第33話 我が家にて4

第33話 我が家にて4


 家のリビングでふたり、カレーにパクつきながら、話をしている。


『カレー、何か手を加えましたか?』


『えっ、特にはしてないけれど』


『市販のルーしか無かったと思うだけど、すごく深みの有る味に感じるんだ』


『そうね、お肉を先に炒める時に塩と胡椒をまぶしてから回りだけを焼いたとか、玉葱先に微塵切りにして炒めておいた位かな。後は、適当に冷蔵庫に有った香辛料使わせてもらったくらいよ』


 いつも自分でやっている手順とそうは違いがない。最後の香辛料の加減のセンスの違いか。いや、つぐみさんと言う香辛料が1番効いているのかもしれない。


 ふたりともおかわりをして、カレーとご飯が底をついてしまう。グラスに残った水をイッキ飲みしたつぐみさんが、


『この炭酸水、ペリエじゃ無いみたいだけど何かしら』


『サンペリグリノ、って言う炭酸水で、さっぱりしているから常用しているんだ。かのレオナルド・ダ・ヴィンチも愛用してたとか』


『へー、スゴいのね』


『いや、ただの炭酸水だけど』


 ここで、デザートでも欲しくなる所(辛いものの後は、甘いもの)だが、あいにく在庫も無いし買うのも忘れた。


 辛くなった口の中を、炭酸水でリセットして一息つく。


『残念ながら、デザートに成るもの切らしているので、近くのケーキ屋に買いに行ってきましょうか』


『すぐ隣のあの店よね。私も行きたいけれど、この格好は……』


 と言って、自身の服を見詰めている。


『シャツは、裾絞って形を整えれば良いけれど、下はちょっと外に出られる感じじゃないわね』


『洗濯物、乾燥コースに入っていると思うので見てきますね』


 洗面所にある自動洗濯機は、既に乾燥も終えて停止状態に成っている。扉を開けて中を見ると、シャツやランニングパンツがふんわりと乾いている。洗濯ネットの中は、スポーツブラとパンティが見えている。


『か、乾いているようですよ』


 慌てて、洗濯機の扉を閉める。両方ともピンクの……いや、何考えているんだ。で、今は? じゃなくて、目的を思い出さないと。そうだ、ケーキを買いに出掛けるのに、つぐみさんの着替えが必要だったんだ。


『もう乾いたの』


と、彼女後が洗面所に入ってくる。


『じゃあ、着替えちゃってください。僕も着替えておきますので』


 後ろ手に扉を閉めて、自分の部屋に向かう。このスウェットのままでも良いが、つぐみさんの格好に合わせて、少しスポーティーなものに着替える。たかだか、ケーキを買いに行くのにと思いそうになるが、つぐみさんとバランスを取る、が大事な点だ。


 部屋を出ると、着替えたつぐみさんが洗面所から出てくるのに鉢合わせとなった。下だけランニングの時の姿で、上は貸したTシャツを絞ってヘソ出しルックだ。一瞬目のやり場に困って、顔を見てしまう。


『どうかな、このTシャツ気に入ったので、こう着てみたんだけど』


『夏向きで似合ってますよ。そうだな、どちらかと言うと海向き、いや山でもいいし、そう夏向きでとても良いです』


 何を言っているか途中で分からなくなったが、感想は通じたと思う。要はどちらであっても、綺麗でセクシーと言うことが言いたかったんだが、直接は言えない、まだ。


『ありがとう、じゃあ行きましょう』


 部屋を出て、一緒にエレベーターに乗って下に降りる。この熱い時間帯に外に出る住民はいない様で、誰も途中から乗ってこなかった。


 外に出て、太陽を浴びると熱さを強く認識するし、石畳の輻射熱もそれを後押ししている。ふたりで足早に目的地のケーキ屋へ向かう。


 店内は、数組の客がいるだけで、いつもの休日としては空いている感じだ。


『何か好きなもの有ります?』


『そうねー、目移りがしてしまうわ。プリン系は捨てがたいし、夏のフルーツ系も、それに定番の苺も』


『じっくり選んでください。僕は、サバランと後は何にしようかな』


『サバランって、お酒入っているんでしょ』


『ブリオッシュにクリーム入れて、リキュールの類いが染み込ませてある、だったと思います』


『私には無理ね。って2つ買うの?』


『2つと言わず、3つでも』


『うー、2つで我慢しておく』


『じゃあ決まったら教えて下さい』


 もうひとつは、今の季節しかない桃を半分使ったケーキ。これは、つぐみさんと半分に分けて食べるのが良いだろう。


 つぐみさんも決まったようなので、注文して梱包して貰う。


『ケーキ以外にもジェラートなんかも有るのね』


『ここ以外にチョコレートの店舗と、パン屋もやってます』


『パン屋は知っているけれど、チョコレートの店舗は知らなかったわ』


『すぐ向こうなので、出たらちょっと寄ってみましょう』


 家はすぐそこだが寄り道もするし、保冷剤は入れて貰って会計を済まして店を出る。


 チョコレート工房は少し離れたところに有る。まあ、可愛らしいチョコレートの粒がずらっと並べてあるだけなんだが、男性的には粒単価が高くてコスパ悪く感じてしまう。でも、女性は微妙な違いやら味、デザインでの多様性にコストを惜しまないようだ。


 つぐみさんもその例に漏れず、ケーキは2個でと我慢していたが、チョコレートは可愛いだのおいしそうだので8個も買っている。多分、カロリー的には、こちらの方が高い筈なのだが……

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