第9話
放課後の俺の行動パターンは三つほどに絞られる。
一つ目は、ゲームと読書。世界の方々と戦闘を行うため高個体値厳選や、めざめしパウィングの厳選、努力値振りにレベリング。やることは多いし時間もかかるが楽しいからやめられない、止められない。読みを決めた瞬間の脳汁が溢れ出す感じにもうやみつき。ヤバい薬でもきめてんのかな?
読書はまあいろいろ。ラノベや漫画、たまに大判の小説を読むくらい。ここ最近読んだ漫画は少年のバイブルで連載してる鬼退治の漫画。ラノベは前の前辺りで説明したのでしません。詳しくは前の前にいってくれ。
二つ目は、早瀬宅にお邪魔する。これには深い訳と行かなければならない理由もあるため仕方の無いことだ。詳しいことはいつか話すだろう。こういう大事そうなのは引き延ばすのが吉ってラノベから教わったからね。
最後の三つ目。
それは―――
「いらっしゃいませ、注文はお決まりでしょうか?」
バイトである。
待って欲しい。先程のセリフで『は?目つき悪い陰キャが接客業とか舐めてんのか?殺すぞ』と思われても仕方ないのだが待ってくれ。
俺だって当初はこんな陽キャのためのバイトなんてするつもりもやる気も無かった。だって、ねえ?陰キャだよ?目つき悪いしね俺。
でも、仕方なかったのだ。他のバイトをしようにも保護者から許可がおりなかった。
その時の状況はこうだ。
『バイトします』
『人殺しはバイトじゃない』
おっと、間違えた。
こっちこっち。
『とりあえず、人とあんまり関わらない感じのバイトをしたいと思います』
『社会舐めてんのかクソガキ。ふむ、バイトをするなら条件がある』
『なんでしょう?』
『あいつの従兄が経営する喫茶店がある。確か人手が足りないと言っていた、そこなら許可しよう』
『殺す気ですか?』
『嫌なら、やらなければいい(ニヤリ)』
『………分かりました』
まあ、こんな感じで無理矢理接客業をやらされてる。バイトをやると決めたのは俺だから無理矢理は違うか。
「蓮。料理。運搬。3番」
「了解しました」
単語だけで話しかけてくるのは女性オーナー、
『カフェ・みなづき』
それが、このカフェの名前。由来は六月にオープンしたからと面接のときに言っていたと思う。いや、単語だけだから分かんなかったんだよ。
「目つきの悪いおにーさんちゅうもーん」
「今、お伺いします」
誰が目つきの悪い陰キャだ。事実だから言い返せないけど。客じゃなかったらぶちのめしてるぞ。
「あら、いつも通り目つき悪いわね~。他は文句ないのに」
「生まれつきは直せませんからね、それでおばさん注文は?」
「うーん、今日はミートソースにするわ~」
「かしこまりました」
笑顔で対応し伝票に注文の品を書き取り厨房のオーナーに告げる。
時間は現在18時頃。比較的人がまばらでそこまで忙しくはない。それでも疲れるんだけどね。
さて、皆さんお気づきだと思うが説明させてもらう。本来、前髪と伊達眼鏡で目を隠している俺だがバイト中はそれらは取っ払われているのだ。
理由?
ああ、あるとも。無ければわざわざ目を露出したりしない。目を露出とか意味わかんねぇな。
何でも接客するのにその不衛生な感じと陰キャ感は駄目らしく、前髪を強制的に上げさせられ眼鏡も奪われるのだ。確かにね。髪長い奴が料理とかしてたら、え、まじ?とは思う。だって、見るからに衛生的に問題ある感じがするからね男性の長髪って。てか、なんだ陰キャ感って、貶されてる気しかしない。
しゃーなし、バイトをさせてもらっているのだからそれぐらいは我慢すべき事象だ。
常連さんだから怖がられはしなくなったが、初来店の客は必ずと言っていいほど小さく悲鳴を上げられる。拷問かな?心が痛いんですけど。
カフェ・みなづきはそこそこ有名だ。店内の雰囲気は落ち着いていてそこはかとない隠れ家な感じする。料理も文句なく美味しいし、コーヒーも絶品だ。時間帯によっては途轍もない混みようで給料あげろや、と思わなくもないほど忙しい。
客の割合は6:4ぐらいで女性が多い。客層は十代からお年寄りまででかなりのばらつきを見せている。男性客も4割と多く感じるだろうが目当ては漣さんだ。
単語だけでしゃべる変な人ではあるが、黙っていれば座ってるだけで絵になるほどの美女。年齢は24とまだ十分に若く独身。少し身長は小さいが胸が大きいアンバランスな体つきであるため男性客からのナンパは後を絶たない。店を構えた一城の主であり、作るご飯はとても美味しい。それにその年にしてはかなりの収入を得ているのも魅力の一部ではないだろうか。
