第11話


 四人がけのテーブル。そこに座っているのは二人だけなため後二席空いている。これ、どっちかの隣に座らなきゃならないんだよなぁ。


 近づいていくと、それに気づいたいじめっ子美少女の方が手招きをして隣を促してきた。まあ、選ぶよりかは相手のせいにできることをしてくれたので、その通りに座る。他人のせいに出来るって最高だね!


 「さて、目つきわるい店員さん。自己紹介といこうか」


 ぶちのめすぞ。


 「あたしは黒桜高校1年生の菅原千春。それで、こっちのむすっとしてるのが」

 「ちーちゃんストップ」

 「ほえ?」


 勝手に始まった自己紹介だが、これまた勝手に止められた。いや、俺なんもしてないけど。


 「自己紹介にもきちんとルールを決めます」

 「んん?」

 「………チッ」


 クソが。このまま、奴らの自己紹介が終わって、あなたは?って聞かれたら俺は答えるなんて言ってませんよねと言ってやり過ごす作戦が…!


 この美少女できるっ。


 「つい最近、自己紹介する場面があって名乗り返されなかったから保険をかけとかないと」

 「あー、陰キャ君との?」

 「うん」


 面倒くせぇことしやがってその陰キャ君が!!


 余計な知恵を与えてんじゃねぇよ!!


 「まず、互いに名前と高校名を言い合います。それが終わり次第質問タイム、これでどう?」

 「いーんじゃないかにゃー」


 いじめっ子美少女は肯定するが、俺は正直拒否りたい。なんでわざわざ知らない奴に個人情報を晒さなきゃならんのか。個人情報保護法を知らないのかな。


 「なら、宣誓しましょう。それなら言い逃れ出来ないわよ?」


 その目と声は俺に向けられている。逃げ道を潰して獲物を狩る獣かこいつは。性格が歪みきってんな。


 「宣誓といったらこれしかない。アッシェ―――」

 「やめろォ!!」


 おいおいおい、何こいつとんでもないこと口走ろうとしやがってるんですか!?


 「……何?」

 「何じゃねぇよ。危険なことするのやめてくれます!?」


 おま、いろんなとこに問題しかないんですけど。各関係者から創造神さくしゃがボコボコのボコにされてしまう。

 いやね?俺も知ってるしファンだし崇めてるけどさ?やっていいことと悪いことあるのどぅーゆーあんだーすたん?

 ここ最近ではトゥイッタァで投稿される家族話が楽しみすぎるからねあのゲームライフ作者さんの。イチャイチャのイチャよあんなの。仲が良すぎてほっこりします。頑張ってください。体にはお気をつけて。新刊楽しみに待ってます。


 「じゃあ誓いますって言いましょう、せーの」

 「「誓います」」


 声に出したのは二人だけ。美少女組しか誓いは立てない。


 「なんで誓わないの?」

 「そもそも、だ」


 なんで俺がこいつらの相手をせなあかんねん。


 「俺はあんたらがちょっかいかけてくるから、それを早く終わらすために来ただけだ。自己紹介も質疑応答もする気は一切無いし、やる理由もない」


 必要なのは絡んでくる理由。それさえ分かれば俺はすぐさまこんな席から離脱する。


 「出来るのは俺からだけの一方的な問のみ。それに答えるのかどうからあんたらの裁量に任せるが、終わればすぐに仕事に戻る」


 ぶっちゃけ迷惑です。


 ジッと美少女たちは俺を見てくる。いじめっ子美少女はその顔から浮かべていた笑みを少しずつ落としていった。


 ふふ、お前たちの質問には答えないけど、俺の質問には答えろよ?って意味だからな。我ながらクズいぜ。


 「んで、俺に絡んでくる理由はなんだ?」

 「お礼」

 「ん?」

 「お礼を……言いたかっただけです」


 お礼、おれい、俺い?


 「学校で不良に絡まれてたところ目つきの悪いあなたに助けていただきました」

 

 なんで目つきの悪いって言った?いらないよね?言う必要ないよね?


 「一応、被害…うん?加害者ではないし、巻き込まれた?人に助けてくれた人の名前を聞いたんですけど、その名前の人が違うって言うので」

 「へー、俺が助けたねぇ」


 記憶に無いが……。


 なんだ、俺の意思が眠っている間に人助けをでもしてんのかこの体。夢遊病ってレベルじゃねぇなそれ。


 「なので、感謝をしたいと思います。―――ありがとうございました」

 「あたしからも友人を助けていただいてありがとうございました」

 「ん」


 なんとも居心地が悪い。


 考えてもみろ、全く記憶に無いことで美少女たちが感謝を告げるとか驚きを通り越して恐怖すら覚えるよ。


 ただ、美少女たちが真剣なのは伝わってくる。それを茶化したりなんてしてしまったのなら、俺は人間ではなくなるだろう。てか、感謝を茶化す奴いたらマジモンのクソ野郎だから。


 「確かに受け取った、まあ今後気を付けてくれや」


 今後の展開としてはここでぞんざいに扱い関係を切ることで俺の平穏へと向かわせるって寸法よ。やだ、俺天才?


 よし、ならさっさと席を立って―――


 「ところで、レンくん」


 !?


 このいじめっ子美少女なぜ俺の名前を…!?


 「レンねぇ…その名前ってりーちゃんを助けてくれた生徒と同じ名前なんだよなぁ」

 「確かにそうだね」

 「………」

 「で、」


 なんだ何を聞かれるんだいったい。


 「前髪下ろしてくれない?」

 「あっ」


 なぜ。


 「だってーゴムで上げてるってことは長いんだよね前髪」

 「まあ、それなりに長くはしているな」


 目つきわるいからね俺。


 初対面の相手が「ヒッ」と言わないように気を遣ってるんです。褒めてもいいのよ?


