第10話
「何するの!!」
店内に入って急に転けた美少女が、すぐに立ち上がり大きな声で文句を言ってくる。うるせぇ。
俺はその美少女を無視し、もう一人の美少女に向けてテンプレに満ちたセリフを告げる。
「1名様でよろしいでしょうか?」
んなっ、という声が背後から聞こえたが無視。ああいう関わったら面倒くさそうな奴は無視が一番なのだ。
そして、ニヤニヤしてたもう一人の美少女は俺の言葉を聞き更に笑みを悪質なものへと変える。こいついじめっ子側だな。
「一人です」
「ちーちゃん!?」
「カウンター席でよろしいですか?」
「テーブル空いてるならテーブルがいいかも」
「ちーちゃんも無視!?」
いじめっ子美少女をちょうど空き、海色さんが整えた席へと案内する。
お冷やとメニューを持って行き、決まり次第呼ぶようお願いする。
「あのー、私の分のお冷やがないんですけど……」
「お客様、当店ではペットの同伴はご遠慮させてもらっているのですが?」
「ペット!?」
「噛まないから、だめ?」
何言ってんだ。入店当初から俺に噛みついてきてますけど?てか、何しれっと座ってんだこのお馬鹿美少女さんは。
やはり、面倒くさい。対応は全て海色さんに任せるか。
「では、失礼します……海色さん、なんか面倒くさそうな客なのでよろしくお願い働け」
「語尾が働けなのが気に食わない」
子供か。大人の余裕を見せてくれ大学生。合コンやって、スノボやって、勉強するきないだろ?みたいなのだけが大学生という俺の認識を変えて欲しい。
まじで、遊んでばっかだから大学生。夏休み三ヶ月とか舐めてんのか。社会人にそんなもんねぇんだぞ。高校生は二ヶ月もない。不平等ですぞ!
ちなみに、俺は大学生はニートだと思っている。親の金で生活して遊んでるだけとかマジモンのニートですやん。バイトしてる奴はフリーター。いいか、学生という職業は無いからな、甘えるなよ。バイトしろ。
「蓮君、何で急に大学生に喧嘩売り始めたの?」
「真実は時に人を傷つける。俺はこのバイト先で学びました」
「回答になってない!?」
しかし、どこかで見たような気がする美少女たちだ。つい最近に、そんなことあっだろうか。
先程までの時間とはうってかわって、客が少なくなっており余裕が出てきている。ホールに余裕が出来ているのなら、厨房で食器洗いでもしてようかなぁ。
「おーい、目つき悪い店員さーん」
ぶち殺すぞ。
「海色さん、呼ばれてますよ」
「私の目つきが悪いと?」
「ハハッ、目つきだけじゃないでしょ?」
「鼻で笑って貶してきやがったな!」
取っ組み合いを仕掛けようとしてくるが、仕事中。そんなことをしてたら二人してさっきまでの労働がに対する対価を得られなくなってしまう。地獄。
極力、あのテーブルには行きたくないのだが……。
つーん、と不機嫌モードに入った海色さん。この状態だとお願いなんて聞いてはくれない。まじクソ案件。
しゃーなし。いつもの営業スマイルと流し技術で切り抜けてやるぜ。
「お待たせしました、ご注文をお伺いします」
「うーん、あなたとのお話しがいいかな」
何言ってんだ、このいじめっ子美少女。
「アナタトノオハナシ、というメニューはありませんのでお帰りください」
「客に帰れとかあり得ないんですけどー」
「失礼、つい本音が。では注文は?」
「あなたとお話しするにはどうしたらいいの?」
「海色さーん、無理。会話が成り立たない、交代してくれ。」
「ちょっと、客に向かってその態度どうなの?」
うるせぇ。なんだこいつら頭わいてんのか。
美少女だからって何でも許されると思うなよ。
「じゃあ、ケーキセットで」
「飲み物は何にいたしましょう?」
「あたしはミルクティーかな、りーちゃんは?」
「カフェオレ(ぶすっ)」
「かしこまりました」
やっとまともなこと言ってきたぜこの美少女ども。もう一回やられたら店から追い出すところだった。態度が悪い客などたくさんいるからぶすっとされようが気にしない。
オーダーを告げ、飲み物の準備を始める。
トレーの上に凪沙さんが切り分けたケーキを置く。後は俺がミルクティーとカフェオレの準備ができたら完成。
「蓮。知人?」
「いや、記憶にないんですよね」
珍しく凪沙さんが雑談を振ってきた。申し訳ないが、本当に覚えていない。
「制服。同校。知人。」
「流石に同じ高校だからといって知っているとは限らないですよ」
そもそも、高校では髪を下ろしているから今みたく素顔を知ってる奴なんて早瀬とかぐらい。ていうか、いることすら認識されてないだろうなぁ。
完璧に陰キャだからな俺。塵芥のような存在と化している。
「要件。不明?」
「そうなんですよ。なんか話ししたいとか言われましたけど普通に恐いですし」
セールスかもしれない。あっという間に壺を買わされてそう。巧みの話術。
「海色。話。聴取。」
「私も気になってたからオッケー」
スタスタと美少女どもに近づいてく海色さん。恐れを知らない行動力、そこに痺れもしないし憧れもしない。俺は人間でいたいぞ。
あ、カフェオレとか作り終わっちゃった。
これ俺が持って行かなきゃ駄目?
