週刊「風咏版」

阿瓦裂 硫禅

幕開け

『この度、州桜すおう駅から徒歩7分の場所に、風咏ふうえい信楽しんぎょう高等学校が開校する事になりました。

開校予定日は4月2日です。

初年度の入学予定者数は、充塡じゅうてんコース・精到せいとうコース合わせて230人前後を予定しています。

入試要項や校内設備については、学校法人風咏学園までお問い合わせ下さい。


学校法人 風咏学園

風咏信楽高等学校

〒XXX-YYYY 華山はなやま県州桜市右橋町みぎはしちょう15

TEL:XXXX-YY-ZZZZ

FAX:XXXX-ZZ-YYYY』




去年の5月くらいだっただろうか。このような文面の手紙が、俺の家に届いたのは。

当時の俺は、公立中学校通いの3年生。

まるで志望校もマトモに決まっていない時期。そのような中で、届いたのがこの手紙だった。

学校の近くに位置する州桜駅は、俺の家から徒歩3分。すなわち、風咏高校は俺の家から実質10分程度。俺からしてみれば、非常に通い易いだろうと考えた。

両親に相談し、学校の資料を請求。入試要項や受験料、パンフレットなどが入った封筒が自宅に幾つか届いた。

第一にパンフレットを開けると、まず最初のページに現れたのは、その学校の校舎の写真だった。...とは言っても、実際は “絵” 。当時、まだ校舎は工事途中であったため、完成予想絵図が載せられていた。

その絵を見る限り、校舎は煉瓦レンガ造りだろうか。全体が、赤茶けた色をしている。

もうこの時点で、俺の期待は最高峰に達した。外観だけで志望校として選択したいくらいだった。

その位、俺の心は風咏高校の校舎に惹かれた。

お次は2ページ目。各教室の絵が載っている。これまた、“絵” だ。理科室に家庭科室、視聴覚室や情報科学教室なんてのもある。それに、こうも書かれている。どれもこれも最新の設備を備えた部屋である、と。

3、4ページ目を開けると、そこには設置予定の委員会や倶楽部クラブの紹介ページがあった。委員会欄を見ると、“スクープ委員”、“ホームページ作成委員”、“約款やっかん委員”、“修文しゅうぶん委員“ など、まるで聞いたことのないような名前が並んでいる。倶楽部欄は、”男子・女子バスケットボール部“、”男子・女子テニス部“、”陸上部“、”剣道部“ などの体育系部活から、”自然科学部“、”文藝ぶんげい部“、”吹奏楽部“ などの文化系部活まで、幅広いジャンルの部が記してあった。


これはもう...入るしかないじゃねえか。


そう思った俺は、早速志望校欄に “風咏信楽高等学校” と記した。

コース選択か。“充塡” も “精到” も聴き慣れないコース名だが、恐らくは普通科と進学科のような区別なのだろう。

俺は迷いも無く “精到コース” を志願した。

建てられたばかりで、おまけに私立である。周囲からストップが掛かるかもと恐れたが、幸いにも、担任や塾の先生からの反対は無かった。

そんな訳で、おおよそ半年間の受験勉強生活が始まった。

過去問がない上に私立高校であったため、入試対策とてもは手を焼いたことを覚えている。

受験日の2、3ヶ月前には、学校が終わったらすぐ塾に行き、夜遅くまで受験対策講座を受けていた。

そんなこんなで、当日を迎えた訳だ。受験対策が十分だとは言い切れず、少なからず解けない問題も幾問かあったが、当時の自分が出し切れる力を全て出したつもりだった。

筆記試験後の面接時に「横田よこた 佑哉ゆうやさん」と呼ばれた時は思わずドキッとしたが、緊張を抑えながら、堂々とした態度で面接を受けた。

そうして、全受験者380人の中で、無事に合格者枠を掴み取った。

そこには、何とも言い表し難い気持ちがあったものの、恐らく “ヨロコビ“ が大多数を占めていたのだろう。




来たる入学式の日。

学校指定のブレザー服に身をまとい、俺は “風咏信楽高等学校” へと向かった。

到着するや否や、俺の心は激しく揺さぶられた。

事前に校舎の有様ありさまはパンフレットの写真で見ていた筈だ。だが、今目の前にある校舎は、俺の予想をはるかに越える物だった。

校舎本体はやはり煉瓦造り。規則正しく敷き詰められた煉瓦が、なんとも美しい。そして、校門には洋燈ランプが下げてあった。写真で見るよりよっぽど良い風景。校舎だけで映えるのではないかと思う程だ。

どこか新しく、どこか郷愁的ノスタルジックであった。

期待に胸を膨らませながら、校門を通り抜けると、これまた西洋風な中庭の様なものが現れた。両脇には噴水があり、その周りには芝生が敷き詰められている。

そんな風景にあっけらかんとしていると、

「あ、佑哉じゃん。おひさ!」

と、声を掛けられた。振り返って見れば、なんてことはない。中学校3年生の時のクラスメート、木舟きぶね 来斗らいとだった。確か公立高校を受験するとか言っていたような...。

「来斗!お前もここ受けてたんだ」

「ああ。本命は公立だったけど、勉強不足で落ちちまった」

なんて笑いながら話してる。

「そうか、それは残念だったな...。まあでも、同じ風咏生同士、これからも宜しく」

同じ高校に中学時代の仲良い奴が居ないと物凄く寂しい気持ちになるが、なんとか回避できて良かった。

入り口付近には先生方が立っており、各教室まで引率してくれた。

基礎学習を中心として、資格試験や就職を狙う学生が集まる充塡コースは1年1組、2組、3組。そして、発展学習を中心として、難関大学を狙う学生が集まる精到コースは1年4組、5組、6組に振り分けられていた。

「新入生の受付はこちらです!」

と、女の先生から声をかけられ、自分の組と出席番号を確認。神の悪戯イタズラなのか、俺も来斗も6組だと判明した。

そうして、二号棟にごうとうに位置する教室へと向かい、歩いていった。

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