第14話
奇異の視線というのも慣れてしまえば何とも感じなくなる。誰かが提唱した人間は慣れる生き物だというのもあながち間違ってはないのだろう。嫌な慣れというのもしたくないものではあるのだがね。
激辛弁当事件より数日が経過した。
いつも通り陰キャらしく教室の空気となり静かに過ごしたいと心が叫んでいる。叫びたがっているんです。ミュージカルするほどじゃないけど。声も出せるしお腹痛くならないからね俺。
当然のようにいろんな事に変化は起きた。
「おはっーレン君」
「おはようございます異識君」
例えば毎朝二人組の美少女に挨拶されるようになったりとか。
正直、厳選とかで夢中になってるときは反応していない。だが、気づいた時には頭を下げるくらいはしている。
そうすると、どこからともなく舌打ちが聞こえてくるがどうでもいいことである。
「うぃーす蓮」
「はよ」
ここ最近、早瀬は少しだけ機嫌がいい。というより、何か面白いことが起きてるから楽しんでると言った方がいいだろうか。
まあ、早瀬のことだし楽しいなら別にいいだろう。
早瀬は挨拶が終わると俺と喋るか自身のグループへと向かい楽しそうに会話する。実にリア充極まりない。滅びろ。
いや待て。陰キャというのは陰だ。つまり光である陽キャがいなければ陰キャとは呼ばれなくなるのでは?世紀の大発見かもしれない。学会に行かなきゃ!世の陰キャを救うためにもなりうるであろう。何言ってんだ。
「レンくーん」
鞄から本を取り出した時であった。菅原千春が声をかけてきたのは。
ちなみに、今回持ってきているのはラノベではない。推理物の小説である。謎解きであり青春もの?でもあるそれは京都のアニメーションスタジオでアニメ化した少し有名な推理物だ。まあ、中身についてはアニメを見るか自分で買って読んでくれ。推理物は適当なこと喋るだけでもネタバレになるから説明できないのよ。氷菓っておいしいよね。
「なんだ」
「むむ、お友達に向かってなんだとはなんだね」
お友達?
「俺の友達は早瀬とかの数人だけだが?」
「ほら、友達じゃないかー」
「何で菅原が入ってると思うの?」
頭おかしいのかな。
「えー、こんな風に話しするなら友達と言えるんじゃない?」
「ちーちゃん何言ってるの。異識君に迷惑でしょ」
で、出た。猫被り番美少女!
「ごめんなさいね、異識君」
正統派美少女といった物腰と笑顔。
「……フッ」
「(ピクッ)」
まあ、綾瀬の中身があれなのを知っている側からしたらそんなもんにトキめきなんてものは感じないからな。鼻で笑ってやりますよ俺は。
そんな反応したら菅原も笑っている。
俺らに対して罵るとかは教室内で出来ないことを知っている俺らからしたら何を言おうがこの仮面を被っている内は怒られる心配もないから何を言っても大丈夫なのだ。後が恐いけどね。
「じゃーレン君はあたしとはどういう関係なの?」
「
「えー、あんなこと恥ずかしいことしあった仲なのに」
ザワッ。
ザワザワ。
「確かにあんな姿を晒すことは滅多に無いが、あれは無理矢理だっただろう」
おかしいな。
なんか周りが騒がしくなっている。
遠くから「無理矢理……?」「これ警察に行った方が」とか様々なことが聞こえてくる。暇人どもだなー。
「……ちーちゃんと異識君、言葉のチョイスおかしいでしょ」
小さな声で猫被りがなんか言ってるがざわめきの方が大きくて聞き取れなかった。もっと大きな声で言おうね。
「ならお友達になろう!」
「うるせぇ、黙って席座るか、黙って直立してろ」
「酷い!りーちゃん、レン君が虐めてくる!」
「ちーちゃんが唐突過ぎるのよ。そういうのは段階を踏んでくべきでしょ?」
「そうだそうだー、段階を踏めー」
そろそろ離れて欲しい。俺だって本を読みたいのだ。
「友達じゃないんだから離れてくれます?邪魔なんですけど」
「嫌だ!もっとイチャイチャしよーぜ!」
「綾瀬さん、こいつどうにかしてくんない?」
そう言って猫被りの方を向いたら、一瞬だけギリッと歯が擦れる音がした。え、何恐いんですけど。
「ちーちゃん」
「ふ、りーちゃん止めてくれるなよ。あたしはレン君が友達と認めるまで絡み続けるのだ」
迷惑過ぎるだろ。
「……はぁ、そもそも友達の定義―――」
「あ、そういうのいいんで」
……。
うーん、このクソ野郎うっぜぇですね。
急に真顔でシッシッと手をやられるとか腹立つんですけど。
「ようはレン君があたしを友達と認めるにはどうしたらいいのかって話しじゃん?ね、りーちゃん」
「…まあ、そういうことだわ」
「この陰キャからそれを聞き出すには至難の業だと思うし、絶対はぐらかすか話逸らして煙に巻くでしょう」
「十中八九そうね」
友達なろうって話しだよな、これ。
何でそれなのに陰キャとか悪口言われなきゃいけないの?おかしいよね?
