第16話


 「お前は定番を外すのに人生でもかけてるのか?」

 「なんで開口当初に意味分かんねぇこと言われなきゃなんねぇんだ?」


 日をまたいで土曜日。


 バイトの疲れもあり十時ぐらいまで爆睡して、遅めの朝食なのか、早めの昼食なのかよくわからん時間帯でご飯を食べていたら、急に家に来ると早瀬から連絡が来た。それに気づいたのは十一時ぐらいで、気づいてすぐに家のインターホンが鳴った。


 そして、この現状である。


 「せめて了承してから来いよ」

 「どうせ暇だろ?」

 「……チッ」


 ぐうの音も出ないから舌打ちだけに留める。で、でも厳選とかレベル上げとかで忙しいし!ひ、暇じゃないし!


 「普通さ」

 「んだよ?」

 「相合い傘したならそこら辺の描写を回想なりで教えてくれるもんじゃないの?」

 「相合い傘っつってもな」


 別に特殊なことが起きたわけでもない。何故か黙りこくられて気まずい思いをしたのは俺の方なのだ。


 俺が気を使って話しかけなきゃいけない?とか思うぐらい気まずかったんだぞ。


 「それにバイト先に行ったら行ったでなぁ……」

 「あ……」


 俺の力が消えるような言葉で察してくれた我が友人。ありがたいことだ。


 「制裁は優しかったか……?」


 言葉の意味を考えてくれ。制裁って言葉が優しいわけねぇんですよ?


 「1時間個室に閉じ込められてシスターズに事情聴取された……」


 鞭まで出されなかったのは僥倖か。度重なる尋問に心が折れそうであったが、まあ納得したのでよしとしよう。


 「……うし、暗い話はやめようぜ」

 「お前から振ってきたんだけど?」 

 「三歩あるったら忘れたわ」

 「鶏……」


 鶏に失礼だろ。


 「とにかく、相合い傘では何も起きなかったんだな?」

 「そもそも、綾瀬と何かある前提で話すのやめてくれます?」


 何故に早瀬は、俺と綾瀬の動向を気にするのだろうか。ラブコメなんて起きないからな、いい加減諦めろ。


 「はぁ、何度も言ってるだろ。所詮、綾瀬は他人だ」

 「だからどうでもいいって?」


 俺のポリシーだからね。


 「身内じゃないからわざわざ記憶の容量を使う奴じゃない。面倒くせぇしな」

 「蓮らいしなぁ」


 てか、こいつ何しに来たの?


 部活はどうした。サボりか、クソ野郎だな。


 「勝手に自己完結しないでね?」

 「帰れ」

 「本音を言えって意味じゃねぇよ!」


 部活は休みらしい。まあ、真面目だからな早瀬は。そうそうサボりなんてしないだろう。


 目で、はよ何しにきたか言わんかい、と告げると渋々バックの中からある物を取り出す。


 よく見なくても分かる。四角くて箱みたいなやつ。なにもわかってねぇじゃねぇか。


 「これは?」


 タッパーみたいな物を指差して問いかける。下から覗き込まないと中身が見えないタイプと箱が透明じゃ無いタイプなので何が入っているか不明。開けた瞬間、暗黒物質が飛び出てくる可能性があるわけだ。


 「差し入れ……って表現でいいのか?」

 「俺が聞いてるんですけど?」


 疑問形なのやめてくれない?


 「我が妹様が作ったものらしい」

 「ちょくちょく不確かな感じを出すのやめろよ」


 お前が持ってきたんだから実情知ってんだろうが。


 それにしても早瀬妹様か……うむぅ。


 無遠慮にジロジロと箱を眺める。いや、胡散臭いとか怪しさ満点だとかそんなことは何一つ思ってないのだが。


 途中まで食べていたチャーハンをレンゲで掬って口に運び、目で説明を促す。


 「花嫁修業の一環だってさ」

 「はなよめしゅぎょう?」

 「異国の言葉じゃねぇんだが」

 「早瀬妹様は将来のためにそんなことまでしてんのか」


 すげーなー、と思う。感想が小学生並みで涙が出そう。


 まさか、もう結婚相手が決まっているからそのためとかではないだろう。婚約者でも出来たのなら話は別だが。


 「まあ、将来のためと言えば将来のためなんだが」

 「いいことじゃないか」


 なぜ、言葉を濁す感じ?


 「俺は嫌われているから実験台としてちょうどいいからな、差し入れも納得がいく」


 他に理由があるのかもしれないが、俺の中ではこれが結論だ。別に、早瀬に真性の阿呆を見るような目で見られようが結論は変わらん。


 なぜなら。


 「会うたび睨まれて避けられるからな妹様には」


 気に障るようなことをいつの間にかしていたのかもしれない。


 「……まあ、これに関しては蓮だけが悪いわけじゃないしな」


 ところで、だ。


 「ガチで差し入れのためだけきたの?」

 「そうだぞ」


 帰ってくんねぇかな。


 「ああ、それと」


 ゴソゴソ。


 鞄から出すのはケータイゲーム機。よく使う3Dのやつだ。


 「対戦もやろうぜ」

 「先に言えよう!」


 すぐさま自室から同ゲーム機を持ってきてROMを対戦ように差し替える。


 それから、ごく普通の何の面白みも無い友人と過ごす休日は過ぎ去っていく。





 「受けループは害悪」

 「一撃必殺当てたくせに言うんじゃねぇよ」

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