第34話 我が家にて5
第34話 我が家にて5
食後のデザートをたんまり仕入れた後は、一路家に向かう。この熱さのなかでは、さっさと帰らないと、ケーキもチョコレートも悲惨なことに成るだろう。
手を繋ぎたいところだが、汗ばんでしまっているのでどうしても躊躇してしまう。つぐみさんは、チョコレートの包みをもって、楽しげに歩いている。その後ろ姿は、夏にピッタリだと思う。
『殿達はまた宴でも開くんかい?』
突然、ラルカの声が聞こえてきた。
『驚かさないでくれ、単なるデザート、お茶菓子を食べるんだ』
『そうか、ところで少しは進展したのかえ』
『うっ』
『うぬは、殿達にも子を成すような営みをする関係に成って欲しいだけじゃ』
『ありがとう、誠意努力するよ』
エントランスに入る時に、ラルカに気が付いたつぐみさんが、
『ラルカちゃん、この後お菓子一緒に食べる?』
『つぐみさん、ラルカは物は食べられないよ』
『そうだった、ごめんなさいね』
『主が謝る言われは無いぞい』
そんな会話をしながら、エレベーターで上がっていく。
家に入って、紅茶の準備でお湯を沸かし始める。一旦、デザート類は冷蔵庫にしまって、お茶の準備だ。茶器を並べたところでつぐみさんの姿が見えないことに気が付いた。
御手洗いかと思ったが、違うようだ。自分の部屋に行ってみると、ベットに座って昨日のマンガの続きを読んでいるつぐみさんを見付ける。
真剣に読んでいる脇に座って、読んでいる内容を覗き込む。例の同人誌でこの後はムフフの展開に成る所だ。
そのまま俺は、ゆっくりとベットに転がって、真剣に同人誌を読むつぐみさんの後ろ姿を見つめている。もう数ページでムフフの部分だから、それを読んだつぐみさんが、紅く上気した顔でこちらをむいてしなだれて……
この妄想は、無惨にもピーピーケトルの呼び出しでリセットされるし、つぐみさん自体は微動だもせずに読み続けている。没頭してしまうと周りが見えなくなるタイプなのかもしれない。
ゆっくりと起き上がって、お茶の用意に向かう。
今日のお茶は、アールグレイ。冷たいミルクをピッチャーにいれて置いておき、ポットにはティーコージーを被せて保温しながら蒸らしておく。
あのムフフのシーンを読み終えたつぐみさんが、どんな顔でリビングに来るのだろうか想像してしまう。
紅くなった顔を恥ずかしげに下に向けて、少しもじっとしてリビングに入ってくる。いや、ベットの上で身悶えしていたりして、って呼ばないと準備できたか判らないじゃないか。
『つぐみさん、お茶の用意できましたよ』
あれ、返事がない。そんなに没頭しているのだろうか?
『つぐみさーん、そろそろお茶も蒸れてきていい頃合いですよ。今日はアールグレイにしましたけど』
これにも反応がない。まさか、寝てしまったとか、取り敢えず様子を見に行くことにする。
つぐみさんは、ベットの上で先ほどの本を読んでいた体勢のまま横に転がっている。手に持った本の開いたページは、先程のムフフの前のままで、もしかしたらさっきから寝ていたのを、真剣に読んでいると勘違いしていたのかもしれない。
今日は暑くて、体調も一時期悪かったし、シャワーとか浴びて疲れが出たのかな。手に持った本を取ってあげて、床に降りている脚をベットに持ち上げてあげる。もちろん、エロい事は考えずに純粋に寝かせてあげよう。
タオルケットを掛けて、部屋を出る。彼女の脇で添い寝をしたいところだが、ポットのお茶もあるし、出したケーキもしまって置かないといけない。
リビングに戻って、ケーキ類を一旦片付けてから、優雅に独りで午後のティータイムを満喫する。彼女の分まで飲んだので、少し飲みすぎたきらいもあるが、じっくりと考えることも出来た。
結論から言うと、自分に意気地がない、となる。つぐみさんの無防備な状況に手をつける、は無いとしても、自らリードして示唆するタイミングはいくらでもあった筈だ。それをしなかった自分は、つぐみさんの事が欲しいのだろうか?
多分、この絆の事もあって本来心と身体を一緒に知る、と言う意味で絆を深め合うために愛し合い、やがて、その交わりのなかで子を成す。が、心の絆が出来すぎてしまって、途中経過としての要素もなく子作りをイメージしてしまっているのかもしれない。まあ、ラルカの言った趣旨としてはその通りなんだが。
そもそも、恋人たちは抱き締め合ったり、愛し合ったりして、お互いの絆を深めていくと思う、がつぐみさんとは、既に深い絆で繋がっている。もう、恋人同士と言ってもいいのだろか?
と、悶々としているなか、陽は傾いて夕方に成ろうとしていた。
俺と彼女と蝉について(8月のラプソディ) @ROTA77Z
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