地下室

@Honoki7070

ショートショート【完結】

ある日のこと、私は高校の友人である加藤から同窓会に招待された。当時、加藤とは仲が良く、約5年ぶりの同窓会の知らせを聞いた時は嬉しく思った。しかし、5年ぶりともなると、何故か緊張して少し気が引けた。実は気が引ける理由はもう一つあったのだ





当時の私には彼女がいた。付き合って1年になる頃、私は別の同級生である、幸子のことを好きになってしまい、そのことが彼女にバレたのだ。私は彼女の平手をもろに食らい、振られた。しかし幸子はある時、引っ越してしまい、結局それきりだった。そういったこともあり、同窓会に参加するか決めかねていた。


何日か迷ったあげく、もう5年も経ってるし、と自分に言い聞かせて、参加することにした。





同窓会の日がやってきた。場所は、当時通っていた高校の体育館。向かっている道中、懐かしい気持ちになり、少しワクワクしていた。


参加人数は30人ほど。


学生時代あまりコミュニケーションが得意な方ではなかった私にとって、加藤と会うことが楽しみの大半を占めていた。もう一つ密かに楽しみだったのは、幸子に会えるかもしれないということだった。





入口の前に到着すると、懐かしい顔や、全く覚えていない顔が交互に目に入った。当時の彼女は来ておらず、正直安心した。そんな時に加藤と目が合った。


「ちかし、久しぶりだな!来てくれてうれしいよ!」加藤は満面の笑みを浮かべて言った。


「なあ、ちかし、例のボロ地下室まだあるんだってよ。5年経っても失くなってないなんて、どうかしてるよな」加藤は懐かしそうに言った。


「久しぶりだな、加藤!


会って早々、地下室の話はよせよ。」私は苦笑して言った。





思い返すこと6年前、当時私たちが高校2年生の時、悪ふざけでその地下室に入った、あるカップルがいた。ゲラゲラと笑いながら地下室に入ったそのカップルが、地下から出てくると、女は憔悴しきっていて、男は身体をガタガタと震わせて、腰の辺りにはアザのような跡ができていたそうだ。やんちゃだった彼らは、それ以降すっかりおとなしくなり、不登校になってしまったと後に聞いた。もちろん今回の同窓会も欠席になっていた。


幸子が引っ越したのも確かそのころだった。





体育館では、各々がお酒を飲み、1時間もすると、最初のよそよそしさが嘘のような大盛り上がりをみせいた。友達と話しながら飲んでいた私も、とうとう酔いが回り始めていた。その時目の前に立っていたのは、当時思いを寄せていた幸子だ。


「ひさしぶりね、ちかし君。」幸子はニッコリして言った。


相変わらずの可愛らしい顔立ちに、大人の色気が加わった幸子が、私の目の前に突如として現れたのだ。


ボタンの付いた、見るからに生地の柔らかそうな薄いカーディガンを羽織る彼女からはエレガントな印象を受けた。


私の気持ちに火がつくのは時間の問題だった。





私と幸子は、何故かとてつもなく気が合った。私は胸が高鳴るのを感じた。気が付くとと、体育館を後にして、彼女と二人きりになっていた。


私は幸子を強く抱きしめた。ふと前に目をやると、そこには薄暗い道が続いており、この先が例の地下室だということは酔っていても覚えていた。


私の異変に気付いた幸子は、悪戯そうな笑みを浮かべて言った。


「あそこにいこ?」


私は苦笑して首を振った。彼女は、私がこう反応するとわかっていたかのように、自らの上着のボタンを外しながら、私の手を引いた。


私は理性を保つことができず、彼女の手の引くままに流されていった。





カランカラン





何か小さなものを蹴ったようだが、暗くて何も見えなかった。


その暗さと、手から伝わる幸子の体温が、私の心臓の鼓動を激しくさせた。その時、私の手から幸子の手が突然離れた。





シュルシュルシュル


シュルシュルシュル





と、服の繊維が擦れるような音がした。





「幸子!」私は呼んだ。


返事がない。





そこでようやく目が慣れてきた。その瞬間私が目にしたのは、





異常な速さで回転している幸子だった。





酔いが一気に冷めると同時に、血の気が引いた。


悲鳴が声にならず、慌てて来た道を戻ろうと走り出したが、壁にぶつかった。


パニックでどこから入ってきたのかわからなくなった。やっとのことでドアらしきものを見つけ思いっきり叩いて叫んだ。





ドンドン!! ドンドン!!


「開けてくれ!!」





タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ





一瞬の静けさとともに振り返った私の腰にしがみついたのは、上着が首に巻き付き,


口から液体を垂れ流す、幸子だった。





「5年マッタヨ!!」





目が覚めると、私は病院のベットにいるようだった。


加藤を含め、同窓会のメンバーが数人でベットを囲んでいるように見えた。


「おい、大丈夫か?お前倒れてたんだぞ。」加藤が私に言った。


意識が戻ったばかりの私は、頭も視野も、まだボヤーッとしていて、加藤の声掛けにたいして、


「そうか」と答えるのが精いっぱい。


曖昧な意識ながらも、皆にお礼を言った。


「ありがとう、みんな」


加藤を始め、ゆっくり周りを見渡した時、1人だけハッキリと見えた。


数人いる中でニッコリと笑う幸子の姿を。

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