魔王とメイド、ヤクザの元締めになる

「おい兄ちゃん、ちょっと面貸してもらおうか」

「そこの女と、ガキもだ。こちとら、舐められたら商売あがったりなんだよ!」


 魔王に挑んで骨折した大男は、すぐに仲間を呼んできた。

 数十人に膨れあがった、チンピラの大所帯。

 人相が悪い男ばっかりで、ミリアがゲンナリした顔になる。


「うわ、どーするんですか、魔王様……」

「ご、ごめんなさい、わたしのせいで……!」


 ふたりを巻き込んだ格好の女の子は、泣きそうな顔だった。

 その髪を、魔王の手がわっしゃわっしゃと撫で回す。


「ふん、余の心配をするなど100年早いわ! ククク、ここは魔王としての力、存分に見せつけて……!」

「あれ、魔王様? 手加減とか、出来るんですか?」

「……ぐぬっ」


 魔王は思い出した。

 魔界のモンスターでも、自分がぶん殴ると、パアンッと弾け飛んでしまうのだ。

 ぱっと見た限り、人族のチンピラに大した防御力は無さそうだった。


「いかん、買ったばかりの服が汚れてしまう……! あの服選びをもう一度やるなど、ゴメンだぞ!」

「ど、どうしましょう……」

「ううむ……おい貴様ら、ここでは何だし、目に付かぬところに行かぬか?」


 それ、こっちの台詞。

 3人を取り囲んだチンピラ集団は、変なモノを見る目で魔王を見つめた。




 街外れの空き地。

 チンピラ集団は、あっけなく土下座して命乞いをしていた。


「か、勘弁してくれ! あ、アンタみたいな魔物使いがいたなんて、知らなかったんだ!」

「もう孤児院のガキには手を出さねえ! 本当だ、許してくれよお!」


 彼らが本気でビビって見つめる先には、召喚された魔王のペット達。

 エンシェントドラゴンのリュー、ウロボロスのチロ、ケルベロスのポチである。


「……あの。余はまだ、何も言っておらぬのだが……」


 とりあえずペットを呼んだ魔王だが、口上を述べる間もなく、秒速で命乞いが始まったので、出鼻をくじかれてしまった。

 ミリアも、わりと感覚がマヒしてるので、腑に落ちない顔である。


「みんないい子なんですけどねー。ポチ、お手!」

「わんっ!」


 体長十メートル超のケルベロスが、ぽてっとお手をするの、すごくシュールな光景だった。

 助けられた子どもも、超展開に口をポカンとさせている。


「見ろ、あの女、怪物をアゴで使ってるぞ……!」

「何てこった、バケモノは一人じゃなかったのか……!」

「おいちょっと、そこのふたり。人聞きの悪いこと、言わないでもらえます?」

「「ひっ……!」」


 腕組みしてチンピラを睨むミリア。

 その後ろでポーズを決めるペット達。

 メイド少女も、そろそろ魔王の風格が出始めていた。


「結局、余は事情が掴めておらぬのだが。貴様らいったい、何がしたかったのだ?」


 チンピラ達はお互い、顔を見合わせて。

 しばらく考え込んだ後——


「おい、てめえ! 何しやがったんだ!?」

「そもそも、おめーがこの方に手を出さなきゃ……!」


 最初の大男を締め上げ始めた。

 ひどい責任転嫁だった。




「ふむ。なるほど……」


 話は単純であった。

 チンピラ達は、王都をブイブイ言わせているヤクザ一家。

 とある孤児院の地上げを依頼され、脅迫材料に、孤児を誘拐してみたところ、逃げられた。

 それで追い回していたら、運悪く魔王と接触。今に至る、と。


「わ。情状酌量の余地ないですね。見た目通りの悪党じゃないですか」

「……本当に見た目通りだったな……」


 平謝りを続けるチンピラを前に、ふたりは考える。

 さて、この後、どうしようと。


「とりあえず、貴様は家に帰るがよい。孤児院の皆が、心配しているのではないか?」

「う、うんっ! あ、ありがとうっ、その……ええと……まおーさまっ!」

「フハハハハ、礼など不要! せいぜい、余の名を町中に知らしめるがよいわっ……!」

「私の名前は、広めなくっていいですからねー!」


 手をブンブン振って、孤児院に帰る子どもを見送ると、ふたりは一息吐いた。

 

「やれやれ、今日は色々あって疲れたわ……リュー、チロ、ポチ。もう帰ってよいぞ」


 ペット達を送還すると、魔王は大きく背を伸ばして、空を見上げる。

 何だかんだで、もう時間は夕暮れ。

 思った以上に、時間を使ってしまった。


「おいミリア。今夜は街に泊まっていくか? 正直な、夜の飛行はオススメせぬ」

「そうですね、ちょっと疲れちゃいましたし……」

「そ、それでしたら! あっしらが、ボスと姐御のために、宿を手配します!」

「へいっ、お前ら、おふたりの宿だぞ! ひとっぱしり、最高の宿を見つけて来いや!」


 チンピラ達が三々五々に駆け出して、ふたりのために宿を探し出す。

 すごい手のひら返しだった。

 というか。


「ボス……?」

「姐御……?」


 魔王とメイド、いつの間にかヤクザ一家の頂点に立ってた。

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お調子メイドは、魔王様をからかいたい! @keteru

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