第15話 イラクへの路 4

「あら、遅かったじゃない」


 K1の敷地に並ぶ建物郡の中で、もっとも強固な鉄筋コンクリートの二階建て。並み居る同業他社や、イラク政府軍、再展開で忙しい米軍を差し置き、G&Mはそこに居を構えていた。


 その二回にある、地域マネージャーのオフィスでクロードらを出迎えたセシリアは、優雅にコーヒーを片手に、微笑みと共にそう告げた。


「俺らは干からびそうになってたって言うのに」


 空調の効いた部屋に荷物を転がし、ウィリアムが小さく恨み言をこぼす。セシリアは紫の瞳をほんのわずかに彼へと向けて、


「私の責任ではないわ。そちらとしてはたまったものじゃないでしょうけど」


 あっさりとそう切り捨てられては、ウィリアムも何も言い返せない。汗でぐっしょりぬれたシャツが冷房で冷えていく不快感を飲み込み、いつも通りの“魔女”の態度に、クロードは肩をすくめるにとどまった。


「二人とも、良く来てくれた」


 セシリアの対面で大きなマグカップを手にした男が言った。軍人風のクールカット、良く日に焼けた肌、鍛えられた身体はいかにも退役軍人で、現役時代が忘れがたいといった様子。唯一半分ほど白くなりかけの髪が、当人の年齢相応の要素といえた。背もたれにゆったりと身体を預け、こちらを観察するような眼差しは、長く軍で経験を積んだ将校のものだ。


「失礼ですが、あなたは」

「ハリソン・リッチモンド。北部地域マネージャーよ、ここの責任者」


 クロードの問いに答えたのはセシリアだった。ハリソンの物とくらべて随分と小さく華奢なコーヒーカップをソーサーに置き、彼女は椅子を回転させてこちらへと向き直る。と、彼女は手で、オフィスに並んだソファにそれぞれ腰掛けるように示した。


 どちらがこの部屋の主だかわからんなとウィリアムが言う。ハリソンは気にした様子もなく、君たちも座りなさいと、すぐ後ろ、ドアの脇で待機していたアネットとクルトにも着席を促した。クロードが知る限り、セシリアが誰かの下につくような態度を取ったためしがない。それが許される程度には、その力量を認められているということなのだろう。


「それで、僕らが呼ばれた目的について説明していただけますか」


 席に着くなりクロードは切り出した。ハリソンはそれを尻目に、ゆっくりとコーヒーを楽しみ、それからデスクの引き出しを開け、葉巻を取り出した。穂先をあぶり、ゆっくりと香りを楽しんだ彼が話の用意を整えるのを待つ。こういう男、とくに位の高い将校上がりというのは、時として自分の順序というものを持つ。それを邪魔するのは得策ではない。


「ビラは見たかね」


 ようやく一息ついたらしいハリソンは、指に葉巻を挟んだまま、デスクのフォルダから一枚の紙を取り出した。機内でセシリアが見せたものと同じ、復讐者の宣言入りのビラ。


「一一年前にも見ました」

「そのときに撃ったのは君だった、そうだな?」


 ハリソンが問うた。クロードが頷くと、背後でクルトが何事か、感嘆の声を上げるのが聞こえた。初耳のウィリアムは、肩眉をそっと持ち上げるだけで沈黙を保っている。


「君はまだ二七歳の中尉だった。海兵隊の特殊作戦司令部第1分遣隊DET-1所属、偵察狙撃チーム指揮官。800メートル以上の距離で、復讐者を撃った」

「良くご存知ですね」

「私もそこにいたのだよ。当時は陸軍で、特殊部隊スペシャルフォースの指揮官をやってた。当時、対処できる狙撃チームを要請したのが私だった」

「殺したと思っていました」

「だろうね。死体はなかったが、それはままあること。私も殺したと思っていた」


 だがやつはよみがえった、と。ハリソンはそう続けて、デスクの上に置いたビラを引っ込める。クロードが足を組み、左手であごをなぞりつつ思案する。と、いつの間にかコーヒーを淹れていたらしいセシリアが、横からマグカップを差し出した。それを受け取ると、ウィリアムと、背後で話を聞いている二人にも同じようにコーヒーが渡される。


