹き消されてしまう。

「M2、おまえもいつかその副作用ノロイが解けたらわかるかもな。人間、いつまでも十七歳じゃいられないんだ。エリスンもそうだった」

「そういうことね、わかってるよ。でも、わたしはその前に死ぬから。その副作用ノロイのせいでさ」

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