エピローグ
三十年ほど経ったある日、僕は再び姉の家にやってきていた。
出迎えてくれた夏樹はとても綺麗な人になっていた。
「久しぶり、冬樹お兄さん」
姉と違って、目はパッチリと大きい。これは母親にそっくりだ。
姉にその旨を伝えると、こう言っていた。
「この子を創るときに、私みたいな死んだ魚のような眼を持たせるのはかわいそうだと思って、二重まぶたになるように遺伝子を発現させておいたわ」
やはり、僕の姉は天才だ。
三人であの、苗木を植えた場所へと向かう。
小さかったはずの苗木は見ない間に、とても大きく生育していた。立派な、大樹に育っていた。もう、寄りかかれるくらい、強かで悠々しい。
やっぱり、僕は木々が好きなのかもしれない。もちろん星も好きだ。けれど、姉と父が愛したものに、親近感に似た何かを抱いた。
だって木は幸せの象徴のように感じるから。みんなに恵みを分け与え、見た人すべてに感慨を与える。
それは、たとえ、父であってもだ。
少し歪な曲線を描いた枝葉の伸び方が父親の面影を感じさせる。
でも、それでいい。
家族は少し歪んでいるくらいが丁度いい。色んな家族の形態が、家族の分だけある。
それは僕らにとって、叢の中にある僅かで見えにくい、藍色の愛。
時に藍色は、おどろおどろしく見えてしまうけれど、それも含めて僕らは家族なのだ。
晴天の下、僕らは木に体を預け、空を見た。きっと夜には満天の星が空を埋め尽くす。
星々と樹、それらが並ぶ景色は、きっと悪くない。むしろ、きれいな景色のはずだ。
間もなく、朽ちてしまう彼の精神、僕はこれを見届けようと星に誓った。
終わり
藍色の叢 紫 繭 @14845963
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