「別人の可能性は。当時やつは北部では名うてでした。あの頃を知るどこかの誰かが、名を奪っても不思議ではない」

「ないな、恐らくは」

「根拠は」


 これだ、とハリソンが差し出したのは、つぶれた銃弾と薬莢。デスクの上に転がるそれを拾い上げ、指先でもてあそぶ。先端がゆがんでいるものの、完全覆甲弾FMJのボートテイル部分はしっかりと形状を残していて、.308よりも長く、そしてわずかに太いように感じられた。


 次いで薬莢を手にすると、それもまた胴の部分が太いようだった。薬莢の底には刻印が彫られている。8ミリマウザー8×57IS、狩猟文化が盛んな先進国なら兎角、昨今、この地域では中々見かけない弾丸だ。


「11年前、死体を捜しに行った陸軍の連中も同じものを見つけている。マウザーは、ここらではそう見かけない銃だ」


 ハリソンは忌々しげに口端に薄い笑みを浮かべ、小さく鼻を鳴らす。


「やつだよ、生きていた。11年もどこかに身を潜めてな」

「何故いまさら」

「それは私も気になるがね。空白の秘密よりも、やつの排除だ。そのために君を借りてきた、彼女に頼み込んでな」

「お陰で頭が上がらないと」


 ウィリアムがそう口を開いた。ハリソンは、遺憾ながらとばかりに肩をすくめて見せる。セシリアは出番がくるまでは我関せずの態度で、何杯目かのコーヒーを啜っている。クロードはいつもの調子に合わせて無言だが、後ろでアネットとクルトが物怖じしないウィリアムの問いに息を呑むのが分かる。


「最高のカードを切ってくれと頼み込んだ。君がそのカードだ、クロード」

「それはどうも。それで、情報はありますか」 

「ここに」


 ハリソンが分厚いファイルを投げてよこす。丁寧に機密の印が押されたそれの中身は、直近の復讐者による狙撃被害者のリストだ。ざっと目を通す間に、他にも必要な資料があれば申請しろとハリソンが続ける。


「次に、アネットとクルトと組む事になっているそうですが、狙撃過程経験者は」

「いない」きっぱりとした口調でハリソンが言った「君のような、教育を受けた射手は」


 俺とお前だけか、とウィリアムが言う。クロードは当人らの前で気落ちしてみせる訳に行かず、そうですかと返した。


「だが、クルトは分隊射手の経験がある。アネットは、専門の教育課程こそ出ていないが、腕前は確かだ。私が保証しよう」

「はぁ、そうですか」


 射手としての腕前は射撃能力如何によってのみ判断されるものではない、と口にしかけて、やめた。この男が狙撃手というものを理解しているかは不明だったが、セシリアが口を出さないということは、何かしらの思惑が存在するのだろう。


 あとでクルトとアネットの技量を確かめるだけの時間的余裕があるだろうか。そう考えつつ、クロードは肝心の質問を投げた。


「僕が使う銃は」

「ここにあるわ」


 セシリアがカップをデスクに置き、そこに立てかけてあったガンケースを引き寄せた。砂色のナイロン地、角が擦り切れて、あちこちにオイル汚れが散っている。見覚えのあるガンケースだ。クロードが実家においてきた、長く使っている愛用のケース。


「僕のじゃないか」

「ええ、あなたのライフルをこちらへ空輸するのは大変だったわ。おかげで護衛をつれて受け取りに行く羽目になったのよ」


 確認して、と差し出されたそれを受け取る。ジッパーをあけ、中身を引きずり出すと、馴染み深いライフルが出てきた。


 樹脂製のサムホールストックは、地のオリーブドラブの上から明るい砂色のスプレーを塗りたくってある。親指を通す穴がついた、直線の目立つそれは、知らぬ人間が見ればかつて英軍が採用していたL96A1や、今も採用されているL115の系譜に見えるのだろうが、その中身は使い慣れたレミントン700が収まっている。


 AIの生産するAWシリーズのシャーシに、レミントンの機関部をまるっと収めるコンバージョンキット、AICSだった。


 マクミランのストックと同じく、気温に左右され辛い樹脂製の外装、中には金属の頑丈なシャーシ。当然、銃身はフレームに接触しないで保持されている。高温環境だろうと、多湿だろうと、あるいは身も凍る極寒の地だろうと、このフレームは精度に悪影響を及ぼさない。


 米軍のMk13が折りたたみフレームのAICSだが、クロードが私物として保有するこれは、あいにくと口径の小さい.308だ。


 もちろん、最も使い慣れている弾薬の一つであるから、不服というほどでもないが、もう少しパワーのある弾薬のほうが喜ばしいというのが本音だ。


 ボルトを引き抜き、押し戻す。細かい確認は射場で行うよりない。上に乗せたナイトフォースのスコープを確かめると、クロードはライフルをケースに戻した。


「観測に必要なあれこれ、こいつの弾道データ、三脚、風速計、そういったものももってきてくれたのかい」

「当然、全部持ってきたわ」


 返送するときは私が責任を持って送り返すわ、と言いつつセシリアが生地の厚いバッグを取り出す。中身はクロードがしっかり仕分けたときのままだろう。スポッティングスコープ、弾道データのカード、風速計、距離測定器、鞄の外には狙撃用の三脚がくくりつけてある。


「後で中身を確かめる。それと、資料、これは持ち出して大丈夫ですか」


 ハリソンから受け取った分厚いファイルを持ち上げて問いかける。ハリソンは鷹揚に頷き、コーヒーを自分のマグに追加しながら、


「そっちはコピーだ。原本はこっちにある。勿論、欠損なくあとで返却するように」

「分かりました。後は僕らの扱いです。アネットとクルトはお借りするとして、どこまでの行動が許されているのか、作戦地域、射撃管制、友軍の配置、僕ら以外に対処を行うチームがあるのか、他にももろもろ」

「それはあとで連絡する。まずは荷解き、部屋の割り当てはクルトに聞け。基地内を案内してもらって、明日から働いてもらう。明朝0700に出頭するよう。以上」


 行っていいぞとハリソンが手をひらりと振った。クロードとウィリアムは立ち上がって一例し、セシリアが運んできた荷物を持ち上げる。ガンケースをクロード、もろもろを収めたバッグをウィリアムが持ち、ここまで引きずってきた荷物を担ぎ上げる。大きすぎるバックパックに追加の荷物、ウィリアムが隣で文句を垂れるのが聞こえた。


「そういえば」


 ハリソンのオフィスを出て、先頭のクルトに案内されて部屋へ向かう。背後でアネットとセシリアが自己紹介と世間話に興じる中、クルトがふと思い立ったように声をあげた。


「クロードさんは、前哨狙撃兵0317なんですよね」


 クルトが問うた。軍事特技区分MOSの割り振りで、0317は前哨狙撃手を指し示す。クロードはそうだよと頷いて、それがどうかしたかいと、顔をこちらに向けたクルトに重ねた。


「いえ、前哨狙撃兵0317って、上等兵から上級曹長までのMOSだったような、って」


 違いましたっけ、と首を傾げるクルト。それで合っているよ、とクロードが頷くと、ですよねと納得したように笑い、それから怪訝に首を傾げる。


「でも、クロードさんの最終階級は」

「少佐、だったよな。そもそも下士官だった経験もない」


 横からウィリアムが首を突っ込んでくる。そこが不思議だったんだよ、とでも言いたげな興味津々の様子。そもそも、聞かれもしない限り自分のことを語らぬクロード、こういう機会でもなければ分からないことだらけだからだろうが。


