第33話・再会
さて、ヨウシくんだ。
まったく、なんというガンコさだろう。
彼は、どれだけ誘惑されても、激しく肩をぶつけられても、他の原子核と結合するのを断固として拒否しつづけたらしい。
一匹狼の立場を貫き、天体の中心部近くにいながら、いまだに水素原子核の姿のままだ。
そして、ずっとエネルギーをみなぎらせ、小さな身でできる限りのことをしてきたんだった。
しかし、もはや進退は極まった。
天体の冷め方、しょんぼりっぷりが尋常じゃない。
天井が低く迫ってくるのをひしひしと感じる。
内側から抵抗する力が回復しないために、外側から押しつぶそうとする圧迫感にされるがままなんだ。
まるで天体の中心部分は、ジュースしぼりマシーンに圧搾されているかのようだ。
このまま芯にいては、やがて牢に閉じ込められ、ぬり固められ、永遠に外に出ることができなくなってしまうだろう。
ヨウシくんは焦る。
くそうっ、そうはなってなるものか。
ぼくは明日の世界をつくるんだ・・・
ヨウシくんは、懸命に脱出を試みる。
しかし、中心部の密度は苛烈を極め、小さなからだひとつで暴れまわってみたところで、どうすることもできない。
万事休すか?
そのときだ。
ヨウシくんのすぐそばで、大きな核融合爆発が起こった。
どっかーん!
ニュートリノたちがエネルギーをかかえ、天体の外部へと盛大に飛び去っていく。
彼らは、エネルギー泥棒だ。
核反応のエネルギーをくすね盗り、ものすごい速さで星の外に持ち出すのが、ニュートリノなんだ。
ここぞとばかりに、ヨウシくんは腹をくくった。
ぼくだって・・・!
脱出の最後のチャンスだぞ、ヨウシくん。
爆発で放出されたエネルギーに、ぴょんと乗っかる。
まるでサーフィンのように。
そして、芯の外側に向けて飛ぶ。
とうっ・・・!
勢い込んだヨウシくんは、いろんな層を突き進む。
はじめは、大きな原子核がミシミシとせめぎ合う芯部だ。
重い酸素や炭素の原子核が入り混じるこの層を、無事に突き抜けた。
次に、ヘリウム原子核が密集している層だ。
ここも通り抜けた。
そしてついに、軽い水素原子核がひしめき合っている層へと抜けだした。
ああ、ぼくの仲間たち・・・!
そこは、プラズマ状態がつづく層で、水素原子核とともに、電子が大暴れしている。
プラズマ・・・なんてなつかしい、このカンジ・・・
ふと、ヨウシくんは思い出した。
50億年前に、この層で起きた出来事を。
そうだ、ぼくは・・・いや、「ぼくら」はこの層で、やっとつくりあげた水素原子をバラバラにされたんだった。
つないでいた手を、ぼくらは離してしまったんだ。
あの頃のぼくは、ひとりきりじゃなかった。
大好きな、大好きなあの子・・・
ヨウシくんは、さがした。
そして、見つけた。
デンシちゃん・・・!
ヨウシくんは、なんと生き別れた愛しのあの子を・・・デンシちゃんを見つけたんだった。
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