第28話・太陽

いつからか、ヨウシくんは気づいていた。

天体の収縮がとまっているぞ・・・と。

あれほど激しかった周囲からの圧力が、久しくおさまっている気がする。

天体の中心部であまりにも、どっかーん、ばっかーん、と景気よく爆発していたので、その炸裂が天体のすみずみにまで伝わって、重圧を押し返す力となっているらしい。

天体の大質量がのしかかる重みに、小さな小さな原子核たちの生み出すエネルギーが対抗できている。

それどころか、原子核たちのがんばりっぷりは、天体を支配しはじめたかのようだ。

天体全体が炎に包まれ、真っ赤っかに燃えさかっているんだから。

これもすべて、ヨウシくんたちが中心部で核融合をしつづけている効果だ。

天体が押しつぶされそうなのを、内側からとどめることができているのが、ヨウシくんには誇らしい。

壊させるもんか。

なんたってこの大きな燃えるかたまりは、ぼくらの最初の作品だもの。

ヨウシくんは、そして原子核たちは、なおも飛びまわる。

仲間と結び合うことで生まれる爆発力と、そこから放たれる光、熱。

その力が、天体がつぶれるのを防いでいる。

いや、それどころか、この安定感ときたら。

外側からのしかかる力と、内側から支える力が、完全に拮抗しているんだ。

もう少し別の、こういう言い方もできる。

天体が縮むのをヨウシくんたち小さな原子核が阻止し、逆に天体がふくらむのを巨大な質量が押しとどめている、と。

なんともすごいことだよ。

そのおかげで、何十億年間もずーっとずーっと、天体はこうして輝きつづけていられるんだから。

小さな自分たちが力を合わせて引き起こす力の大きさに、そして自然法則の絶妙さ、清さ、正しさ、美しさに、胸を打たれてしまうヨウシくんなんだった。


ところで、こんなシステムを採用している天体が、われわれ現代に生きる人類の頭上にもあると気づいたかな?

そう、太陽。

毎日この地上を明るく照らし、そしてやさしくあっためてくれる太陽は、ヨウシくんたちのファースト・スター(宇宙で最初に生まれた星)とまったく同じタイプの、シンプルなメカニズムの天体だ。

太陽は、水素のかたまりなんだ。

ただし、ビッグバン直後の宇宙最初期に生まれて練りあげられた第一世代の天体ではなく、わりと新しいものだ。

構造は一緒でも、太陽のほうがかなりの後輩ということになる。

ここで、その太陽についてくわしく話しておこう。

われわれの頭上で輝く太陽の真っ赤な燃えさかりようは、もちろんマキや石油を巨人が燃やしてくれているわけじゃない。

ファースト・スターと同様に、核融合反応によるものだ。

水素原子核→ヘリウム原子核という前述したプロセスで、太陽はあのすさまじい光源と熱源を得ているんだ。

わずか一円玉いっこ分の水素原子核がヘリウム原子核に変わるだけで、石油80トンを燃やしたのと同等のエネルギーになるというんだから、太陽の内部で行われている核融合のすごさをわかってもらえるかな。

太陽は毎日、質量を欠損させて少しずつ細りながら、その減り分を莫大なエネルギーに変えて、地球をはじめとした惑星たちを、そして宇宙空間を照らしてくれている。

質量欠損は、1秒間あたり430万トンというとてつもないものなんだけど、太陽は、直径で地球の110倍、質量にいたっては地球の33万倍もあるので、こうした大盤振る舞いをしてもけろりとしていられるんだ。

太陽もまた、生まれてから46億歳というあたりの成熟期だ。

そして、将来もそれくらいの歳月はがんばってくれるらしい。

だけど、その後はどうなっていくんだろうね・・・?

気になるそこの部分は、またずっとあとで話すよ。

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