「そもそも、海兵隊において、どころか、あまねく地上の全軍歩兵の中で、狙撃手というのは浮いている兵科なんだよ」


 最低で分隊規模の部隊を編成して活動する一般の歩兵と違い、狙撃手というのは二人一組を機軸とする特異なユニットだ。当然、それは狙撃手という存在の持つ性格に依存するものだ。友軍から離れて敵地に深く潜行、必要であれば標的を遠距離からしとめ、見つからぬうちに撤収するという、少数精鋭ならではの特性。


 当然、一般の歩兵からの理解は薄いといっていい。人によっては卑怯者と見なすこともある。正面切って火力を投げ合うのではなく、遠距離から先手必勝にして一撃必殺の銃弾を送り込むその行為を、卑怯と見なすのはクロードからしても分からないではない。昔から、シネマの屈強な兵士というものは、常に正面切っての戦いを好むものだ。


 とはいえ、それは下士官同士の間でのみ存在する考え方ではなかった。たたき上げの歩兵将校に、狙撃手というものを理解するのは難しい。それは狙撃手の任務の性質というだけではなく、狙撃手個々人がもつ性格も含まれる。


 元から、支援の得られない状況で作戦を遂行する狙撃手は、より大きな上部組織に対しての帰属心が薄いといわれている。また、作戦遂行上不要と個人が判断した詳細な状況報告を意図的に省くものもいるし、本部の正確な判断が届かない地域での活動が常である以上、上官の庇護が得られぬがゆえに独断専行に走るものも少なくはない。


 そういった独立心の強い気質を、反抗的と見なして毛嫌いする将校は昔から少なくない。


 当然それでは、狙撃手を充分に活用できるとは言いがたい。狙撃手に出来ること、出来ないこと、向いていること、向いていないこと。それらを理解し、また狙撃手の性格をしっかりと把握している将校の存在が必要なのではないか、と考える者が現れたのは、無理からぬことといえる。


 そういうわけで、クロードは試験的に“将校にして狙撃手”という新たな役職を育てるためのプロジェクトに引き抜かれた。もとい、推薦された。当然、それは名うての射手であった祖父の影響が大きい。


 選ばれたのは十数名の将校で、歩兵将校としての経験が豊富なものと、まだ軍組織の縦割りに芯まで染まりきらぬ若手の半々。選抜過程で半分以上が脱落し、最終的に残った数名のうち一人がクロードだった。


 結局、将校に狙撃手の管理運用をより専門的に求める、というのは一個人に要求されるレベルと負担が余りに大きくなりすぎ、効率が落ちると判断されプログラムの正規運用は中止となったわけだが。


 クロードはその時代からの生き残りで、歩兵将校にして狙撃手という、本来存在しない二束のわらじを未だに続けている化石といえた。


「なるほど、そういうわけで」


 説明を終えるころには、クロードたちはオフィスビルを出て簡素だが頑丈なプレハブの立ち並ぶ一帯にたどり着いていた。二〇年近くも前の話を終え、自分の微妙な立ち位置のあらましを久々に掘り起こしたクロードは、教育を終えて始めて降り立った任地、アフリカを思い出した。


 高温多湿の雨林、湿った土の匂い、夜露の中で鳴く虫の気配、それらの記憶の先にあるのは、最初の射撃。地雷原を超えた少年兵の胸に集まった意識、正確無比な射撃、血しぶき、くずおれる細い身体。


 気分のいいものではない。自分の人生の半分近くは、そういう記憶で成り立っている。昔話を好かない理由はその一点に尽きる。誰だって、殺したか殺されたかの記憶をいちいち掘り起こしたくはない。


