帰る場所
自宅の前に着くと、そこでは慌ただしく準備をしているモンスター対策室の連中と……門の前でオロオロと周囲を見回している、ナナの姿があった。
「ナナ!」
「オーマさん!」
俺が軽く手をあげてみせると、ナナは慌てたように……転びそうなくらいに不安な足取りで俺へと向かって駆けてくる。
そうして、当然というかなんというか……躓いて転んだナナを、俺は危なげなく受け止める。
「おいおい、危ないな」
「す、すみません……でも、オーマさんが無事だと思ったら、つい」
「そうか、なら仕方ないな」
言いながら、俺はナナをギュッと抱きしめる。
俺を心配してくれていたが故だというのであれば、これ以上言うことなど何もない。
「勝ったぞ、ナナ」
「……はい、心配したんですよ」
「負けるはずがないさ」
そう、負けるはずがない。
俺には、こうして心配してくれる人が居る。
それは俺の愛する……まあ、まだ一方通行な感はあるが、そのうち両想いになる予定だ。
ともかく、そんなナナが居る限り負けられないし、負けるつもりもない。
「あ、タケナカさん! ご無事でしたか!」
「ミーシャか。悪いが空気を読んでくれると助かる」
「そんなもん知りませんよ!」
清々しいな、おい。怒るぞ。
「それより、ウィル・オー・ウィスプ……本当に倒しちゃったんですね!?」
「ああ、倒した」
渋々ながらナナを離し、俺は懐からウィル・オー・ウィスプのカードを取り出し渡す。
「カードもこうやって回収した」
「ほ、本当にウィル・オー・ウィスプのカード……信じられない。一体、単独でどうやって……?」
「どうもこうも、この剣でだな……マテリアライズ」
俺が剣を地面に突き刺してみせると、ミーシャは再び驚きの表情で剣を凝視する。
「ええ!? こ、この剣……とんでもない力を放ってますけど!? もしかして神剣では!?」
「ん? ああ、さっき結構な魔力を籠めたからな……まだちょっと残ってたか」
「ちょっとってレベルじゃないんですが……タケナカさん、一度魔力をしっかり測定してみません? たぶんとんでもない数値出ると思うんですが。あとやっぱりソレ、神剣ですよね? 残り火みたいなのでソレって、有り得ないんですけど」
「今度な」
適当にあしらいながら、俺は「残り火」の単語でふと思い出す。
「……そういえば、この剣から火が出たって言ってた奴が居たな」
「火、ですか?」
「え? タケナカさんって加護無しじゃありませんでしたっけ」
「ああ、その通りなんだがな」
試しに剣に魔力を流し「火よ出ろ」と念じてみるが、火が出る気配はない。
……となると、やはりアレか。
「ナナ」
「はい?」
「あんなウィスプだとかの火よりも、俺の愛の炎の方が熱く燃えているぞ」
「ほへ!?」
「可能であれば、俺の愛の炎がどれほどのものか見せるんだが……あまりにもデカすぎて、街を焼くかもしれん」
「い、一体何を……って、ああ!」
「火が!?」
2人の声が響き、俺も剣を見ると……確かに刃が僅かではあるが火を纏っているのが見える。
ちなみに此処は家の中ではないから、いつだったかナナの言っていた聖域だか神域だかでもない。
「……やはりな」
「え、何が『やはり』なんですか!?」
「どうやら、俺の愛の炎は現実に火属性の魔力になるらしい」
「ええ……?」
「聞いたこともありませんよ……」
まあ……というよりは、詩なんだろうな。
たぶん俺がナナに捧げる詩が火に関するものだったせいだろう。
ナナ……すなわち七詩姫。
彼女に捧げる火の詩が火の魔力として俺に力を与えたと考えるのが自然だ。
まあ、ミーシャの居る前でナナが神だと明かすのはどうかと思うので、そうは言わないが。
「どうだ、ナナ。俺の愛の炎が本物であると分かってもらえただろうか」
「……でも街、焼いてませんよ?」
「焼いてほしいのか?」
「いえ、そこまでは言いませんけど……」
まあ、確かに愛の炎と呼ぶには少々頼りないのは認めるが……。
