第24話


 さすがにお出掛けが服屋だけなんてことはない。例え、服屋(いっぱい店を回ったとても疲れた)だけで午前中を使いきったとしても、この苦行デートは午後にまで続く。


 「おっかえりー。よっし、イチャイチャしようぜレンくん!」

 「イチャイチャって表現古くね?」

 「ツッコむとこそこじゃないでしょう!?」


 フードコートで各自好きなのを頼みにいく。休日だからかフードコートだけでなく普通のファミレスとかも十分に混んでいた。席に座れたのも運が良かったとしか言いようがない。まったく、休日にウジャウジャするんじゃないよ、暇人かな。


 先に俺が席を確保し、先に二人の料理を注文させてから自分の料理を選びに行った。ふむぅ、基本一日二食だから昼は案外お腹空いてるのよね。何を食べましょうかしらん。


 普通なら女の子と来ているのだからよく見られそうな、例えばパスタとかを頼めばいいのだろうが。所詮、残念美少女どもだ。きにするだけ無駄。おっ、金だこがあるからたこ焼きにしよー。


 店員から呼び出しベルみたいなのをもらって席のことまで戻る。もしかしたら、この数分程度で美少女どもが絡まれてる場合もある。あまり離れすぎるのはよくない。


 いかに公共の場であろうが盛りのついたオスはどこにでもあらわれるものなのだから。


 俺が歩く前方の人たちが何故か避けるようにズレていくのに疑問を覚えながら、いやほんとなんで避けるんだろうね、喧嘩売ってんのか。席に戻ると案の定とまでは行かないが彼女たちに近づこうとしている男たちがいた。


 そして、俺が席に座って冒頭部分の会話をしたところで近づこうとしていた男たちに目を向ける。そしたら、あら不思議。みんな怖がって逃げていくではありませんか。


 「なんで俺が傷つかなければならないんだ……」

 「男避けの威力絶大だね」

 「頼んでおいてなんだけど心苦しくなるわね」


 今さらなので言葉に出したほど傷ついてはいないがもう少し自然に避けてほしい。まあ、俺もいかにもなヤのつく人たちいたら避けるから人のこと言えねーけど。


 「レンくんは何頼んだの?」

 「たこ焼き」

 「おおー、なんとなくコメントしづらいものを頼んだね」


 人の食べたいものにケチつけるんじゃないよ。


 そう言おうと思ったところでそれぞれの呼び出し音が鳴る。思ったよりも音が大きくてびっくりしてしまう。みんなも経験あるよね?俺だけじゃないよね?


 とりあえず、店から料理を持ってくる。注文したときもそうだが怯えるのをやめてほしい。ただたこ焼き注文しただけじゃん。


 しょぼんぬ、と落ち込みながら席に戻る。これだから外に出たくない、いるだけで怖がられるとかどんな罰ゲームだこんちくしょう。

 

