第2話 白雪姫鏡台

 黒味がかった赤い塗料で仕上げられた姫鏡台。鏡の扉にはきれいな花が彫られている。見た目は古道具然とはしておらず、いまからでも嫁入り道具になれる。


 しかし、この鏡は、鏡としては役に立たない。鏡台の扉を開いて鏡を覗くと、そこに映し出されるのは鏡を見ようとしている人の顔ではなく、その時点で「世界でいちばんきれいな顔」だからだ。


 おもしろいじゃないの、たとえば流行りものを世に出す商売をしている人なんかには役に立たないでもなくもないんじゃないかしら。なのにいまだにこれを買おうという好事家は現れない。


 扉を開いて鏡を見ても、「あら?」というだけで、店の主人にこれは何ですかと質問する人さえいなかった。子供だましのおもちゃにしか見えないのだろうか。そこに見えるのはたしかに「世界でいちばんきれいな顔」なのに。


 店の主人は時々この売れ残った姫鏡台の扉を開けて鏡を見て、そこに映し出されたきれいな顔を見る。たしかにきれいだ、これがいま世界でいちばんきれいな顔ですと言われると、そうだろうなと納得する。


 でも、それだけなんだよね。主人はどうしてなのかなと思ったりはするが、深くは考えない。扉を閉じるだけだ。そして、ここからなにかくみ取れる客が来ないかなあと期待するのみ。

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