だが、俺としては変人という認識しかない。
俺を雇う時点で変人だからな。自分で言ってて悲しくなる。
「蓮。料理」
「はい」
まあ、男除けも兼ねてるのではないかと思っている。男性客の相手は俺がやらされているしな。別にどうでもいいからいいのだが。
厨房は漣さん一人で回しているが、接客関係は流石に一人ではない。
「姉さん遅れました~!」
「即。着替え。蓮。手伝い」
「え!今日蓮君もだったの!?」
「肯定。問。終了。給金。無。命令」
「わ、分かったからバイト代なしはやめてよ!着替えてくるから、蓮君もそれまでホールよろしく!」
「分かりました、
てか、なんでさっきので分かるんだ?ここ最近やっと分かるようになってきたがやはり難しいな漣語は。
そして、海色さんが制服に着替えて戻ってくる。漣さんが背中までの黒髪で、海色さんは肩までの黒髪。先程の会話で分かるとおりこの二人は姉妹で、海色さんは現在大学二年生だったはずだ。遅れた理由は講義が長引いたとかそんなとこだろう。
「よしっ、蓮君今日も頑張ろう!」
「仕事してください」
「せめて挨拶を返してよぅ!」
遅れた分は仕事で返してほしい。いつもより仕事量が多くなったから不満も募るというもの。つまり、仕事しろ。
ぷくぅー、と頬を膨らませて抗議してきたが客から呼ばれるとすぐに向かう。それなりに、仕事は出来るからな。
「蓮君、あっちのお客さんお願い」
「仕事なすりつけるな年上、自分で―――ちっ、分かりました」
「年上って分かってるならもう少し言葉を優しくしてよー!」
俺に優しさなぞありはしない。
男性客の相手は俺がやる。以前、海色さんがやったらこっちにもナンパをされ店に迷惑がかかったから仕方の無い。
まあ、今回の客は柄が悪そうでない一般人っぽい。俺が来たことで少し肩をしょんぼりさせた程度だ。男でごめんね?
「蓮。休憩。まかない」
「あ、分かりました」
30分後にようやく休憩を与えられ、まかないももらえる。うーん、やっぱりバイトするならまかないもらえるとこがいいね。
「姉さんずるい!わたしも休憩欲しい」
「遅刻。価値。無」
「遅刻一回でお前の価値無しとかそこまで言われるとか理不尽なんですけど!」
そこまで言われてたのかあの単語だけで。働くということは理不尽の連続なのか……。夢も希望もない。
控え室に引っ込んで用意されていたサンドイッチを食す。出勤してからずっと動いていたため体が栄養を欲していて、用意されていたサンドイッチをすぐに完食してしまう。うまいから仕方ない。
接客業には慣れてきたが、やはり対人は疲れがたまる。笑うのも表情筋を使うから尚更。これを毎日してる店員さんとか社会人には頭があがらん、仕事頑張ってください。俺は働きたくないです。
「蓮。中断。至急」
え、何。休憩中断して仕事しろ?まじですか。
「はい」
いや、俺ごとき木っ端が断るなんて出来ないんだけどね……。
ホールに出ると先程よりかなり混んでいる。席が全て埋まっているのがその証拠だ。
「れ、蓮く~ん!ヘルプヘルプ!」
「働け」
「もっと優しくしてくれないかなぁ!?」
優しくしたところでメリットがない。つまり、優しくする必要はない。
呼ばれたら走らないがなるべく早く注文を聞き取り、お冷やがないとこには注いだり置いていく。
そして、新たに来店する客の対応も行わなければならない。
チリンチリン、と来店を告げる音が聞こえる。
「いらっしゃいま―――」
「あー!!」
だが、テンプレに満ちたセリフはその客が放つ叫び声で消される。うるせぇな、迷惑なんだが。
「どしたの、りーちゃん」
入ってきたのは女子高生。制服から見るに俺が通ってるとこの生徒だ。
どこか見覚えがある気がする美少女である。どことなく俺に迷惑をかけてくる存在な気がしてならない。例えば、昼休みに無理矢理昼食を一緒にとろうとしてくるとか。そんな感じがする。
「見つけたッ、目つき悪い奴!」
誰が目つき悪いクソ野郎だ、真実でも言っていいことと悪いことがあるんだぞ。
勢いよく詰め寄ってきた美少女に対し、ちょっと脇にそれて足をかける。
結果として。
「ふぎゃっ」
こけて、地面にダイブすることとなった。
「あなたの友人、頭大丈夫ですか?」
「ああいう馬鹿なとこが可愛いんだよねぇ。そう思わない?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます