第13話


 「流石に、これは予想外なんだが我が友人」

 「うるせぇぞ、陽キャ。お前にも責任があるんだから当然の報いだ」


 場所は変わって中庭。今日は梅雨の時期が嘘だと言わんばかりの快晴である。灰にする気か俺を。


 なぜ、灰になる危険を冒してまで中庭にいるのかというと、結論は一つ。


 ―――脅し、である。


 「言い方悪いんですけど」

 「間違ってはないだろちーちゃん」


 先生に言いつけてやるー、という小学生かとツッコミを入れたくなるような脅しを受けてしまい拒否権が無い俺は泣く泣く中庭まで連行されてしまった。

 文がおかしくない?と思うだろうが全て真実だ。逃げる気は無かったのだが昼休みに入って数秒後に両脇を固められて引きずられていったのは連行と言っていいだろう。逃げる気無かったんだって、信じて?


 小学生脅しを無視しろと言われれば簡単だが、日々平穏を願っている俺からしたら教師からのお呼ばれとか最悪な部類。いや、時々呼ばれてるんだけどさ。何でなんだろうね。


 てか、正直滅茶苦茶目立ってしまっている。それは当然か。人が連行されてる姿なんて滅多に見られないからなぁ。


 「それだけじゃなくて美少女二人に連れられてるから尚更じゃね?」

 「くそイケメン陽キャの早瀬くん、これ以上俺に現実を見せないでくれ。終いにゃ不登校になるぞ」

 「メンタルくそ雑魚かよ」


 ふ、勝負で負けた時なんて泣きかけてるレベルだからな。雑魚なんて言葉じゃ収まると思うなよ。


 「とりあえずお昼ご飯食べようよ~」

 「そうね、時間もあることだし」


 件の美少女ども。ちーちゃんと腹黒さん。


 「説明に悪意を感じる」

 「心の中読むのやめてくれます?」


 悟りか。


 「はい、お弁当」

 「待て、待て待て待て」


 学習してないんですけど、この美少女。


 「手作り弁当は食べないと言ったはずだ」

 「付け加えるなら知らない相手からね」


 無駄な記憶力め。


 「そうだ、俺は知らない相手からの飯なぞ断じて喰わん」

 「つまり、私は知らない相手だと?」

 「その通りだ」


 微かな記憶しかないがそんなものを知り合いとは呼ばん。


 だが、美少女は意味深に瞳を細めた。


 「知らない相手なはずの私に、なんて言ったって何で憶えてるの?」

 「ッ」


 しまった。


 「ひ、必要だと思ったので……」

 「へぇ、私とのあの会話は異識君にとって重要で記憶に残すべき大事なものだったと」

 「そこまでは言ってねぇよ!」


 なんだ、その勝ち誇った顔は。腹立つぅ!


 あーあ。やっちまったなー。


 「蓮、流石に誤魔化しきれないぞ」

 「誤魔化してるつもりはこれっぽっちもないんだけどな」

 「じゃあ私の名前を言える?」


 もう美少女と呼ばれるのは嫌、とのこと。


 仕方ない。確かに記憶力がかっすかすの俺ではあるが昨日会った奴の名前ぐらい覚えている。


 「綾瀬凜。黒桜高校1年B組だろ」


 昨日の今日である。絡まれることはほぼ確実だったから早瀬に連絡をとって概要だけは聞いていた。


 「え、じゃあちーちゃん呼びはわざと!?」

 「面倒くさかったからな」


 菅原千春って名前ぐらい覚えている。ついでに俺と同じ1年A組ってところもな。


 え?同級生をあだ名で呼ぶの恥ずかしくないのかって?ふん、俺レベルの陰キャになるとその程度恥だと思わなくなるのよ。生き恥を晒してるからそれ以上の恥は無いからね。言ってて悲しくなる。


 「菅原と綾瀬。これでいいか?」

 「ええ、構わないわ」

 「………ちーちゃんでもいいのに」


 でもなぁ、だからと言ってなぁ。


 「手作り弁当は嫌」

 「お礼の一種よ」

 「いらないと言っているのに?」


 早瀬に確認したのだ。自分が行った奇行を。


 いやね、馬鹿かと。でも、パーティー考えてた時だから仕方ないと思うの。許して?


 「おい、蓮。俺はお前と綾瀬さんのイチャイチャを見るために連れてこられたのか?だったら帰ってもいい?」

 「「イチャイチャじゃねぇよ(ない)!!」」


 何ほざいてんだ我が友人は。殺されてぇのか??


 「ハモるんじゃないよ綾瀬さん」

 「失礼な、異識君がハモってきたんでしょう?この美少女と少しでもハモりたいというその思いでね」

 「おい、こいつ何言ってんだ?日本語喋ってます?理解できないんですけど」

 「りーちゃんは馬鹿だからね」

 「ちょっとちーちゃん!馬鹿とはなによ!」


 やだ、何この空間。


 もう関わりたくないんですけど。


 「んで、帰っていい?」

 「ふざけんな。事の発端はお前がこいつらに俺のこと喋ったからだろ」


 そうだ、早瀬が不良をのしたのが俺だと言わなければこんなことにはならなかった。


 「口止めしてなかった蓮が悪い」

 「ぐうっ、確かに…」

 「それに、そろそろ俺以外の奴ときちんと交流を持ってもらいたくてな」


 お前は俺の親か。


 いるっつーの。交流する奴ぐらい。


 両手の指で数えられるくらいだけども!


 「あー、レン君そういうのいなさそーだもんね」

 「見た目通りでしょ」


 何だこの美少女、縊り殺すぞ。


 「異識君、はいあーん」

 「ねぇ、待って?脈絡もないし文脈もないから全くこの状況になる意味が分からないんですけど!」


 ラブコメワールドじゃねぇんだぞ。好かれてるはずの無い女生徒からあーんなんてされるか。


 「また毒か!?」

 「またってなに!?一回も入れてないわよ!」

 「じゃあ金だな!?喰った瞬間、『はい、三万円』とか言う気だろう!!」

 「言うわけないでしょ!これは、ただのお礼だって言ってるじゃない!!」


 この美少女、馬鹿すぎる。


 たかだかお礼のために羞恥すら捨てて好きでも無い陰キャにあーんなんてするんだ。頭おかしいだろ。


 それとも入れ知恵でもされたのか。元からの可能性が高いと思うけど。


 「はい、あーん」

 「無限ループか!」


 ストーリーではい、を選ぶまで進めなくなる例のあれかよ。そういうのはRPGだけでいいよ。現実ってはいといいえだけじゃ、おさまんないんですよ?


 くそ、早瀬と菅原はニヤニヤしやがって。覚えてろ、明日になったらお前らの上履きの靴底に前と後ろで二つずつ画鋲刺しとくからな。


 「チッ……あーむ」


 差し出されていた卵焼きを口に含む。


 料理は舌に乗り味覚が発動した。


 「―――」

 「どう、美味しい?」


 劇的だ。


 「か、」

 「可愛い?」

 「辛れぇええええええええ!!」


 なんだこれ。


 なんだこれ!?


 「は、早瀬ッ、水だ、水をくれ!!」

 「おう、分かった」

 「てんく…ゴクゴク―――って炭酸じゃねぇか!!」


 余計に痛くなるわ!


 筆舌に尽くしがたい。なんだこれは。


 何を入れれば卵焼きが激辛の物体に変化するの?


 「ちーちゃんって辛いの好きだったっけ?」

 「いえ、嫌いな部類ね」

 「お、お前ぇ」


 何がしたいねんこいつ。


 それよりも、今は冷やさなければ。何で休憩時間に傷を負わなければならないのか。


 「俺のこと嫌いだろ!?」

 「暴力っていけないことだと思わない?」


 まるで、この反応をしたらこう返そうとしてたとばかりにスラスラとセリフを告げる。

 髪越しに見えたその顔は若干痙攣していて、笑いを堪えるのに必死になっているのが目に取れる。


 「嫌いではないけど、ムカつきはしてるから一発殴ろうと思ったけど」


 ニコリと最終的に勝ち誇った笑みを浮かべた。


 「これなら私の手も痛まないし、苦しむのは異識君だけだから一番平穏な方法だと思いついたからね」

 「うわぁ……」

 「親友としてどうかと思う……」


 クソがぁ……。


 その、これが私のたった一つの冴えたやり方みたいに言い切りやがってぇ。


 この昼、俺は喋る事が出来ずに終えてしまう。

 ほら、見たことかラブコメにこんなクソみたいな女がいるかっつーの。わかった!?







 「でも、結局全部食べたよな」

 「例え、俺を陥れるためのでも作ってもらったのにかわりはないからな」

 「そういう行為が原因になっているんだけどね」

 「奴のためじゃねぇ、俺の血となり肉となる食材に失礼だからだ」

 「はい、ツンデレいただきました」

 「ツンデレじゃないし!」

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