壱 : 入学

教室へと向かう道中で気が付いた。

この学校の校舎は、外見は立派な煉瓦造りである。

だが、内面はというと、外見とは裏原に、至る所が木造なのだ。

教室、廊下、壁、見渡す限り、木。

パッと見では何の木なのかはよく分からないが、辺り一帯に独特な香りが漂っている。変に落ち着く匂いだ。

明日からこのような環境で勉強することが出来るのだと思うと、何だか期待で胸が膨らむ。

そんな事を思いながら、廊下を歩いていると、やがて ”精到コース 1-6“ と書かれたプレートが取り付けられている教室を発見。

「いよいよだな。ココが俺らの教室か...」

緊張を解す為か、来斗が話しかけてきた。

「ああ。じゃあ、開けるぞ......」

ドアに手をあて、俺は息を呑んだ。




ガラガラと音を立てて開くドア。

俺達に向けられる冷たい視線。

誰だコイツと言わんばかりの目で見てくる数十名のクラスメート達。

教室に入った瞬間、これか...。まあ、最初は誰もが初対面。最初はあまり会話が弾まないが、日を重ねるごとに溝も浅くなるだろう。

そんな事を思いながらふと黒板を見てみると、座席表なる物が貼ってあった。

それによると、名簿番号順に席が定められているらしく、俺の席は右から3列目の前から2番目だった。来斗は最右列の一番後ろ。初っ端から最後列とは、運の良い奴だ。

座席表の通りに着席した後、暫くすると、とある女の先生が教室へと入って来た。

顔を見てみると、先程教室まで案内してくれた人だった。

「新入生の皆さん、おはようございます。黒板に今日のガイダンスを貼っておくので、各自見ておくように。入学式開始が9時15分なので、あと20分ほど待機しといてください」

そう言い終わると、座席表の下辺りにマグネットで紙を留め、咄嗟とっさに教室の外へ出て行った。

まさか、あの人が担任?

ハキハキとした喋り方といい、表情の固さといい、どこか冷酷そうだな。

まあ、俺の中3の時の担任のような、ずっと嘲笑ヘラヘラしている頓痴気とんちき野郎よりはマシさ。

そのうち、何人かが立って前の紙を見始めたので、俺も見てみようかと思い、席を離れた。


『ご入学おめでとうございます。

本日のガイダンスは、以下の通りです。

入学式は全クラス合同で行いますので、くれぐれも遅れないように注意して下さい。

9時15分 第一回入学式 挙行

9時55分 教室へ戻った後に担任挨拶

10時20分 クラス内自己紹介

10時50分 委員会決定

11時10分 倶楽部決定

なお、倶楽部決定が終わり次第、解散とします。

初日から学校に忘れ物をすることの無いように』


嫌に詰々ギチギチとしたスケジュールだ。

何の行事が何時何分に始まるかまで、御丁寧に書いてある。この様子だと、校則も相当キッチリしてるんだろうか。

俺の出身中学校が結構緩めの校則だっただけに、厳しめいのだけは御免ごめんだ...。




......10秒。11秒。12秒。13秒。14秒.....。

1秒、また1秒。刻々と時間は過ぎて行く。

9時15分までが、あまりにも暇だ。時計の秒針を目で追うことくらいしか出来ない。他に何をするかすら思い付かない。

隣の席の人に話しかけようにも、誰一人会話をしていないこの静かな環境の中では、はなはだ目立ってしまうに違いない。

周りを見渡してみても、ほとんどの人がスマートフォンに目が釘付けになっている。不運にも、今日は偶々たまたま持ってくるのを忘れてしまったのだ。

おまけに最前列の中には寝ている奴もいる。

結局、秒針を目で追うのも直ぐに飽きてしまった。やはり、いさぎよく待つしかないのか。

たったの15分。普段ならあっという間に過ぎてしまうくらいの短時間なのに、何故か今日は長く感じてしまう。

これが、“緊張ナーヴァス” ?

ああ、入学式はまだか......。




しばらくすると、ガタン、ガタンと、椅子や机やらがぶつかり合う音がする。

周りを見渡すと、皆が席から立とうとしている。

時計を見ると、9時8分。入学式の開幕7分前だ。

まだ時間はあるが、みんな準備をしてるみたいだし、俺達も周りに合わせて体育館へと向かう事にした。

実際に歩いてみて、実感。二号棟から体育館までは、歩いてすぐ着いてしまうような距離感だ。

階段を降り、二号棟を抜ける。上靴スリッパを脱いで、体育館内へと入館。

中には金管パイプ椅子が規則正しく並べられ、半分から後ろの列は、生徒の保護者でほぼ満席状態だった。

生徒の席は半分から前側らしく、式が始まる前に着席しておくよう言われた。

普通、入学式といえば、入場から始まり退場で終わる物だが、どうやらそれが無いらしい。

ここら辺は、この学校独自の制度なんだな。

“私立” らしさが垣間かきま見える。

生徒全員が着席し終わり、会場が静かになると、壇上ステージにいる先生が披露アナウンスをした。

「只今より、第1回、風咏信楽高等学校、入学式を挙行致します」

続いて、

「校歌斉唱」

盛大な洋琴ピアノの伴奏が流れ始める。

メロディも歌詞も分からなかっただが、幸いにも、体育館の壁に歌詞パネルが飾られていた。

風咏高校のいち生徒として、早く校歌を覚えなきゃな.....。

そう思い、俺は校歌に耳を傾けた。




州桜すおう山々やまやま 見上みあげては

自然しぜんめぐみに 感謝かんしゃせよ

まなびのみち一筋いちすじ

つばさひろげて いざかん

嗚呼あゝ 我等われら風咏ふうえい信樂しんぎょう

嗚呼あゝ 永遠とわすこやかに


州桜すおう靑川あおがわ 見下みおろして

自然しぜんうるお感受かんじゅせよ

成果せいか賜物たまもの つかまんと

かいためこそ いざかん

嗚呼あゝ 我等われら風咏ふうえい信樂しんぎょう

嗚呼あゝ 永遠とわすこやかに』

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週刊「風咏版」 阿瓦裂 硫禅 @alto_stationery

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