第22話

 待ちに待った週末の土曜日。


 本日はお日柄もよく、世に蔓延る彼女持ちリア充の諸君らが猿のように発情し町へと繰り出したりするデート日和である。べ、別に羨ましくなんてないんだからねっ。


 いや、ホントに羨ましくないんだこれが。


 俺としては迷惑さえかけてこなければどうでもいい他人なので興味がない。なぜ、世の彼女いない男どもはそんなに妬むのか訳が分からん。この謎、誰か解明してくれませんかね。


 そんなことを言ってるやつが、美少女二人と出かけるって知ったら発狂間違いなし。死にたくないんですけど。


 そもそも、早瀬のアホが二人と出かける予定を組んだせいなのだから俺に非はない。俺は悪くねぇ!


 十時に駅で待ち合わせなのだが、流石に遅れるなんてことはしたくない。あいつらに気を使うなんて正直考えてなかったが、そのぐらいはしてやろう。あまりの紳士らしさに声もでなかろう。誉めて?


 使いたいモンスターの育成も昨日のうちに終わらせといたから、今日帰り次第さっさくネット対戦に洒落混むことにしよう。そう考えれば、これから始まるであろうなぜこうなったお出かけも苦痛ではないのかもしれない。


 それにしても、週末だからか駅前に人が多い。ふはは人がゴミのようだ、いやこれはちげーわ。


 待ち合わせらしき人たちや、家族連れなどなど。


 俺も一応は待ち合わせしてる人であるが、他の奴らに比べて楽しそうにしているかどうか分からない。


 無理矢理組まされた予定に、その相手がつい最近知り合った美少女。急展開も甚だしい、作者いたらふざけてんのかってレベル。


 助けたことへの感謝を受けたのだからそれで終わればいいのに、なぜ俺ごときに関わってくるのか。


 本当に面倒くさい。俺は静かに平和に過ごせればいいのに。


 他人なんてどうでもいいのだから。


 「私たち待ち合わせしてるので……」

 「いいじゃん、そんなの放っておいてさぁ遊ぼうよお二人さん」

 「君たち可愛いね俺らと楽しいことしようぜ?」

 「やめてくださいってば!」


 うっわ、朝からナンパとか脳ミソ下半身にあるんじゃねえのか?お盛んすぎんだろ。


 スマホを弄りながら待っていた俺の耳に聞こえてきた下品な雑音に顔をしかめる。


 チラリとスマホから顔をあげて周囲を見渡すが、音の発信源が見つからない。視界にはいるのは見て見ぬふりをする傍観者気取りの他人だけ。


 視界に入らないということは自身の死角でその発情行為は行われている。


 つまり背後。


 「……まじかよ」


 そこには柄の悪い男二人に絡まれているどこからどう見ても360℃美少女が二人いた。


 というより、皆さんのご想像通り今日のお出かけ相手である綾瀬と菅原だった。


 (いつの間に到着してたんだ、というか朝っぱらから美少女にありがちなテンプレを引いてるとか早瀬の呪いかよ)


 あのラブコメをさせようとする早瀬が放った呪い説がものすごく高い気がしてならない。そして、あれでしょ助けに入ってキャ、ドキ展開にさせようとする感じでしょ。


 俺も他人だったら見て見ぬふりをして立ち去るんだが、そうもいかない。


 さて、間に入って―――


 「いいから行こうって!」

 「キャッ、やめて!」


 


 「おい、その手を離せよ顔面ピアス野郎」


 


 「あ?」

 「んだ、てめぇ?」


 ダメだって、それはさぁ。


 ぐっ、と綾瀬を掴んだ腕を握る。


 自分でもなんでイラついたのか分からないけど、こんな奴らが二人に触れることが嫌だと思った。


 「あいにく、こいつらは俺を待ってる奴らなんだ。相手が来たならさっさと消えたほうがいいんじゃないか?」

 「はぁ?てめぇみたいなダッセェ奴がこの子たちのぉ?」

 「君たち、こんな奴より俺らと遊んだほうがぜってぇ楽しいって、な?」


 俺を無視して柄悪野郎たちは綾瀬たちに声をかける。


 別に、こいつらじゃなきゃ無視してよかった。でも、ダメだ。どうでもいい他人をナンパするのならなんとも思わないが、こいつらに関わろうとするのはよくない。


 てかそろそろ手を離せや?


