第5話 初のふたりぼっち
「行っちゃったな」
ぽつりと春日は呟いた。
夏休みの月曜日。
冬雪は、夏海の両親の迎えの車に乗り込み、空港へ向かって行った。
「そうだね」
「なんだか妙な感じだ」
「寂しいんでしょ? 」
「いや。寂しくない」
「また、強がっちゃって。顔に寂しくて仕方ないって書いてある」
「見るなよ」
「いいじゃない。修学旅行以来だもんね。冬雪が家を空けるの。」
「修学旅行は、学校の行事だけど…… 今回はさ。自分で選んで行っただろ。しかも、恋人と一緒に。だから、何となくさ…… 」
「取り残されたような気分? 」
「んー」
「僕も同じだよ。冬雪の成長を感じる。反面、寂しさも感じる。でも、多分、これで良いんだ」
「スゴイな、アキは」
「全然。でも、僕には、ナナさんが居る」
「分かってる。でも、普段居るのが当たり前だから、なんだか物足りない感じっていうか…… 」
「分かる。 こうやって、親も子離れして行くんだろうね」
「きっと、あと10年もしないうちに、ココから離れて行くんだろうな…… 」
「そうだね」
「はぁ」
「そろそろ店入ろ。熱中症になっちゃうよ」
「ナナさん、久々に大人ココアでも作ろうか? ココアは精神を安定させる効果があるよ」
「そうだな。頼む」
「それにしても、ナナさんは変わらないね。もうすぐ40なのに、綺麗なままだ」
「何言ってるんだよ。そういうアキこそ、相変わらずモテるだろ? つい一昨日だって、OL風の女に告白されてた」
「は? なんで知ってるの? 」
「旬が教えてくれたんだよ」
「えー!? 旬のヤツおしゃべりだな…… 。勘違いしないでよ!不可抗力! 僕は今でもナナさん一筋!」
「疑ってないよ。旬も森國と上手く行ってんのかな? 」
「多分ね。 一度別れた時はどうなるかと思ったけど、あっと言う間によりを戻したよね。その後は、仲良くやってる筈だけどな」
「アレは、森國が悪い。まんまとハニートラップに引っかかって」
「でも、未遂だったんだし」
「旬は、気持ちが揺らいだ事に腹を立てたんだ。分からなくも無い」
「あの時の、森國社長は見てられなかったね。2人が戻って本当に良かったと思う」
「なぁ。俺たちも、冬雪が居なかったら、別れたりしてたのかな? 」
「どうだろう? 僕には想像がつかない」
「冬雪が来てから、毎日が戦争だったろ? 」
「そうだったね。最初はお子様ランチ作って機嫌を取ってた。悲しい事を思い出さないように」
「そうだったな」
「ナナさんなんて、保育園が休みの日曜日に顧問先に呼ばれて、連れて行った事も有ったよね?」
「あった。あった。あの頃は、俺から離れなかったんだ」
「保育園の運動会で、ナナさん、泣いてたよね? 」
「なっ。アキだって、入学式で泣いてたろ?」
「入学してから、暫くは心配で、こっそり後ろ付いて行ったよね? 」
「小ちゃかったから、心配だったよな」
「学校から帰ったら、カウンターで宿題やって」
「俺の帰りが遅くて、カウンターで寝てた事もあったよな」
「そういえば、なんで僕にはお父さんが2人いるの?って聞かれて、困ったっけ」
「うん。だけど、ありのままを伝えるって言うアキの判断、間違ってなかったと思う」
「だと良いけど」
「大丈夫だ。 冬雪はちゃんと受け入れて、あんなに素直に真っ直ぐ育ってる」
「そうだね。冬雪のお母さん、天国で喜んでくれてると良いけど」
「きっと、喜んでくれてるよ」
「ひとつだけ申し訳ないのは、同性愛に全く疑問を持ってない事かな」
「だな。あいつは多分、俺たちと同じバイだよ。好きになったら性別なんて関係無いんだ」
「そんな感じだね。 そういえば! 冬雪、ナナさんの言ってた通り、ネコだったみたい」
春日は、少し眉をひそめた。
覗いたのか?と言いたげに。
「待って、待って、
「
キロリと睨んでおく。
「まさか! 航空券の予約にカードが必要かな?と思って、ついでにおつまみ持って行ったら、偶然バスルームから2人が出て来たの」
「それで、なんでネコって分かるんだ? 」
「夏海君に支えられるようにして、出で来たから、もしかしてそうかなって」
「へぇー。もう、一線超えちゃったのか」
「それは、“まだ” だと思うな。」
「なんで分かるんだ? 」
「よく考えてみて。朝起きて来られなかったり、歩きにくそうにしてた事ある? 今のところ無いよね? 」
「あー。それもそうだな」
「もしかしたら、今回の旅行で、メイクラブしちゃうかもね」
「なんで嬉しそうなんだよ」
「恋人と結ばれるのって幸せ感じるでしょ? 冬雪も、あの満ち足りた幸福感、感じちゃうのかなぁーって」
「俺はなんだか、複雑」
「もう、そんな事ばっかり言わないの。 ねえ、ナナさん、今夜は2人で久々に部屋でゆっくり飲まない? そして、明日はミニシアターに映画を見に行くんだ」
「昔みたいに? 」
「そ! 昔みたいに」
了
僕冬ツレ夏、父さん達は春と秋 とまと @natutomato
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます