Epilogue



Day.0 病院



 金村マリアは真冬の夜、大上総合病院の屋上に立っていた。

 大上先生にお願いをしたときは、まさか協力してもらえるとは思わなかった。手術頑張ったからね、と頭を撫でてくれ、看護師の目を盗んでここに連れてきてくれた主治医には感謝しかない。あとで怒られなければいいのだけど。

 すぅ、と息を吸い込んだ。冬の匂いがする。自然と背筋が伸びた。遮るものが何もないこの場所は、風が強い。しっかり着込んできたのだけど、やっぱりちょっと寒かった。それでも、どうしてもここが良かったのだ。空に一番近い場所。

 徐々に光に慣らすために着けていたアイマスクを外す。外で目を開けるのは初めてだった。顔を上げ、ゆっくりを目蓋を持ち上げた。


 満天の星空。やさしく瞬く星が、マリアを迎えてくれているようだった。思わず吐息がこぼれた。白いため息が夜空に昇っていく。ぐるりと見渡すと、大好きなあの星座を見つけた。右肩に輝く赤い星へ手を伸ばす。その瞬間、細い光が横切った。冬の夜空に、幾筋もの光が現れる。気が付けば、全天に星が降っていた。


「わあ、流れ星だ!」


 それは夢のような光景だった。すべてのものには祝福が訪れる、そんな気がした。星が落ちた後の空には、静けさが戻っている。静寂の中、オリオン座のベテルギウスが輝く。凛として、透明で、微かな憂いを含んで。

 マリアの頬に、涙が伝う。流星群の夜、少女は美しい世界を知った。



<了>

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星を落とす(小説版) 草野冴月 @horizon_kusano

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