第40話・最盛期

球体の中心部に酸素ができはじめても、巨大天体はまだまだ燃え尽きる気配がない。

むしろ、もっとさかんに核融合をしたがっているかのようだ。

燃料がふんだんにあるから、余裕の態度なんだ。

なにしろ、質量は前回の十倍もある。

だけどちょっと心配なことに、この天体ときたら盛大に燃えすぎて、十倍どころか、数百倍・・・いや、数千倍もの明るさを放っている。

エネルギーの放出過多で、外層の太り方もすさまじい。

調子にのって、浪費のしすぎなんじゃないだろうか。

なのに自分の巨体に自信があるのか、まるで遠慮なしに熱くたぎりまくっている。

水素原子核の層で活発な核融合を行い、ヘリウム原子核をつくっては、奥へと送り込む。

ヘリウム原子核の層でもじゃんじゃんと結合を促し、天体のさらに深部にある炭素・酸素原子核の層を充実させる。

巨大天体はこうしてどんどんと重い原子核をつくり、へそのあたりにため込んでいく。

ため込めばため込むほど、中心部の密度は高まり、万有引力のパワーが上がる。

この強烈な引力源がまた、各種原子核を内へ内へと呼び込み、せめぎ合いをおし進めることになる。

天体の芯はものすごい圧力に締めあげられ、原子核たちにさらなる働きを要求する。

尻を叩かれた原子核たちは、身を焦がさんばかりの苦役をつづけざるをえない。

天体の芯の温度は、3億度!

密度ももう限界。

原子核たちはもみくちゃの大騒ぎの中、入れ替わり立ち替わりに核融合を起こす。

生成されるエネルギーは、超インフレ状態だ。


酸素16(16人のユニット。陽子が8人&中性子が8人)の原子核内にもぐり込んだヨウシくんは、これまでに経験したことのない圧迫感を味わっている。

全身全力で立ち働いていないと、重くのしかかってくる天井に押しつぶされそうだ。

この巨大天体の崩壊を支えるには、みんなで寄ってたかってぶつかり合って、核融合を間断なく連発し、エネルギーをガンガン放出しつづけるしかない。

そうして膨張力をつくり、外側からの収縮圧力に対抗するんだ。

だけど、前回の天体と比較して十倍もある大質量は、相当に手強い。

ヨウシくんが今いる芯部の空間は、すでにおそろしくせばまってきている。

その中に、いろんな原子核がギュウギュウに押し込められているんだ。

熱くて、せまくて、誰も彼もが半狂乱状態で飛び交うものだから、ぶつかって、爆発して、またぶつかって、爆発して、またまたぶつかって、爆発して・・・目がまわるほどの忙しさだ。

そんな喧噪の中、あろうことか、どさくさにまぎれた泥棒が悪事を働きだした。

ニュートリノだ。

原子核たちが核融合に身を焼いてせっかくつくったエネルギーを、ひょいひょいとくすね盗っていく。

おいおい、なにしてんだよっ・・・!

どやしつけようとしたヨウシくんは、ふと事態に気づき、立ちすくんだ。

いつの間にか、そんなニュートリノが大量に発生しているではないか。

そして、エネルギーをふところにかかえては、逃げ去っていく。

まるで火事場の暴動だ。

大混乱に乗じて押し寄せ、なにもかもをかっさらっていく、あの集団万引き行為とそっくりの画づらなんだ。

しかもニュートリノは、光か?ってくらいの逃げ足の速さだから、とっ捕まえることもできない。

これでは、エネルギーをつくってもつくっても、やがて追いつかなくなる。

なにしろ、盗っ人野郎が、できたてほやほやを持っていっちゃうんだから。

穴のあいたオケに、必死で水を満たそうとしているようなものだ。

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