罪悪感?
−− 流石に疲れた…。
台風により発生した、倉庫の雨漏りから2週間、真希は文字通り、馬車馬のよう(大袈裟)に働いた。まず、別の倉庫を探し、手配した。
今後納品される製品、資材などの配送先を新しい倉庫に変更する
手続きを営業アシスタントが行い、そのリストを受け取り、
誤りや漏れがないかをチェックする作業を引き受けた。問題の倉庫に
ある製品や資材を先に出荷する物は出荷し、移動する物は移動した。
加えて、倉庫会社と契約の解約、保障について話し合い、損失に対しての保険適用を確認し、書類作成、稟議を通すなど諸処の対応に
奔走した。
−− あぁ、eauに行きたい。ママさんのお料理食べたい。
この間eauに足を向けていない。一般職の真希と営業アシスタントは、基本残業はない。しかし今回は、緊急対応ということで、19時までの残業を部長から指示され業務に当たっていた。
18時50分、真希と営業アシスタントの木村琴音は、作業にキリを付けて後片付けを始めていた。
「なんとなく、終わりが見えてきたような気がするけど?」
と真希が言うと、琴音も
「はい、国内から発送される荷物で、納品先が雨漏りがあった倉庫だった物は全部新倉庫への振り替え指定は終わりましたから、後は、海外から届く物のチェックになるので、作業量は半分以下になると思います。」
「なら、今週中には終息しそうね。」
「はい、高木さんも済みません。これって、営業部の仕事なのに。」
「仕方ないわよ、相手は、台風だもん。」
2人は、大量に出力されたチェックリストを裁いていたが、琴音が
ため息をつきながらいった。
「それにしても、こういうチェックって紙に出力してやることになるから、手がガサガサです。」
「紙って、手から水分奪っていくよねぇ。木村さん、よかったらこれ
使ってみる?」
真希は制服のポケットから小さなチューブ入りのハンドクリームを
取り出して、琴音に渡した。
「あっこれ、総務部のフロアの女子トイレに置いてあるのと同じものですよね。一度、トイレを借りた時、使わせてもらったんです。
すっごくよかった。べたつかないし、そのわりに持ちがいいし、無香料でよけいな香りもしないし…。」
「あら、気に入ってもらえた?」
「ええ、あれ高木さんが?」
「うん、旅行のお土産の代わりにおいてみたの。日本酒の酵母から
できてるのよ。肌に合ったようなら、これ使ってみて。」
「ありがとうございます。本当にあれ、使った後調子よかったんです。
その後手を洗うのが惜しくなるぐらい。いただけるなら、遠慮無く
いただきます。」
「どうぞ、どうぞ。」
真希は、琴音にハンドクリームを渡した。
「うれしい。着替えたらすぐに使います。」
2人は、PCの電源を落すと、琴音は更衣室に、真希は、総務部の
フロアにそれぞれ向かった。
総務部のフロアには、課長の安藤がまだ残っていた。真希は、お疲れ様ですと声を掛け自席に向かう。机上には、急ぎの書類と伝言メモが
いくつか残されていた。メモも、書類も、明日処理すればいいようなので、朝一営業部に向かう前に片付けることにして帰ることにした。安藤に、帰りの挨拶をすると、
「営業からは、今週中には大体終息し、予備として1週間みていると
いってきたが、そうなのか?」
と進捗を聞かれた。真希がその通りだと答えると、
「市川が、お前にこの件の処理で負担を掛けているのをものすごく気にしていた。本来なら直接労うべきだが奴も対応に追われていて
中々伝えられないと言っていたぞ。」
「そうですか。でも、市川さんのせいではないし、誰かがやらなければ
ならないことです。そんなに負担には思っていません。」
真希が答えると、安藤は、
「実は、俺もそういった。だが何かよくわからないが、お前の、プライベートの楽しみを阻害してしまっているとか何とか言っていたぞ。」
真希は、eauのことだとすぐに気が付いたが、惚けていった。
「なんでしょう。きっと、市川さん気を遣いすぎているんですよ。
他部署の私が手伝っているから。」
「そうかも知れんが、機会があったらお前からも伝えてやってくれ。あいつ、かなり疲れているからな。」
わかりましたと、安藤に言って真希はフロアを後にした。
ーー 連絡した方がいいかな
電車の中でスマホをみながら真希は考えた。社用連絡先も、プライベートの連絡先も貰っている。
ーー でもなんといって? 気にしていませんっていうの?
それも、唐突すぎるような気がした。真希は、社命で作業しているのだ。市川個人に頼まれたわけではない。今度会った時でいいだろうと
スマホをバッグにしまった。
台風被害対応は、真希と琴音が予想したとおり、週末には大体の
作業が終了し、その後1週間様子を見たのち完全に終了した。
ブルー 花野屋いろは @hananoya_iroha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ブルーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。