シンジュク・ショウダウン3
籠める。
この手の中の剣に、俺は魔力を籠めていく。
魔法というのは厄介で、一部の特殊な才能のある奴を除けば杖などの魔力変換器を使わなければマトモに発動できない。
しかし、この杖も実に高い。
しかも魔力を籠められる上限が上がっていくほど値段も上がっていき……最低額でも俺には買えなかった。
だからこそ俺が使っていたのは、ただの紙でも相当量の魔力を籠められ、その代わりに自分で術式という形に調整する符術。
それでも、やはり上位の杖には遠く及ばないのだが……この剣は、恐らくそれより上だ。
すでにかなりの魔力を籠めているはずだが、まだ上限が見えてこない。
俺の手の中にある剣は激しく輝き始め、空気がビリビリと震えているのが分かる。
「オオオ、オオオオオオ……」
それを見て警戒したのか、ウィル・オー・ウィスプが風音のような声を響かせ始める。
同時にその姿が火の玉のような形態へ変化していき、俺へと突撃してくるのが見える。
肌を焼くかのようなその熱量は……しかし、俺を恐怖させるには至らない。
「そんなに怖いか、この剣が! ナナの力の籠った、この剣が!」
偶然とはいえ、この剣はナナの力で神器へと変化した。
俺の魔力を充分以上に受け入れる事の可能なこの剣を握っていると、ナナが隣にいるような錯覚すら覚える。
……どっかの教授は知らん。もう忘れた。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」
叫び、迫るウィル・オー・ウィスプへと剣を振るう。
その身を覆う炎を斬り裂き、バヂンッという音をたててウィル・オー・ウィスプの本体らしき球体を切り裂く。
「オオオオオオオオ!?」
「ぐっ……熱っ!?」
身体を覆う魔力だけでは防ぎきれない熱。
核に近づきすぎたせいだろうか、服に多少の焦げが発生したのが分かる。
「だが、斬ったぞ。無属性の魔力が通じにくかろうが、通じないわけじゃない」
本当は属性魔法を使えれば話は早いんだが……出来ないものを望んでも仕方がない。
この剣に籠められる魔力の上限はまだまだ上のようだし、俺の魔力もまだまだ底をついてなどいない。
だからこそ、俺は剣に更に魔力を注ぎ込んでいく。
剣の輝きが直視できない程になり、空気が歪んで……スパークが発生し始める。
……どうやら、この辺りが限界か。剣から魔力が溢れ始めている。
狂ったように放たれるウィル・オー・ウィスプの炎は……しかし、揺らめく空間に弾かれ俺には届かない。
ひょっとして、ではなく確実に魔力で空間が歪み始めている。
だが、これなら確実だ。
「い、けええええええええええええええ!!」
放つのは術でもなく魔法でもなく、斬撃という形で放った「ただの」魔力。
ゴウ、という轟音をたてながら放った巨大な魔力の刃は輝きを放ちながらウィル・オー・ウィスプを真っ二つに斬り裂き……それでは足りぬとばかりに収縮し、巨大な光の柱へと変化する。
「オオオ、オオオオオオオ!?」
その光景は、俺が放つ術の中ではマジックバーストにも似ているだろうか。
無論、規模はマジックバーストとは比べ物にならないが……その光の柱の中に消えていくウィル・オー・ウィスプを見ながら、俺は手の中で剣をクルリと回し地面に突き刺す。
そうして、光が消えた後……ヒュルヒュルと回転しながら飛んできた一枚のカードを、俺はしっかりとキャッチする。
「ウィル・オー・ウィスプのカードを確認。これにて浄化完了……ってな」
今まで手に入れたどのカードとも比べ物にならない魔力を秘めたカードを懐に入れると、周囲のビルの瓦礫から歓声が聞こえてくるのが分かった。
「すげえ、あのバケモノを……本当に倒しちまった!」
「アイツって、本当にあの無能なのか!?」
「バカ、何処が無能だよ! 俺はアイツはいつかやると思ってたぜ!」
「あ、テメエ!」
なんだか口々に叫んでいるのが聞こえるが、まあ……悪くはない気分だ。
「それに、あの剣……なんかすげえな」
「ああ、あんな魔力を受け止めるなんて……なんかの神器じゃないのか?」
「おいおい、それって加護を受けたって事じゃ」
加護は……残念だが無いらしいな。
勿論、訂正する気も無いが。
この剣が凄いのも当然だ。これはナナの力で生まれた剣。
言ってみれば、ナナからの愛の証だ。
それがあんな火如きに負けるはずもない。
むしろこの心に燃える愛の火のほうが、余程強い。
「……今の、もう少し練ったらナナに捧げる詩になるんじゃないのか?」
そんな事を呟きながら、俺は剣をカードに戻す。
そういえば折角ナナが通信機を持ってるんだから、番号教えてもらえばよかったな。
仕事以外で通信する機会がないから、つい忘れてたぞ……。
とにかくまずはミーシャに連絡して、それから家に戻ろう。
そんな事を考えながら歩き始めると……「それにしても」という呟きが聞こえてくる。
「さっき、アイツの剣からチラッと出てたのって……火じゃなかったか?」
……火?
ウィル・オー・ウィスプの残り火があったわけでもないだろうに、火だと?
「なあ、ちょっといいか」
「え? あ、ああ。助かったよ……その、今まで馬鹿にしてて悪かった」
「いや、そんなのはどうでもいいんだ。俺の剣から火が出てたって?」
「へ? ああ。えっと……さっきアンタが剣を仕舞う寸前くらいだったかな」
「……そうか」
寸前っていうと、俺がナナに捧げる詩について考えてた時か?
だとすると……いや、まさかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます