雪花の祝福
中瀬一菜
雪花の祝福
人物
※朔乃(21) ゲイストリッパー
皆上莉帆(29) OL
林田夏織(23) 皆上の後輩
※ダーナ(52) ショーパブのオーナー
※客A
※…男性
○駅・ホーム(早朝)
雪が降る。数十人の乗客が並ぶ。
皆上莉帆(29)、白い息を吐く。
ホームに電車が入る。ドアが開く。
朔乃(21)、電車から降りる。莉帆と肩がぶつかる。
朔乃「ごめん、大丈夫?」
莉帆「いえ、すみません、ごめんなさい……!」
朔乃「あはは、おねーさん、謝り過ぎ」
朔乃、莉帆に缶コーヒーを投げ渡す。
朔乃「オツトメ、頑張ってくださーい」
莉帆、人波に押されて乗車。
〇職場・執務室・中
十数人の社員がデスクワーク中。
莉帆、パソコンに向かう。画面には数字の羅列。決算と題がある。
莉帆の机は書類等で山盛り。片隅に朔乃から渡された缶コーヒーが
置かれる。
社員たち、莉帆の机に書類を置く。
手元の書類の額とパソコンの機械計算の額が異なる。
林田夏織(23)、莉帆の隣の席に座り、莉帆に書類を差し出す。
夏織「莉帆先輩、課長から書類預かってきました。今更追加の書類だそうですよ~。あれ、先輩? どうかしました?」
莉帆「あッ、夏織ちゃん、ありがと……」
莉帆、書類を受け取る。
夏織「週明け朝イチで決算出すみたいですよ。予算と辻褄を合わせるだけだから簡単だろって。酷いですよね~。領収書の整理だけでも大変なのに」
莉帆「辻褄、か……」
夏織「コッチはなんとかなりそうですけど、莉帆先輩の方は大丈夫ですか?」
莉帆「大丈夫。もう諦めてるから……」
莉帆、手元の書類を見つめる。
夏織「え?」
莉帆「ううん、なんでもない」
夏織「そういや先輩がコーヒーって珍しいですねぇ、どうしたんですか?」
莉帆「あー……ちょっとね、貰い物。なんとなく、飲もうかなって」
莉帆、微笑む。
〇駅・ホーム(深夜)
莉帆、足元を見つめて、呟く。
電車が入るアナウンスが流れる。
莉帆、一歩ずつゆっくり前に進む。
莉帆の紙袋を持つ手が震える。
〇職場・会議室(夕)
莉帆、上司Cと向かい合う。
上司C「分かってるよな?」
莉帆「……粉飾決算の――」
上司C「ああ、言うな言うな。巻き込まれたくねぇから。前年踏襲ってことで」
上司C、莉帆に紙袋を押し付ける。
〇駅・ホーム(深夜)
電車の警笛が鳴り響く。
莉帆、ホームの縁に立ち、走ってくる電車を見つめる。
電車がホームに停車。再度出発。
朔乃、座り込む莉帆を見る。
朔乃「ねえ、邪魔。立てよ、バカ女」
莉帆「えっ……」
朔乃、莉帆の腕を引いて立たせる。
莉帆、朔乃の容姿に見惚れる。
朔乃「挽肉になりたいならさァ、俺が乗ってる電車以外でやってよね。迷惑だから。マジ仕事遅れるかと思ったわ」
莉帆、涙を拭い、朔乃を見つめる。
莉帆「あ、アナタ、今朝の……?」
朔乃「ん? 俺のこと知ってんの? まぁいいや。あの世行くならもっと張り切れよな」
朔乃、足早に立ち去る。
莉帆、目を見開き朔乃を見つめる。
〇道路・歩道(深夜)
朔乃、眉間に皺を寄せて早歩き。
莉帆、朔乃を小走りで追いかける。
朔乃「なんっで、付いて来ンのさッ!」
朔乃、振り返って莉帆を睨む。
莉帆「だ、だって、住所……」
朔乃「ハァッ? 出会って即行ストーカーかよ! アンタ、頭イッてンな!」
莉帆「いや、だから、何かお礼の品を、お送りしようって……!」
朔乃「なんじゃそりゃ! 俺なんもしてねーよ、何だよ礼ってよォッ!?」
朔乃、ビルの間の路地に入る。
莉帆、朔乃を追いかける。
路地には数人の男性が煙草や酒を手に立っている。
莉帆「あ、貴方が居なかったら、今頃次の電車で死んでたかもだから……ッ!」
朔乃、溜息を吐き、立ち止まる。莉帆も立ち止まり、向かい合う。
