第3話 おあずけ
「おはようございます!」
努めて明るく出社した。
まわりからパラパラと返答があり、いつもと変わりない朝だったけど、やはりデスクに書類が積んであり、メールはいつもの2倍の受信数だった。これをこなして定時に上がれるのか考えただけでぐったりする。
モニターの向こう、少し離れた席にいるコーハイと目が合う。アイツ、笑ってる。
そうだよね、やってやろうじゃないか。
それでも定時に終わらせて、颯爽と帰ってやろうじゃないか。
上からの呼び出しもなく、次長のイヤミも発動されていないのは救いだ。
書類とメールの処理だけで午前中一杯かかってしまった。まずいな、定時であがれるかな? 午後は外へ出なくちゃいけないのに。それでもやらねば。
PCの横にコトリとサンドイッチとカフェオレが置かれる。私はアイスコーヒーよりカフェオレだって、なんで知ってるの?
「センパイ、どうですか? とりあえず昼メシ食って下さい」
なんだ気も利くじゃないか。
「ありがとう。ちょっとヤバイ。終わんないかも」
「俺、午後から外出ます。もし代行出来るものがあればセンパイの代わりに俺が行きます。その代わり、内勤お願いできますか?これ、俺の番号です。センパイのもお願いします」
「あ、あぁ、うん……」
ちょっと、なんかリードされてるじゃん!頼りになるを通り越してない? さりげなく番号も聞かれてるし。
休憩なし、ノンストップでぶっ飛ばして何とか定時に終わらせた。奇跡だよー。毎日こんなの続けられるかな……。
「お先に失礼します!」
今日はコーハイが先に言った。
そのすぐあと、フロアの遠くのほうでも声がした。
男性が二人、こちらに向かって歩いてくる。
アレ?あれってもしかして……
「お先に失礼します!」
私も慌ててオフィスを出る。
コーハイと、さっきの男性二人がハイタッチで盛り上がっている。
「あっ、センパイ!コイツら他部署の同期なんですよ。昨日、同期と話してみんなで定時で上がることにしたんです」
到着したエレベーターにも同期が二人乗っていて、またハイタッチで盛り上がる。
「学校は違うんですけど、同じ部活だったんでみんな仲良いんですよ」
あ、そうだ部活。
「水球っす」
……それは想定外だわ。
「じゃあ、今日はみんなでゴハン行こうか。奢るよっ!」
「センパイ、今日は二人で行くんじゃ……」
コーハイの呟きは同期達の歓声に掻き消され、私たちはガヤガヤとロビーに笑い声を響かせながら外へ出た。
太陽は昨日より明るく、気持ちのよい風が吹き抜ける。今日の夕陽もきっと綺麗だろう。そしてストロングチューハイレモンは、昨日より甘いはずだ。
夕紅とレモン味 ぴおに @piony
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