「でも、なんていうか……オーマさんが火属性を使えるようになったのは、ちょっと嬉しいですよね!」
「……君の為だ」
「むう、オーマさんはその辺、もうちょっと自分の為でもいいと思うんですけど」
「それは無理だな」
今回の戦いで、俺はその辺をよく理解できている。
「俺はどうやら、自分の為には頑張れない。ナナ、君の為だから俺はやろうと思える」
そう、俺は結局「諦めてしまっている」事に変わりはない。
それでも、そんな俺に残っている……いや、生まれたのは「ナナの為に何かしたい」という気持ちだ。
その為なら、俺は災害級だろうとなんだろうと立ち向かっていける。
「愛している、ナナ。俺は、君を喜ばせるために生きていきたい」
「……それなら、オーマさんがもうちょっと自分の為に生きていけるようになってほしいです。それが、私は一番嬉しいです」
「そうか、それが一番……か」
難しいな。
ナナの為に「自分の為」を頑張る……違うな。
自分を優先……なんか嫌だな。
「頑張ってはみるが……やはりナナを優先したいぞ」
「愛してるから、ですか?」
「ああ」
即答する俺に、ナナはちょっと疲れたように……けれど、確かな笑顔を向けてくる。
「仕方のない人ですねえ、オーマさんは」
「君に会えて、俺の世界は変わった。当然のことだ」
「もっと世の中には色々とあると思うんです」
「それなら、俺はナナと一緒にそれを体験したい」
俺の魂からのその言葉に……ナナは、小さく溜息をつく。
「なら、そうやって色んなものを見つけて、オーマさんが私の為じゃなくて自分の為に頑張れるようになったら……」
「なったら?」
聞き返す俺に、ナナは悪戯っぽく微笑む。
「……その時に、私の返事を聞かせてあげます」
「ナナ。俺は俺の為に今すぐその返事を聞きたい」
「ブー! それは反則、ダメです!」
「何故だ!」
愕然とする俺を置いて、ナナは家に向かって走り始める。
「……何故だ……」
「ま、なんていうか……頑張ってくださいね、タケナカさん」
俺の肩をミーシャが叩き、スタスタと家へと歩いていく。
「ウィル・オー・ウィスプは倒しましたが、また似たようなのが現れないとも限りませんし……貴方みたいな優秀な術士との縁を切る理由もありません」
「ん? あ、ああ……そういえば、魔力異常を探るっていう話だったな」
「ええ。その結果、貴方みたいな人に会えたんですし……魔力災害地域になったこの場所では、これからも色々と起こる可能性はあります」
「色々?」
「ええ、色々です。たとえばウィル・オー・ウィスプを単独撃破した『世界最強』と勝負する為にやってくる術士の起こす騒ぎとか……ね?」
今回の件は間違いなくトップニュースになりますしね、と言いながらミーシャは笑う。
「世界最強……俺が、か?」
「ええ、公式記録では間違いなく。これから大変ですよタケナカさん?」
そう言ってミーシャも家へと歩いていき……俺は、思わず自分の手を見る。
「世界最強……か。俺が……ねえ?」
「オーマさーん! 何してるんですかー?」
「ああ、すまんナナ。今行く!」
どうにも実感は無いが……まあ、そんなものなのだろう。
俺にできる事は、そういう連中に挑まれた時に無様に負けてナナに失望されないようにしておく事くらいか。
何はともあれ……。
「騒がしい我が家っていうのも、中々いいもんだな」
そんな事を言いながら、俺も家の門をくぐる。
気付いたら世界最強。
なんとも言えない気分だが……称号よりも愛が欲しいな。
そんな事を考えながら、けれど……俺は、俺も気づかないうちに、僅かに微笑んでいた。
「ま、いらない称号ではあるが……これも愛の為だ。精々守らせてもらうとしようか」
それが何かに繋がるのであれば……うん、やってやろうじゃないか。
きっとそれも、愛というやつなのだ。
加護無し術士の最強道~神様に告白したら世界最強になりました~ 天野ハザマ @amanohazama
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