第4話
「おい、蓮。ちょい面貸せや」
「ぼく、お金持ってないです」
翌日、いつも通り遅くもなく早くもない時間帯に下駄箱にたどり着くと、我が友人の
「目的は金じゃねぇ、わかってるだろ?」
?
この友人は何で言葉にせずとも分かると思ってるのか。人というのは会話をして伝えなければ思いは伝わらないのだぞ。
主語もない言葉だけで理解できるなんてエスパーしかいない。読心術なんてものはまやかしでしかないのだ、多分。
「嘘だろう?忘れてるわけ無いよな、流石に」
「ば、ばっか俺が忘れるなんてあるわけないだろ?」
「不安しかねぇ」
何だろう、まじで分からん。
話し方的に俺がやらかした感じのやつで、早瀬に謝らなければならない謝罪案件ということまでは考えついた。
ここ最近で早瀬に謝らなければならないこと……。
もしやっ。
「すまん、早瀬」
「おっ、やっとわかったか。そうだよ、昨日の―――」
「お前がめちゃくちゃやってEFⅦのデータ上書きしちゃったの俺なんだ……」
「いや、そんなことより昨日の……は?」
「あ?昨日のこと?」
あれ、怒らせたといったらデータ上書きじゃねぇの?昨日のことってなんかあったか。
腐りし壁ドーンの状況から胸倉を掴まれ更に顔面が近くなる。やめろ、これ以上腐った人たちに対するネタを提供するじゃあない。
「おま、俺があんなに頑張ったENDFANTASYⅦのデータを消しただと!?」
「そうだよ」
「ふざけんじゃねぇぞ、クソ野郎!消したの妹だと思って説教しちゃったじゃねえか!」
「うわぁ、冤罪で怒られるとか妹さんか可哀想だね」
「お前のせいだよ。なに、あの時間無駄だったの?あれのせいで妹からゴミを見る目を
向けられ始めて悲しいのに!?」
「痴漢してないのに無理矢理痴漢に仕立て上げられたサラリーマンみたいだな妹さん」
男女平等なんて虚飾に塗れているからね。今なんて女性優位の社会だ。触れたらセクハラ、彼氏いるかどうか聞いてもセクハラ、視線を向けたらセクハラ。もうセクハラのオンパレード。男性に人権が無くなってきてるといっても過言ではないね。だから、女性と触れ合う事ができない男が増えて少子化になってるのではないかと思う。声をかけるだけでセクハラなら男なんて何も出来ねぇよ。
「蓮、今日俺んち寄って妹に謝れ」
何言ってんだこいつ。
「俺は悪くない。つまり謝る必要もうない」
「清々しほどのクソ野郎でけっこう。でも原因の一端を担っているんだからとりあえずこい」
「えー、帰って努力値振りしないといけないんですけどー。それに俺、妹さん嫌われてるし」
「どうせ学校に持ってきてんだろ。なら帰らずそのまま来れるだろうが。嫌ってるのはまあ置いといて」
なんか変に嫌われてるんだよな。顔を合わせるとキッの睨み付けられてしまう。照れ隠しと思えないレベル。恐い。
「ふ、寄る必要が無いのに俺が行くとでも―――」
「来たら、新規育成の試しを」
「何をやっている早瀬、学校なんて速攻で終わらすぞ!!」
「チョロい」
やはり、使ってみないと分からないことは多々ある。それの生贄となってくれるならいくらでも行こうぞ!
