第39話・巨大天体
宇宙空間を漂っていたガス天体は、各種分子たちを集中させて密度を上げ、たちまち星としての体裁を整えた。
さらに中心部で、どんどんパチパチと豪勢な核融合をはじめる。
巨大な太陽型天体の出現だ。
ここで、この天体の外観と構造を見てみよう。
先に生涯を送ったファースト・スターと比べたら、とてつもなく大きい。
しかも、ものすごいさかり様だ。
そのみなぎり方はハンパじゃなく、広い宇宙でもひときわまぶしく輝きわたり、灼熱の炎を乱費して惜しむことを知らない。
景気よくじゃんじゃん燃えて、じゃんじゃん放出。
その男っぷりは、見上げたものだ。
中心部の炉のたぎり方もすごい。
燃料となる水素原子核たちの意欲も、沸騰している。
飛び交い、からだをぶつけ合い、核融合で身を削ってエネルギーを放出し、新たな姿に生まれ変わっては、さらなる段階を目指して相手を求めつづける。
原子核は、まさに雪だるま式にバージョンアップを果たしていく。
なにしろ、前回の天体と比べて十倍もの水素たちが集まっているんだ。
中心部の押し合いへし合いときたら、浅草の三社祭をしのぐほどだ。
圧力がそんなだから、熱の上がり方もすごい。
数千万度から、一気に1億度というところまで発熱が進む。
この温度帯では、ヘリウム原子核三つが、かっこよく核融合だ。
トリプルアルファ反応!
炭素原子核ができ、さらに、たちまち酸素原子核までが生成される。
ここでエネルギーが尽きる・・・かと思いきや、ここからが前回とは違う。
まだまだたっぷりと燃料があるからだ。
高温も高圧も申し分ない。
まだまだ先にいけそうだ。
天体の内部には、軽い物質から重い物質への幾重もの層ができていく。
最外殻に集結した水素分子に取り巻かれる形で、プラズマ状態に煮えたぎる水素原子核の層があり、その内側にヘリウム原子核の小さなコアが生まれ、さらにその芯の一点に、炭素・酸素原子核の胚がふくらみつつある。
内側のそのまた内側へと、新しく重い原子核ができていく「キャベツ」構造だ。
さて、内側に新しい物質が生み落とされてみっしりと締まっていく一方で、外側の様子はどうか?
キャベツの外側の葉っぱは、身が熟すにしたがってだらしなく開き、やがて朽ち枯れていくよね。
同様に、天体の最外殻の層もまた、成熟とともにぐずぐずに開き、本体から剥離していく。
あまりにも激しい中心部の核融合活動で、天体からはおびただしいエネルギーが放射されつづける。
そのせいで、密度の薄い表層の原子たちは、天体本体にしがみついていられないんだ。
かといって宇宙空間に吹き飛ばされるわけでもなく、強大な万有引力に拘束されて、ワタ菓子のようにゆるく心細くとどまりつづける。
結果、中心部が密度を上げる一方で、天体の輪郭はくずれ、全体がぼんやりとふくらんでいく。
こうして巨大天体は、超巨大天体へと姿を変えていく。
質量は前回の十倍ぽっちなのに、直径はなんと何百倍という、とてつもないスケールになるんだ。
赤色「超」巨星という天体が出現しつつある。
そんな状況などつゆ知らず、ヨウシくんは無我夢中で、他の原子核たちと格闘していた。
好奇心を抑えきれない。
前回は誰ともつるまず、徒党も組まず、一匹狼の身で、すべての経過を外からながめつづけた。
だけど今度ばかりは、内側から事態の推移を見てみたい。
ヨウシくんは、気合い満々だ。
ぼくも飛び込むぞ!
当事者になって、奇跡をこの身で体験するんだ・・・
そんな一心だ。
プラズマの層でデンシちゃんと別れたヨウシくんは、振り返ることもなく、突き進む。
天体の奥から放出される逆風のようなエネルギーに逆らい、ひとりで泳いで、泳いで、ついに超高温、超高密度地帯にまでたどり着いた。
たまたま隣に寄ってきた陽子のタマタマを蹴飛ばし、相手を中性子にすると、ぐっと引き寄せて結合→重水素になった。
なんだかこなれてきたぜ、ヨウシくん。
すぐさま、もうひとりの陽子を巻き込んで結合→ヘリウム3になった。
つづけて、ヘリウム3同士でガチンコして、ふたりの陽子を蹴り出し、今度はユニット内に残って結合→ヘリウム4になった。
そして憧れのかっこいい合体、トリプルアルファ反応で結合→炭素12になった。
さらには、別のヘリウム4を引っぱり込んで結合→酸素16になった。
ヨウシくんは核融合をくり返し、16人ユニットである酸素原子核内に取り込まれたんだ。
こうしてついに、天体の最も重い芯にまでたどり着いた。
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