朔乃「……こっからは女が一人で来るような場所じゃねーから。マジで、帰れ」
莉帆「え……?」
周りの男性がクスクス笑いだす。
朔乃、ビルの中に入って行く。
莉帆、その場に立ち尽くす。
〇ショーパブバーレスク・店内・ステージ袖(深夜)
朔乃、着流し姿で化粧中。
ダーナ(52)、ドレッサーに凭れて煙草を吹かす。微笑みながら、
ダーナ「ふふ、なるほど。そんなことが」
朔乃「ダーナママ、笑い事じゃねーよ」
ダーナ「女の子にモテて良かったわね。常連のジジイばかりで飽きてたでしょ」
朔乃「どっちも嬉しかねーわ」
朔乃、舌打ちをして立ち上がる。
ダーナ、朔乃に色打掛を着せる。
ダーナ「いってらっしゃい、朔乃ちゃん。今日もアナタは最高に美しいわ」
朔乃「……ん」
〇ショーパブバーレスク・店内・客席(深夜)
客で満員。店内に音楽が流れる。ステージに朔乃が登場する。
ダーナの声「最後はトップダンサー・朔乃によるストリップショーです。心ゆくまでお楽しみくださいませ……」
〇ショーパブバーレスク・店内・ステージ(深夜)
朔乃、微笑みつつ扇を広げて踊る。
〇ショーパブバーレスク・店内・客席(深夜)
客たちの歓声があちこちで上がる。
客A、手拍子をしながら、
客A「脱ーげっ、脱ーげっ」
あっという間に脱げコールの合唱。
朔乃、客Aの所へ行く。顔を近づけ、顎に手を添える。
朔乃「じゃあ、お前、脱がせてみろよ」
客A、生唾を飲み込み、脱がせる。
朔乃、下着姿にさせられる。
朔乃「もう満足か?」
朔乃、客Aの身体をなぞり上げる。
客A、身体を震わせて崩れ落ちる。
朔乃、笑いながら客席の間を縫いながら踊る。
客たち、寄って集って朔乃の下着に御捻りを入れる。
〇ショーパブバーレスク・店内・出入口(深夜)
莉帆、客席の朔乃を見つめる。
莉帆「凄い……凄い……」
ダーナの声「もし、そこのお嬢さん」
莉帆「ぅえッ?」
ダーナ、莉帆の隣に立つ。
ダーナ「もっと近くでご覧になったら?」
莉帆「い、いえ、私は、ここで……」
ダーナ「あらそう? でもこんな所じゃ理性が邪魔して楽しめないでしょう?」
莉帆「えっ? えっ?」
ダーナ「折角いらしたんだもの、チップの一枚くらい渡してきなさいな。――可愛いストーカーさん?」
ダーナ、莉帆にチップを握らせ、背中を押す。莉帆、客席に入る。
〇ショーパブバーレスク・店内・客席(深夜)
朔乃、目を見開き莉帆を見つめる。
莉帆、後退りをしながら、
莉帆「違うの! これは、その……ッ」
朔乃、出入り口の方を見やる。
〇ショーパブバーレスク・店内・出入口(深夜)
ダーナ、微笑みながら手を振る。
〇ショーパブバーレスク・店内・客席(深夜)
朔乃、溜息を吐き、微笑む。
朔乃「嫌なコト全部、忘れさせてやるよ」
朔乃、莉帆にチップを咥えさせる。
莉帆「へ……? はむッ、んん~っ!」
朔乃、チップを口で受け取る。
莉帆、紙袋を床に落とす。書類が床に散らばる。
朔乃「あーあー、なにやってんだよ」
莉帆「アッ……、あぁッ……!」
莉帆、必死に書類をかき集める。
朔乃、莉帆の手を掴む。
朔乃「なあ、これって大事なモンか?」
莉帆「だッ、大事だよ! 凄く、大事ッ!」
莉帆、真剣な顔。涙目で訴える。
朔乃「ふうん、あっそ……」
朔乃、書類を集め、破る。細切れにして、投げ捨てる。紙吹雪状態。
莉帆「きゃあッ! なにやって……ッ!」
朔乃「ホントに大事なモン目の前にした時はなァ! 人間普通は笑うんだよ!」
莉帆、その場に崩れ落ち、朔乃を見上げる。紙吹雪が降り注ぐ。
雪花の祝福 中瀬一菜 @ebitenumeeee
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