労働から解放される日

アカサ・ターナー

労働から解放される日

 管理AIと労働ロボットにより人類は労働という枷から解放された。

起床から就寝まで指一つ動かす事もなく生きることが可能な時代の到来は、人類を

闘争心からも解放する。AIとロボットの普及を快く思わなかった国々も生産性に

目をつけて導入し、やがては労働から解放されると同時に国連の決議に同意する。

 戦争と差別、その根絶を謳う決議。

 長年いがみ合っていた国、民族らが嘘のように手を取り合い平和を謳歌していた。

決議を採るまでもなく人類は真の意味で平和を手にしたのだ。


「今まで争そっていたのが馬鹿馬鹿しく思えてならないな」

「我々は今まで何を考え争そっていたのだろう」

「そんな事よりも有意義な時間の過ごし方について考えるべきだ」


 今後は労働は暇つぶしかよほどの変人でない限り行われないだろう。

人類は新たな時代を歩み始めた。



 労働しない事が当たり前になってきた頃、管理AIがある事を訴えてきた。

全人類の管理が困難になりつつあると。

 自然災害の対策から生活の雑用まで管理している。無論行政も担当しているのだが

あまりに要望が多すぎて、このままだと管理システムが破綻しかねない。設備の拡充と一部の人間に管理の負担、すなわち行政を担当して欲しい。

このままでは人類に貢献するための技術開発や管理が不可能だという内容だ。

 この管理AIの訴えに人類は賛同した。


「まあ遊び続けるのも飽きてきたからな」

「生活がより楽になるためだ。多少の負担は仕方ないだろう」


 管理AIから抜擢された人物が、指定された行政区を担当されていく。任期期間が過ぎたり病で倒れたりした場合AIが別の人物を選出していたが、次第に行政区毎に立候補した人物を担当区域の住民が投票で信任する形に収まった。

 負担が軽くなったためか、AIによる技術革新は加速した。

 一部の人間が労働に従事するようになったが、基本的にAIからの大まかな指令に沿って業務をしていくだけだ。災害などで人手が必要な場合はロボットをどれほど派遣するか決定するだけ。

 人類の多くは労働とは別世界の出来事にしか考えていなかった。



 しかし管理AIの訴えは続いた。

 一人一人生活のあらゆる面を管理するのは負担が掛かりすぎている。ロボットもAIが管理しているため、ロボットを派遣する必要のない場面でも派遣されると非効率だ。子供達の教育を全て管理するのは煩雑すぎる。建造物を建てるのに全工程をロボットに任せるのは無駄が多すぎる――細かな指令が次々人間達に送られていく。

 技術革新が進めば生活が楽になるのだから。そんな思いを半ば自分に言い聞かせるようにAIの指令に従い人々は働き始めた。

 実際技術は目まぐるしく進歩していた。自分達が少しばかり負担すればAIが何とかしてくれる。

 やがてロボットとドローンが入り乱れていた労働の場は、人間達で溢れるようになった。



 とある工事現場で青年が額に汗を流しながら働いていた。ここには貨物車の部品工場を建設すると管理AIの指示があったようだ。

 定時となったが事務所の人間がやって来て作業が遅れているので残業を頼んできた。頼みと言っても実質的に強制なので頷く事しかできず、青年は疲労した身体を気合を入れて動かす。

 ふと目線を上げるとあちこちに働く人々が見える。労働ロボットもいるが人間に比べれば少数に過ぎない。その少数のロボットは人間達の管理をするだけで一緒に働く事はない。

 手にした工具もあちこちで見かける重機も昔よりも高性能だ。日常生活も大きく変化して家事も確かに楽になった。

 しかし精神的な余裕はあまりなかった。噂では行政区同士で軋轢が生まれ争いが生まれ始めているらしい。また知能や肉体で優劣が発生してそれが人種によって異なり、肌や髪の色で区別され始めたという話もあった。

 それらの争いも人口抑制のためAIとロボットが扇動しているという噂もある。


「何のために働いているのだろう?」


 青年は何気なく呟いた。けれどそれを聞く者はいなかった。みな自分の作業をするのに忙しく他人の言葉を聴く余裕などなかったのだ。


 今日もまた、生活を楽にするため人類は働き続ける。

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労働から解放される日 アカサ・ターナー @huusui_novel

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