 「い、異識君っ……!」

 「レンくん、おっそーい!」

 「いや、俺三十分前に来てたんですけど」


 もしかしたら、あまりの影の薄さにいるのを認知されていなかったのかしらん。なにそれ、実はステルス能力持ちなの俺。幻の七人目だか十二人目になれちゃう?


 あ、とりあえず離させなきゃ。


 「い、いでで!」

 「うし、これでスッキリ」


 もやっとが消えてスッキリだ。もやっとしたボールを投げたからかな?すっきり、すっきり!このネタ知ってる人いるのかな……?


 「おいおい前髪くんさぁなにしてくれちゃってんの?あ?」

 「いてぇ、痛ぇ!これは慰謝料もらわねーとなぁ!!」


 古すぎない?昔の当たり屋みたいなことしてるんですけど。恥ずかしくねーのかな。


 顔にピアスをいっぱいつけた男たちがメンチを切ってくるがうぜぇ。てか、絶対そのピアス開けるほう痛かったと思うんですよ僕は。


 「な?お前もそんなことはやだろ?だから、さっさと消えてくんね?」

 「俺たちはその子たちと沢山遊ぶからよぉ」


 一応、人通りが多いから誰か通報してるとは思うが待ってたところで事態が解消するのはもう少し先だ。来たら来たでめんどくさくなるから、さっさと終わらせたほうがこの後の予定に影響は出ない。どこ行くか知らねーけど。


 いや、言い訳させてもらえばプランは全部菅原が決めるっていうからなんも考える必要なかったんですって。やめて、俺を全部女の子にやってもらってるヒモ野郎みたいな目で見るのは!


 「ビビってんのか?かっこつけて出てきたはいいけどビビっちゃったんですかぁ?」

 「そもそもお前みたいなダセェ奴がこの子たちに釣り合うとでも思ってんのかぁ!?」


 はぁ、と溜め息が自然と出てしまう。


 「何とか言えよおい!」

 「あのさぁ」


 額に手を当てて、やれやれとばかりに言葉を放つ。


 そして少しだけ前髪をずらし、彼らに向かって手を伸ばす。


 現れたのは黒い縁をしたメガネに覆われた瞳。


 「ッ」

 「お前ら誰に手を出してんのか分かってんのか?」


 それはあまりにも鋭く不機嫌に歪められている。


 所作には出てない苛立ちが全て瞳に集中しているのが目の前の二人には分かった。その尋常ではない気迫にチャラついただけの人が立ち向かえることなどできやしない。


 「こいつらは俺のモンだ」


 伸ばした手で二人の胸元をつかみ引き寄せる。


 「ヒッ」

 「分かったんならさっさと消えろ、でないと――」


 今日一であろうドスのきいた声で俺は彼らに告げた。


 「―――殺すぞ」


 直後、二人を押すように手を離す。


 「ひ、ひぃいいいいいぃ!!!」

 「うわあぁああああ!!」


 バイバーイ、もう二度と目の前に現れないでねー。


 手をふりながら、いい男が泣いてどっかに行くのを見送る。


 可哀想にと思ったが、俺の目をみて悲鳴あげて逃げるとか俺のほうが傷つくんですが……そんなに怖いのかな、ぐすん。


 「うし、んじゃ行こうぜ二人と、も?」


 どしたんだ、こいつら。


 顔を赤く染めてあわあわみたいな感じになってるぞ。うけるー。


 「あわあわ、りーちゃんあたしあんな風に言われてスッゴいドキドキしてる!どうしよう!?」

 「わ、私はあんなので絆されたりなんてしないんだから!!」

 「何言ってんの??」


 とりあえず、目立ってたから二人の手を取って颯爽とこの場を離れた。


 そうしたら、また二人はあたふたして「ひ、卑怯なり!」「不意打ちはずるいよぉ!」と挙動不審になっていた。意味が分からん、誰か助けて。


 とまあ、こんな感じで修羅場デート(命名、早瀬)は波乱の幕開けとなったのだ。






 「これが天然無自覚女誑し……」

 「人のこと言えねぇと思うんだが」

 「てか、幸先から絡まれるとか」

 「このデート心配しかないんだよなぁ」

 「次回、異識蓮は偶然出会った漣姉妹に刺される!」

 「ありそうな次回予告はやめてもらおうか!!」

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