3
「冬樹お兄さん、起きて。朝ご飯の時間だよ」
僕はまぶたを開けると、目の前には姉によく似た姿の少女が居た。あたりを見回すと、一階のソファーに寝てしまっていたみたいだ。腰が痛い。ゆっくりと起き上がると、僕は目をこすり、立ち上がる。
「起こしてくれてありがとう。夏樹」
僕は彼女の頭に手を乗せると、ほほ笑んだ。手早く朝ご飯を食べ、牛乳を飲み干す。ここの所、朝ご飯はいつも忙しいが仕方が無い。
身支度を整え、僕は夏樹と一緒に外へと出た。
家の裏手の林の中を通り抜け、空が見える、開けた場所へと出た。
そこには、二日前と同じように、姉が悠然と立っていた。
「朝から駆り出してしまって悪いわね。早速だけど作業を始めようか」
そういうと、姉は僕らにゴム手袋と鎌、ごみ袋を手渡した。僕は黙って受け取り、辺りの草を刈り始める。子供の頃の様に、僕らは他愛のない話をしながら。
まどろっこしいことは何もない、ただ暖かく感じるような、気持ちのいい話だ。
やがて、程よく草を刈り終えると、姉は一つの小さな苗木を取り出した。
「私が夜なべして作ったんだから、感謝しなさいよ」
そういうと、姉はくまのできた目をほころばせた。
僕は、地面に穴を掘り、そこに苗木を植える。土をかぶせ、肥料をまいた。
「これでオッケーだよね」
「ええ。これできっとよかったのよね」
僕らは空を仰いだ。雲一つない晴天。木漏れ日が気持ち良い。
昨夜、僕は、こう提案した。
「僕ら三人のDNAを使って木を創ろう」
そうして出来上がった、一本の小さな苗木。これなら倫理的な問題も起こらない。父親は、木として、もう一度生かすことにしたのだ。
「これじゃあ、父と話が出来ないじゃない」
姉は不満そうに言う。これは、姉の望んだ結末とは少し違うかたちかもしれない。けれど、みんなが幸せになるなら、これが一番良いような気がした。
「話はできなくても、父さんを感じることが出来るよ。それに、父さんと話したところで、憎まれ口しか叩かないでしょ」
そう言って、僕は茶化したのだった。
昼前、僕は姉の家を出た。かつて、姉と小学校に行く時にしていたあいさつのように、小ざっぱりとした挨拶だった。
「研究頑張って、身体壊さないように気を付けてね」
「そっちこそ、天文学で、功績を残すように努力しなさいよ」
それだけ言って、別れた。
夏樹には手を振って別れた。
やっぱり、僕らは似ていないようで、似ている。互いが互いのことを似ていたくないと願う家族じゃないか。
プライドが高くて、偉大な姉。
権威があって、自己を犠牲にしてまで、息子を助けた父。
何も無いけれど、人一倍人間味のある僕。
そんな僕らに会話は不要なんだ。肌で家族を感じられればそれでいい。沈黙さえも、僕らにとっては会話になるはずだ。
いつの日か、みんなで、星を眺めたい。そんなささやかな夢を叶えよう。そう決意して、僕は姉さんの家を去った。
なんて綺麗な秋晴れの空。これなら今夜は綺麗な星空が見えるだろう。
僕は思い切りほほ笑んだ。
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