 料理をテーブルに置いた途端に手前から箸が2つのびてきてたこ焼きが奪われる。おい。


 「あ、あちゅい」

 「ははー、りーちゃん馬鹿だなぁ。ふぅふぅ、美味しい!」

 「ナチュラルに人のものとるのやめてくれます?」


 何してくれてんの。たった8個しかないたこ焼きが瞬く間に6個に減ったんですけど。


 「そこにたこ焼きがあるのなら食べるしかなかろうなのだ!」

 「美味しかったわ」

 「自分の食えよ」


 なんのために買ってきたんだこいつら。


 「ふむぅ、しょうがないにゃー。そんなに食べたいなら」


 そう言って、菅原がバーガーセットのポテトを手に持って俺の口に寄せてくる。


 「あーん♪」

 「ぴゃっ!」


 綾瀬から変な鳴き声が聞こえたが、それを無視してポテトを頬張る。うむ、この身体に悪い感じが堪らなく美味しいと思うのです。


 「ありゃ、あっさり食べちった」

 「俺がこの程度で狼狽えるとでも思ったか」


 どや顔で語ってみる。


 照れる顔を見たかったのだろうが残念。そんな攻撃なぞ受けるわけなかろうが、ガハハ。


 「くっ、くうぅうう!!」

 「おい、綾瀬はなんで唸ってるんだ?意味わかんねーんだけど」

 「りーちゃんはツンデレだからにゃー」


 ツンデレとかは創作のなかにしかいないものではなかろうか。うむぅ、つまり気にくわなかったのか。


 「綾瀬」

 「な、なに!?」


 ぐぬぬ、と身体を震わせていた綾瀬に向かって、


 「あーん」

 「え、あ、その、みゃっ」

 「いらない?」

 「い、ぃり……ます」


 そう弱気な声で告げた後に、おそるおそる顔を近づけ目をつぶって口を開く。

 開いた口に収まるようにたこ焼きを運んでやると勢いよく口を閉じられる。箸まで咥えられてしまったので揺すって話すよう促す。


 「あんえうきう……」

 「行儀が悪いわ、口にものなくなってからしゃべりなさい」


 何かに気づいたかのように綾瀬は頬を赤く染める。


 「うっわぁ、りーちゃん攻められると弱すぎ……」

 「ち、ちーちゃんうるさい!」

 「??」


 何だかよくわからんがとりあえず俺もたこ焼き食べなければ。

 そして、 箸を使ってたこ焼きを食べ始める。うむ、美味しい。


 「あわ、あわわわ!ち、ちーちゃん!!」

 「おおー、まるで歯牙にも掛けない。美少女との関節キスだぞ?」

 「ど、どうしよう、私初めてなのに……!?」

 「バグりすぎじゃないのりーちゃん。これは、最早眼中にないと言わんばかりだねー」


 お前たちも食いな?せっかくだから温かいうちに食べた方がうまいと思うが。


 「それはそれで腹が立つんですけど!」

 「あたしたちみたいな美少女侍らせておいてこの反応とは……ちょっとムカつく、少しは意識しろよなー」

 「どうするちーちゃん」

 「ここは、もっと大胆に行こう」

 「具体的には?」

 「ポテトでポッキーゲーム」

 「それよ!」

 「りーちゃん、あたしが言ったけど頭大丈夫??」


 む?何故か顔を赤くしすぎて、これオーバーヒートしてんじゃねーの、と言わんばかりの綾瀬が長めのフライドポテトの端を口に含めこちらに寄せてきた。


 「うーん!」

 「え、どゆこと?」

 「ぱんぱぱーん!ポッキーゲーム始まり~!」

 「ポッキーじゃないですけど!?」


 やだ、この子達突然奇行に走るのホントなんなの。回りの目を気にするという概念はないのかしらん。


 恥ずかしそうに顔を染めた綾瀬は目をつぶり顔を寄せてくる。こんなに照れるならやらなければいいのに。


 「ほらほら、りーちゃんが勇気出してるんだからやっちゃいなYO」

 「腹立つわ」


 軽口を叩くが俺の方もさすがに緊張してしまっているのだ。他人なんてどうでもよかったが、ここで立ち向かわずにスルーしたら傷つくのではという考えが頭によぎる。いつもなら当然の選択で無視するのだが綾瀬が傷つくのを見るのは、不快な気分になってしまう。


 それに、俺もこう、ね?


 美少女の顔に自分の顔が近づくっていうのは、あの

、ほら照れてしまうっていうか……


 「ええい、まどろっこしい!はよ、やれやー!」

 「むぐっ!」


 おい、頭部掴んで無理矢理咥えさせるのやめて!?


 咥えてたものの先端から来た衝撃につい目を開けてしまった綾瀬と至近距離で目が合い、見つめ合ってしまう。


 吸い込まれるようなその瞳がうるうるとし始めオーバーヒート気味の顔が限界を突破する。


 距離として小指の先端ほどの近距離にそれぞれの顔や唇があるのだから、えちぃのが苦手な綾瀬から手が出るのは必然であろう。


 「~~~~!!」

 「逃げるが勝ち!」


 コンマ何秒かの世界でポテトを噛み千切り勢いよく態勢を後ろへそらす。


 勢いをつけすぎたのか、かけていた椅子は傾きが急になりすぎそのまま後ろへ倒れ込んでしまった。


 「レンくん大丈夫?」

 「これが大丈夫に見えるか?」


 あまりの恥ずかしさにすぐさま椅子を元に戻して顔を両手で覆う。きゃー、恥ずかしー。


 クソッ、なんでこんな目にあわなきゃなんねぇんだ。


 「……あっ、りーちゃん!!」

 「ふぇ?」


 そもそもこんな計画を立てやがった早瀬が悪い。別にわざわざこんな風に出掛けずともなんとかする手だてはあったのではなかろうか。


 「レンくんの顔見て」

 「あ!」

 「んだよ?」


 こちとら羞恥でどうにかなりそうなんだから、こっち見んなし。


 あれ、でも他人なんてどうでもいいんだから周りの目なんてきにする必要なんてないはずなんだから、あれ?


 「多分気づいてないよこれ。もしかして」

 「こ、こうも反応されるとこっちも///」


 俺が思考の迷路に陥ってしまったのに対して、美少女たちはとんでもない発見をしたかのように興奮していた。


 「にゅふふ、なんていうか意識されるとそれはそれで照れる的な」

 「で、でも目的は達成できたし!」

 「犠牲が凄かった気がするけどね」

 「ちーちゃんがやれって言ったんでしょうが!」


 そうやって、異織蓮の心に波紋を産み出しデートの昼は過ぎていった。






 


 「何だか久しぶりな気がするがまだ続くな」

 「…………??」 

 「こっちもバグってんなぁ」

 「……??」

 「ま、良い傾向ってとこだ」


 「期待してるぜ、綾瀬凛、菅原千春。お前らが蓮をに影響を与えてくれることをな」

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