「て、違う違う。本題はそっちじゃねぇ、昨日のことだ」
「さっきから昨日のこととかほざいているけど、なんかあったの?」
「お前が俺を見捨てんだろうが!」
いや、別に見捨てたわけではなく、あれは戦略的撤退というやつです。未だに、何が戦略的だったのかは分からないものであるが。
「お前が見捨てたせいで教師に事情聴取されたわ」
うわぁ、事情聴取受けるとか潜在的な犯罪者。サイコパス野郎だなこいつ。黒い鉄格子の中で生まれてきたのかな。
教師に連行された件で俺が関わっているやつか。放課後のことか。
「あれか、柄悪と美少女が睦み合ってたやつか」
「お前の頭の中変換機能クソ雑魚かよ。完全に嫌がってたやつだろ」
「そういうプレイじゃねえの?」
「それを引っ掻き回したの蓮なんですけど!?」
失敬な。
俺が面倒くさい状況を引っ掻き回すなんてことするわけないだろ。そもそも、関わろうとも思わないね。
「で、だ」
そもそも、文句言うだけならわざわざこんなとこで呼び止めなくてもいい気がする。
「本題は?」
「チッ、結果報告だよ」
「どうせ柄悪が退学か停学のどっちかだろ?」
「一ヶ月の停学処分、初犯だからだってな」
「ゲロ甘処分じゃねぇか。なに、親が偉い人なの?」
「さあな、とにかく一ヶ月は会わなくてすむっぽい」
加害者はズルい。被害者に癒えない傷を与えたかもしれないのに、たかだか一ヶ月の停学処分で済まされるのだ。美少女からしたらたまったものではないね。
「ま、俺には関係ないか」
「いや、どこから見てそう思えるの?滅茶苦茶関係者だよ」
何言ってんだ、俺なんてほぼ無関係だろ。
確かに、いつの間にか絡まれてて転ばせてたけど所詮その程度だ。恨まれるとしても筋違いも甚だしい。そんな状況を作り出した自分を恨むべきだ。
「教師が探してる」
「名前出したのか?」
「知らぬ存ぜぬを通したさ、面倒くさいのやだろ?」
「助かる」
俺も事情聴取なんて勘弁。職質は仕方ないとしても事情聴取なんて一生で受けるなんてことしたくないしね。陰キャまるだしの俺は職質されない方が不思議なのです。
「ただ、まあ仕方ないこともあった」
「仕方のないこと?」
教師に俺の名前を出していないが、仕方のないことなんてあるのか?
検討もつかないが、早瀬が必要だと思ったことなのだろう。それなら別に問題は無いと思う。
中身は気になるけど。
「ふーん、まあいいよ。とりあえず行こうぜ、いい加減よく分からんヤバい目をした女子たちに餌を与えることはしたくない」
まじで陰にいすぎ。ニヤニヤと笑い、恍惚とし表情で見つめられると恐怖を覚える。絶対、腐った人たちだろ。
「聞かないのか?」
「早瀬が必要だと判断したんだろ?なら、俺にとって害は無いだろ」
「お前ってやつは、ほんとそういうとこだぞ……」
まあ、そういうことで教室に辿り着く。他愛のない話を早瀬としながらドアを潜ると、それぞれの席に荷物を置く。早瀬はクラスの連中に挨拶を交わす中、俺はすぐさま鞄から携帯ゲーム機を取り出してゲームを始めた。
まあ、育成期間だから経験値あさりとかで作業ゲーに近いけれど。
早瀬が俺の前の席に座り、話しかけてきた。日課の挨拶回りは終わったらしい。なにこいつ番長だったの?
「あっ」
「?」
ゲーム機から目線を逸らさないでやっていたら、早瀬が急に何かに気づいた声を上げた。
足音が近づいてきて俺の隣で止まる。早瀬が座った席の人でも来たのか。
「あの、
名前を呼ばれ、ちょうどきりがよかったので顔を上げると、そこには正直ビビるほどの美少女が立っていた。
肩まで伸びた明るめの黒髪をおろし、特徴的な一房の長めの三つ編みが頭部の脇から垂れている。全体的に華奢な体は強く抱きしめれば折れてしまいそうで、幻想的な感覚を与えてくる。シルクのように滑らかで白い肌は汚れを知らない百合のよう。
十人が十人美少女だと言うであろう、彼女はなぜか陰キャである俺に声をかけてきた。
ただ、正直な話。
「誰だこいつ?」
「―――え?」
「……はぁ」
予想通りの反応という感じで早瀬が溜息をついたのが聞こえた。
んだよ、なんか文句あるのかよ。
これが、今から始まる物語の序章の序章。ラブコメで例えると主人公とヒロインがやっと出会ったシーンだということをこの場にいる人は誰も知らない。
「こんな感じにまとめとけばいいかな?」
「ほんと発言に気をつけろよ蓮……」
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