 大勢を撃った。男も女も、子供も老人も。そして今もまた、どこの誰とも知らぬ、かつて殺したはずの相手を殺すために、ここに立っている。


 クルトに案内された三人用のプレハブのドアを開ける。先客はいないらしく、しばらくは二人きりという話だった。玄関に荷物をまるっと転がし、そこでふと思いつく。


「セシリア、君はどうするんだい」


 クロードが振り返ると、ずっと後ろでアネットと話し込んでいたセシリアは、いまさらここからどこに帰るというのかしらと首をかしげた。時刻は既に夕刻に近づきつつある。


「ここに一つ部屋を借りることになったの。さいわい、女性職員は一人一部屋らしいから、防犯上」


 戦地で防犯とはなんとも奇妙な、などとウィリアムが笑う。たしかにと釣られて笑ったクルトはさておき、クロードはなるほどと頷いて、


「護衛無しで大丈夫なのかい」

「私の護衛はあなたよ、クロード。それにウィリアムも」

「信頼してくれるのは嬉しいけれど、僕らはしばらくこっちの仕事で手一杯だ」

「どうしようもないときは護衛を呼ぶわ」


 クロードの返しに、遮光グラスの上から紫の視線を投げ、かすかな笑みと共にセシリアは答えた。実際、彼女の手元にそれなりの数の精鋭上がりが手駒として転がっているのは確かだ。実際、クロードやウィリアムが、彼女の護衛に当たったことなどほとんどない。よほど少数で仕事をしなければならない場合は別として、だが。


 魔女と呼ばれる女がもっとも信頼する手札、よほどのことでなければ呼び出されないからこその切り札ということだろう。


「それじゃ、また後で。夕食の時間に会いましょう? アネット、案内お願いできるわね」

「ええ、行きましょう。それじゃ、三人とも。また後で」


 女性は女性同士というわけで、手荷物を提げたセシリアを連れてアネットが立ち去る。というものの、クロードたちのプレハブは男性用舎のはずれ。お隣は女性向けかゲスト用のエリアですねというクルトの説明が終わらぬうちに、セシリアはほとんど隣といいって言いプレハブの中に消える。


「じゃ、男連中は男連中で、仲良くやるとしましょうや」


 ウィリアムが言って、プレハブへと上がる。クロードとクルトもそれに続き、荷解きが始まった。


 バックパックから衣類を取り出し、小さな個人コンパートメントにすえつけられたロッカーにそれらを押し込む。防弾装備はすぐ取り出せるように寝床の脇、自分のライフルはロッカー、拳銃はベッドサイド。


 窓は小さく、プレハブの天井には蛍光灯が取り付けられていたが、点灯は夜間のみ。日中は節電を兼ね、洗剤を混ぜた水の入ったペットボトルが天井に突き刺さっている。

 

 こうすれば外の光を取り込み、中で反射させて部屋に明かりを広げることが出来る。アフガニスタンで同じものを見たことがあった。夜間に時たま送り込まれる迫撃砲を警戒してか窓が小さいため、こうでもしなければ日中は明かりに困る。電力が不安定な状況では、これが最善策ということだろう。


 荷解きを終えると、ロッカーには各種ウェア、ライフルが押し込まれ、寝床というよりは武器庫の様相を呈している。クルドは押し込まれたライフルのパーツを興味深げに見つつ、すごい量ですねと呆れ半分でぼやいた。


「仕事道具、これでも絞った方なんだよ」

「レーザーモジュールまでついてるし、これって警備用の銃ですか、本当に」

「ノーコメント。僕らの今回の仕事で察してほしい」


 クロードの返しに、そういえばそうですねと苦笑する。普通の保安職員は、そもそも人狩りを命じられたりはしない。それに、彼は言及こそしないものの、北部マネージャーよりも上の立場をちらつかせるセシリアの背後に、何かしらの政府機関の存在を感じ取っていることだろう。


 簡単な仕切りでプライベートを確保するプレハブ内、クロードは鞄の底にしまいこんでいる、厚手の皮手帳を取り出す。もう随分と長く使い続けているそれは、分厚い表紙の皮が擦れて、随分とあせた色合いになっている。

 

 中身は、ここ一〇年の仕事の記録だ。日記として売り出されたものだが、クロードはもっぱら、自分の行ったこと、見たものを記録するために使っていた。当然、機密に触れない程度の内容ではあるが。


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