「お待たせしました、ケーキセットのミルクティーとカフェオレでございます」
「あ、てんくー」
「ご苦労さま」
「………蓮君、ちょっとこっち来て」
「海色さん?」
美少女どもと話していた海色さんが腕を掴み俺を連れて行く。ドナドナドーナードーナー。てか、この意味いまの子供知ってるのか?
後ろから「レン…?」という声が聞こえてきたがそれに反応することは出来ない。
「蓮君」
「はい?」
「ここ最近、人助けをした?」
俺が、そんなことするわけねぇだろ。
「病院……行きます?」
「何で私がおかしいみたいになるのかな!?」
「だって、俺がすると思います?」
他人なんてどうでもいいが俺の信条なのに、わざわざするはずがない。
そのことを知っているはずの海色さんなら俺がしないことも重々承知なはずだ。
そんなことを言ってみたら、すんごい馬鹿を見る目をされた。喧嘩売ってんのかフリーター。
「覚える気がないから絶対忘れてるしなぁ」
「記憶の容量は有限ですからね」
どうでもいいことなど覚えてるだけ無駄だ。必要なものだけ覚えて後は自分が覚えるべきものだけで十分なのよ。
「姉さん、これいつものやつ」
「手。早。呆」
「ごめんなさい、意味が分かんないですオーナー」
とりあえず、呆れられてることだけは伝わった。何でですか。
「いいですか、俺は陰キャです」
「そのものだもんね」
ぶち殺すぞ。
「陰に生き、陰者となるため日々バロさんのようつべを見て研究をしていますし、道を歩いたらしい職質だってよくされます」
「周知」
周知の事実じゃねぇよ。
「そんなね、クソみたいな人間があんな美少女と知り合いだと思いますか?しかも二人とも超美少女ですよ。あり得ないに決まってます」
関わることすら出来ない。
住んでいる場所が違う。
見ている景色が違う。
だから。
「あの二人、どっからどう見ても美少女です。つまり、俺とは縁が無い光の世界の住人なんです」
カースト制度の頂点と言っても過言ではない。
「………」
まじで、なんでそんな呆れた表情するのかわからない。
クイクイ、と近くに寄っていた凪沙さんに袖をひかれる。
「ん」
そしたら自分の方を指差して、私は?みたいな感じで聞いてきた。解釈があってるのかは分からん。
「いや、聞くまでもないでしょ。流石に美少女って年齢じゃないです」
「がーん」
口に出すほど?
あと、足蹴るのやめてくれます?
「凪沙さんは美少女じゃなく美女ですし、あそこの二人レベルですよ?」
「むふー」
あ、満足した。なんだこの茶番。
「それで、結局俺にどうしろと?」
「知り合いかもしれないし、話してきたら?」
知り合いじゃねぇって。
「仕事中なので無理ですね」
「許可」
「おおっと、背後から急に刺された気がします。冗談ですよね?」
満足そうな顔からいつも通りの無表情に戻った凪沙さんが許可を出してきた。
「ほらほら姉さんがオッケー出したから、さっさと終わらせちゃお」
「………はぁ」
凪沙さんたちに言われてしまったのなら仕方ない。
面倒くさそうなのに関わったのなら、早期に対処して終わらせるのが一番だ。
そう思って、重い足を件の美少女どものとこへ向けるのだった。
「あっ、私が美少女かどうか言われてない!」
「笑止。姉。未満」
「うるさい、無駄乳姉さん!」
「貧乳。爆笑」
「こんなんにも需要はあるんだからね!?」
「もうちょい静かにしろよ……」
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