第29話・安定から衰退
さて、悠久の昔に戻って、われらが希望のファースト・スターの話だ。
天体の中心部では、相変わらず派手に核融合が行われている。
それにともなう爆発的なエネルギーの放出で、天体は内側からふくらもうとする。
だけど外側からは、大質量が万有引力でもって襲いかかってきて、縮まんとする力も働いている。
膨張と収縮の釣り合いがとれた安定状態で、まさしく現代の太陽と瓜二つだ。
働きざかりをむかえると、天体はミチミチと張りつめ、いよいよ精力をみなぎらせる。
光と熱を盛大に放射し、燦々と輝く。
水素を消費しまくり、ヘリウムを大量生産し、がんがんエネルギーを出しまくる、生涯の最盛期といっていい。
こうして、長い歳月が過ぎていく。
何億年、何十億年と・・・
しかし、悲しいかな、終わりのときというのはやってくるものだ。
そんなにも燃えまくって、いつまでも燃料がつづくわけがないからね。
天体は、輝くのと引きかえに、ゆっくりと身を細らせていく。
やがて、エネルギー源である水素が足りなくなってくる。
そしてついに、それの尽きる日がきた。
つまり、核融合のしすぎで、水素原子核のほとんどがヘリウム原子核にまとまってしまったんだ。
いや、天体の外寄りの層には、水素がたっぷりと取り巻いてはいる。
水素をくれというのなら、うんざりするほどある、といっていい。
なのに、この水素を核融合に用いることはできない。
なぜって?
思い出してほしいのが、天体の中心部の高温と高圧という極端な環境だ。
ギラギラの熱さとギュウギュウの密度を備えた「天然の炉」があってこそ、核融合なんて半マジカルな作業ははじめて可能だった。
だけどそんな好条件の敷地物件は、天体中心部のわずかなエリアにしかない。
実は、その一区画以外・・・つまり天体のほとんどの部分は、密度がスカスカなんだ。
このタイプの天体は、どうしても質量が深部に集中する。
天体の芯の極めてせまいエリアだけが、核融合に適した条件を満たすんだ。
ところが、肝心のその場所が、今やヘリウム原子核でうずめられてしまったというわけだ。
燃焼材料である水素が、炉から手の届く範囲で枯渇してしまったために、火を起こそうにも起こしようがない。
あるのは燃えカス・・・といっては酷だが、核融合を終えて安定してしまったヘリウムばかり。
炉の火は落ちた。
するとどうなるか?
内側からの膨張パワーが弱まれば、当然、外側からの収縮圧の方がまさる。
こうなると、万有引力による加重には容赦がない。
やがて天体は、自らの体重によってつぶれはじめる。
つぶれはじめると、どうなるか?
もうおしまいなのか・・・?
ところが、ここでまた地獄のような高密度のせめぎ合いがはじまるんだ。
そして、再びあの奇跡が起きる。
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