 「でね、りーちゃんを邪険に扱うその陰キャ君―――イシキレンって人は目を隠してるの前髪で」


 うわぁ、俺と同じ名を背負ってるからかやること俺と一緒だねイシキレンくん。他人のこととは思えないほどの親近感がわいてくる。もはや同一の人物といっても過言ではないのでは?


 「だーかーらー」


 伸びた声、けれどその瞳ははぐらかすことを許さない。


 「同じ人じゃないならできるでしょ?」

 「……勘のいい奴は長生きしないってしらんのかいじめっ子」


 錬金術師を読んどらんのか。面白いからおすすめですよ?


 まあ、こいつらが探し求めてた俺が、学校で会っている奴が同一人物の可能性。十分にあり得ることだろう。


 なんせ、俺もさっきこいつらが通っている高校と同じところに通っているからな。


 「にゃはは、じゃあ当たり?」

 「そっちの美少女はどう思う?」


 既視感は確かにある。けど、記憶に残しているかは別の話ってところ。他人なんてどうでもいいしね。


 「俺が美少女を助けたとして、それが同じ高校の陰キャ君であると本気で思うか?」

 「正直な話」


 何だよ。


 「最初はあなたを見つけて動揺しちゃってたけど、その声全く同じなのよ」

 「は?同じ声だからなんだ?それだけでイコールで繋げるとか馬鹿じゃねぇの?」

 「なんで私にだけ当たりが強いのかな!?」


 いや、知らんし。


 なんかそのぐらい言っても大丈夫だって感じるからかな。初めて会う奴じゃないっていうか、適当なこと言ってもいい気がするんだよね。


 「声が似てる奴なんてたくさんいるだろ、必ずしも俺だとは限らない。はいろんぱー」

 「うざ」

 「ウッザ」


 やめてくれます?時にたった一言が物凄い傷になるんですよ?


 「違うっていうならそれなりの証拠が欲しいなぁ」

 「そうね、せっかく見つけたのだからそこら辺はハッキリさせときたいし」

 「最悪、あっちのお姉さんに聞けばいいかにゃー」


 うーん、なんかもうどうでもよくなってきたし、この時間が無駄じゃないかなと思い始めてしまった。


 つまり、思考放棄というやつ。面倒くさくなったもも言う。


 だからか。


 「ん、いいぞ」

 「「……え?」」


 オッケーを出してしまった。


 そしたら、美少女どもはポカンと、まるで言われるはずのない言葉を受けたかのような表情をした。自分たちから提案しておいてそれかーい。


 「俺は全く答える気はないけど、あのフリーターに聞くのを止める権利は持ち合わせちゃいないからな」


 誰かが誰かの行動を縛ることなんて出来やしない。いくら注意しようとやってしまうのが人間だし、止められたら逆にやる気になるのが人間なのだから。

 美少女どもが俺に聞くのは自由。それに答えるのも答えないのも俺の自由だ。


 否定も、阻止も、制限もする気は無い。


 やりたきゃやればいい。


 「じゃ、呼ぼー?」

 「そうしましょう」

 「おい、フリーター呼んでるぞ」

 「フリーターっていうのやめてくれない!?」


 何だ案外近くにいたのか。

 

 「盗み聞きとは良い度胸だな」

 「年上なんですけど!扱いおかしくない!?」

 「無駄に年齢だけ喰った奴を尊敬など出来るわけねぇだろ」

 

 よくいるよね、碌なこと言わないくせに年齢を楯に自分は偉いって言ってくる奴。そんな奴を尊敬なんてできるかっつーの。


 「ふ、ふんっ。姉さんに言われたから近くにいただけだもん、私が気になったからじゃないし!」

 「なんすか、そのエセツンデレ。クソすぎで面白みがないんでやめてもらえます?」

 「ツンデレじゃないし!どっちかというとデレッデレですけど!?」

 「やばいよ、何言ってるか分かんないよこの人……」


 何で俺の周りの人って変な人多いの?


 はい、そこ類友とか言わない。俺は変じゃないから。あーゆーおーけ??


 「えーと、店員さん?」

 「ふふん、此奴の名前を知りたいということは分かっているよ!」


 うざ。


 「だが、しかーし。タダでっていうのはいけない。情報とはこの世で一番重要なものだからね」


 何だ、このウザさ。頭いかれたとしか思えん。


 「私たちの情報と引き換え、ということですか?」

 「そんなのいらん!」


 なんか会話に入んの面倒くせぇから自分用に注いどいた紅茶を優雅に飲むか。


 「欲しいのは一つ蓮君の学校での様子!この子全然教えてくれないからね」

 「言う必要ないからなぁ」


 学校生活なんてどうでもいいし代わり映えもしないだろう。そんなの聞いたところでどうにもならん。


 「やっぱり、蓮君って言った」

 「それに学校での様子ってことは…」


 あ。このフリーターやらかしやがった。


 「この人の名前やっぱり異識連なんですか!?」

 「え、なんで知ってるの?」


 おい、もうほんとこのフリーターどうなってんだ。


 ポンコツってレベルじゃねぇぞ。


 かまかけられてばらしまくってるクソみたいな頭弱々だよ。


 「はぁ」


 面倒くさいこと起こりそうだなぁ。





 『結局、どうなったんだ?』

 『明日から早瀬と昼飯を食べれないってところ』

 『ふーん、よかったなハーレム鈍感野郎』

 『お前にだけは言われたくねぇなイケメン野郎』

 『とりあえず、これから面白いことが起こるってことだろ?期待してる』

 『期待通りになるのかね』


 

 

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