「てことで……カモン、早瀬クン!」
「うぃーす、早瀬クンでーす」
「うわ、ウッザ」
「ノリがちょっと」
「存在がちょっと」
「呼ばれたよね俺。なのになんでこんなこと言われてるの!?」
いや、今のはウザかったから仕方ない。
正直、俺もそう思ったからね。
がっくりとしていた早瀬は、すぐに顔を上げてイエメンスマイルを取り戻す。切り替えが早いなー。
「で、なんで呼ばれたの」
「実はかくかくしかじかで」
「かくかくしかじかで伝わるわけねぇだろ」
よくある表現だけど、現実では何も分かんないからそれ。
「なるほど、蓮の友達になる方法を知りたいということか」
「何で伝わるのかな?」
「俺レベルになると自分たちの会話とは別な他の奴もの会話も聞き取れる能力がある」
へー。
「こいつが友達って呼んでるのは、まあ大親友の俺をね、筆頭にね数人しかいないのは蓮の口から聞いたと思う」
「すごい友人アピール……」
「過剰すぎて引く」
「おっと美少女二人教えて欲しくないのか?」
「「詳しくお願いします」」
息ぴったりか。
え、俺が何してるのかって?
いや、もう俺が会話に入る必要ないからさっきの読書の続きやで。
てことで、こっから先は美少女二人と早瀬との会話になりますん。
「このド腐れ自己中朴念仁は友人が少ない」
「当然ね」
「ド腐れ自己中心朴念仁……」
「嫌われないようにとかそんなもんは一切考えなくて大丈夫だ。なんせ関心が無い奴のことを記憶に留めることすらしないから」
「んにゅ?けど、あたしたちのこと覚えてるよね」
「そう、つまり」
「私たちのことを多少なりとも関心を持っている……?」
「ああ、まずそこが大前提。そっから先は蓮との関わり次第っていうのが難点なんだよなぁ」
「難点ってどゆこと?」
「なんて言えばいいのか、蓮にとって友人は仲間……違うな、もっとこう」
「―――身内」
「そう、それだ。蓮はまあいろんな事情があるから詳しくは言えないけど身内をすごく大事にする。だから」
「身内と認められるようにすればいい」
「基準とかは流石に俺にも分かってない部分が多いが、そういうことだ」
参考になったか?と早瀬は問いかける。
二人とも深く考えるように顎に手を押さえて目をつむる。その姿も様になっているから美少女というのは凄い。語彙力がなさ過ぎてヤバい。
てか、綾瀬はもう関わる必要ないと思う。激辛弁当を喰わせた時点で復讐は終わっているのだから。まだあるのなら俺は自分が行ったことな恐い。覚えてないかなおさらだ。そんなに怒らせることしましたか?
「うん」
「ちーちゃん?」
菅原が何か思いついたと言わんばかりに頷き、そしてイタズラを仕掛ける子供のような笑みを浮かべた。
ちらっと隣の綾瀬を見て菅原は何の前触れもなく読書中の俺の手を握ってきた。
「なっ!」
「レン君」
嫌な予感。
逃げ出さなければ後々後悔するであろう、そんな感覚。
だが、それは余りにも遅い予感であった。
「結婚しよう?」
「………?」
「にゃんぴゃらぱぁ!?」
「おおー」
ザワッ。ザワザワ。いや、そうとしか表現出来ないぐらいざわめきが大きくなったの。
「あえて、聞くが……何でだ?」
「身内になればいいと早瀬クンは仰りました。だがしかーし、他人が身内になる方法というのは限られてくるのです」
「ちょ、ちーちゃん?」
「なら、一番手っ取り早いのは夫婦になることだと思うのです。りーちゃん褒めてくれてもいいよ?」
「阿呆ですか!?」
あー、そういう考えもあるのかぁ、と早瀬は苦笑して納得しているがお前のせいだから早く止めてくださりやがれ。
「そ、そういうのは恋人関係になってからでしょ!?」
「結婚から始まる恋もある」
「異識君!!」
「え、これ俺が怒られる流れになるの?」
おかしくない?
「だ、だってそんなの……!」
「おやおやぁ、りーちゃんお顔を真っ赤にしてどーしたのかなぁ??」
ニヤニヤしたら次は俺の腕を抱き寄せる。柔らかい感しょゴリッ………まあ、人体には堅い部分もあるから、ね。柔らかい部分があるであろう部位が全然柔らかくないこともあるということを諸君は覚えておこう。
あれ?なんか寄せられた腕の感覚無くなってきてる……。もしかして、関節技キメられてる?一番不思議なのは痛くないところ、もしや神経すら掌握されてるのでは。
そんなあばら骨かどっかの骨がゴリゴリと当たるように抱えられ、それを見た綾瀬が顔を真っ赤にする。まるで熟れたトマトのようだ。
頬を膨らませ、菅原睨めばいいものをどうしてか俺を睨む。あの、俺悪くないんですけど。
「~~~~!!」
仮面が取れかけてるが大丈夫なのだろうか。今にでも地団駄を踏んで暴れ出しそうな感じ。
負けるわけにはいかないとでも考えてるのか、その手を宙に浮かべては下げ、浮かべては下げを繰り返す。
「にゅふふ、ちーちゃん悔しかったら腕をとればいいんだよ?」
「あの腕に当たるのがかた―――」
「あ゛?」
「何でも無いです……」
美少女がそんな形相をしないでほしい。マジで恐いから。
「は、破廉恥、そんなのは破廉恥です!異識君を訴えます!!」
「俺は何もしてないんだよなぁ」
どういった方程式で導かれたんだろう。綾瀬流りんりん方程式なのか、意味分からん。
キャパがオーバーしてるであろうことは顔の真っ赤具合で分かる。純情すぎるぐらいだ。もしや、未だに赤ちゃんはコウノトリが運んで来ると思っているのだろうか?
「知ってますよそのぐらい!馬鹿にしてるんですか!?」
「男と女がニャンニャンしないと出来ないやつだね」
「表現が古いなぁ」
てか、早くこの状況をどうにかしてほしい。誰か助けて。
「う~~!」
「あ、ヤバい」
ガシッ。
「は?」
「―――い」
あっという間に離れた菅原に気をとられた訳では無い。
逆側の手が綾瀬に掴まれたのが意識を奪う原因だ。
そして、掴まれた手が綾瀬の方に勢いよく引かれる。
大きな声で、弾劾するかのように。
「破廉恥成敗!!!」
あーれー、とか言う暇はなく床に背中から叩きつけられた。
ちょーいてぇです。
「ちーちゃんってキャパオーバーしたら暴力振るうんだよねー」
「ふー、ふー!」
それって確信犯ってことだから、裁判官の皆様に至っては有罪判決にしていただいて懲役三日ぐらいにしてほしい。期待してます。
あ、
「にゅ?ちーちゃんその態勢だとレン君から黒のスケスケ見えちゃうよ?」
「黒のスケスケじゃねぇピンクのヒラヒラだ」
「うんにゃーー!!!」
眼福とでも言っておけばいいのかね。
まあ、振り上げられた右踵が顔面に突き刺さってちょっとしか見えなかったけど。
「役得だな」
「不可抗力に加えて鼻の骨を折られかけたのが役得ならお前はドMだよ」
「お約束ならあのままスカートの中に突っ込むのが王道なのになんでやらなかったんだよ?」
「漫画の読みすぎなんだよなぁ」
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